感性豊かな暮らしのアイデアを本からもらう。本嫌いだったデザイナーの本棚【本棚百景#7】
本棚の中身は、持ち主の脳内や心の中を映し出していることがあります。他人の本棚や読書スタイルというものは、意外に知らないものですが、読む本の変遷は時にその人の生き方さえも表しています。連載【本棚百景】7回目は、栃木県在住ミカさん(仮名)の本棚をご紹介します。
思い思いのスタイルで過ごす読書の時間。本棚の中身は、そのときどきの持ち主の脳内や心の中を映し出していることさえあります。
だからこそ読書とは、もしかすると生きることそのものといえるのかもしれません。連載【本棚百景】7回目は、栃木県在住ミカさん(仮名)の本棚をご紹介します。
■本棚の持ち主 プロフィール
基本的に本棚はない。その時々に気になった本を積んでおく。
レストルームに雑誌。部屋を心地よくコーディネートすることも好き。
デザイナー
ミカさん(仮名)
栃木県在住・女性・42歳・独身・家族と同居
幼い頃は、基本的に、あまり本を読むことは好きではなかった。
高校卒業後、親元離れて千葉の短大へ進学。在学中に選択授業で学んだコンピュータグラフィックスに興味を持ち、デザイン専門学校へ進学。
同時に大好きだったディズニーの世界に憧れ、TDLにてアトラクションキャストとして、週末はアルバイトに励んだ。
やがて、大手印刷会社の下請けデザイン会社に入社。しかし、アパレル業界で勤務したい希望を諦められず、アパレル会社の内勤として、テキスタイルの図案からTシャツのプリントデザイン、POP作成、DMデザインなどを担当する。
興味を感じたものを軸に、何回となく転職する中にプレスやバイヤーも経験。
フリースタイルを求める中に、考えるところがあり、30代後半に東京から実家のある栃木に帰省する。
現在は、看板会社のデザインなどを請け負いながら、フリーランスのデザイナーとして活動中。
■子どもの頃に読んだ本
子供の頃から、文字を読むのが大の苦手。それでも、42年の人生において、忘れることのできない2冊の本との出会いがあった。
1冊目は『はらぺこあおむし』、保育園に通っていた頃に愛読していた絵本だ。幼少時代に誰もが通るであろうこの絵本は、大人になった今読んでも印象深い。幼少時代、そして今も変わらずに影響を受け続けている。
色彩豊かで、工夫に溢れていて……。ワクワク感と共に、その世界観にいつだって引き込まれてしまう。ストーリーを完コピできるほどに、何回も何回も眺めた絵本だった。
デザイナーとしての色彩やアイデアの原風景といっても過言ではない。
2冊目は、小学校の夏休み読書感想文を書くために、最初は仕方なく読んだ『星になったチロ』。
天体写真家の著者が、白河天文観測所の正式天文台長だったときに、北海道犬チロと、星好きな仲間との友情を描いたノンフィクションだ。
読書感想文の題材になった決め手は、写真が多かったこと。
そして、彗星や流星群といった天文ニュースを聞くとワクワクして眠れないほど、星を見ることが大好きだったから、ストライクとしか言いようがない。
その後、縁あって家族の一員となった犬に「チロ」と名づけたほど、影響を受けた本だったといえる。
■学生時代、そして社会人になって読んだ本
ロックにはまった学生時代。
デザインに触れてからは、雑誌からもインスピレーションをもらう。
だからといって、文字を読むことはそんなに好きではない。
特に、これといって大好きな作家がいるわけでもなく、文字を読んでいると、たちまち眠くなってしまう。
世間で人気のベストセラーに手を出したこともあったが、どっぷり浸かるほどのこともなかった。
短大・専門学校時代は、写真集や絵本、もっぱら、ファッション雑誌・音楽雑誌を買い漁る日々を過ごしていた。
女性向けだけではなく、男性向けファッション雑誌も含めて、毎月、何冊もまとめて膨大な雑誌を買い、とにかく写真を眺める。文字を読むのは、どこのブランドで値段はいくらか、というくらい。
田舎出身だったから、雑誌を目にして、感性を磨き、流行に敏感でいたいと心のどこかで思っていた。
本を読むことは好きではないが、本屋の空間を楽しむことは好きだった。何時間でも滞在して、アイデアの引き出しにしようとビジュアルから入る情報を心に詰め込んでいた。
そういえば、ロックに目覚めたのもこの時期。今にして思えば、学生だからこそ許されていた、趣味にどっぷり浸かることができる、優雅で贅沢な時間だったと思う。
社会人となり、好きな仕事とはいえ、ハードな日々を過ごしてきた。76世代前後は、異なる世代の強烈な価値観に挟まれて、社会における苦労も大きい。
デザインの関わる職場や仕事をいくつも経験し、人間的にも成長できたと感じている。
30代になり、実家に戻ってから、少しずつ本を読むようになった。
病院の待合室で、たまたま手にとった『ディズニーおもてなしの神様が教えてくれたこと』。
学生時代にTDLでアルバイトしていた頃、この類の本は一切目にしてこなかった。“サービスとおもてなし”の違いについて書かれた一節に、素直に感動。しっかり読みたい衝動で、迷わず本屋へ向かった。
本屋にあったシリーズ本、すべてを大人買いしてしまったほどだ。
社会人として、ひとりの大人として。たくさんの経験を積んだから今だからこそ、これからの人間関係において、必要なコミュニケーションの教科書のように感じた。
学生時代にキャストとして働いていた経験さえも、誇らしく感じ、自分自身を省みるきっかけとなった。自分の心の本棚に、常に入れておきたい1冊になった。
■本を読み、感性豊かに暮らすヒントを得る
料理本は見ているだけでも楽しい。
大人になって気づいた“パン好き”。ブックカフェで憩うひととき。
フォトジェニックなカフェメニューはデザインの参考になる。
最近は、美味しそうなパンが掲載されている雑誌や本を見かけると、思わず買ってしまう。どうやら自分は“パン好き”らしいと、雑誌や本のビジュアルを通して、改めて知った。
料理本の写真を見るのも大好きだ。SNSにアップするほどでもないが、オーダーした料理・スイーツを撮ることは、食事前のルーティーン。
昨年、気に入っているブックカフェの中にパン屋が併設された。
ブックカフェ、雑誌・本、そしてパン。東京を離れて自分を見直しながら、好きなものを発見する日々。
フリーランスデザイナーとしての出発とともに、心身をリフレッシュできる空間が増えたことに、幸せを感じる。
本はあまり好きではなかったはず。だけど、いつも本は人生の近くにある。
デザインとは何か、自分は何が好きなのか……。感性豊かに仕事し、生活するインスピレーションを、本はいつも与えてくれている。