【Instagram】盛って嫌われる人、愛される人
Instagramは写真アプリである以上、キレイな写真を撮りたくなるのは当然の考え。しかし、「キレイな写真」ばかりを撮ることで好感度を上げる人と、下げまくる人がいます。いったいこの正体は何か。
■ホテルのロビーで必死に写真を撮る若い女性たち
私は結婚相談所を経営しているという仕事柄、結婚式に呼ばれる機会が多い。たいていは豪華なホテルでの披露宴だ。この仕事を初めて8年目だけれども、ここ2〜3年で、「あれ?」という光景に出くわすことが多くなった。
それは、ホテルのロビー前で写真撮影をする人が増えたこと。
とくに装飾品を背景にしてスマホでパシャパシャと女性たちが写真を撮り合いっこしている。そして、撮影が終わると、スタスタと帰っていく。
「最近こういう人増えてきたね」と夫に話しかけたところ、
「彼女たちはここには泊まっていないよ」とボソッと答えた。
「いくら軽装とはいえ、小さなハンドバッグひとつで泊まらないでしょう」
――言われてみれば、彼女たちは旅行カバンらしきものはひとつも持っていない。そんな人たちが現れては消え、現れては消えしている。
一体何のためにこんなことをするのか。
たしかに、ホテルの装飾品はキラキラしていて写真映えする。これをフォトジェニックというらしい。しかし、泊まってもいないホテルでなくても、フォトジェニックな写真なんていっぱいある。
空、緑、イルミネーション、高層マンションから撮った風景……。
そんなふうに頭を思い巡らしていたとき、夫が私の怪訝な顔に気がついて言った。
「泊まったことにして、写真を撮ったりもするんだよ」
映像の世界で何十年も働いている夫から貴重な話を聴くことができた。
■泊まってもいないホテルでフォトジェニックな写真を撮る真理
「ねえ、泊まってもいないホテルで ”泊まりました” なんてInstagramにアップするのって、なんだか惨めじゃない? 私だったら恥ずかしくてできないわ。それに友達がそんな嘘の写真を撮っているなんて思ったら、もうInstagramが一気に面白くなくなる」
私はブツブツと夫に話をしながら、受付をすませ、会場でウェルカムドリンクを受け取った。逆三角形のキラキラした高級なグラスに淡いピンクのシャンパンが注がれる。その上にチェリーが浮かんでいた。
「わあ、キレイ!」私はそう言って、手でそのグラスを持ち上げ、スマホを握った。
「まさにこれだよ!」夫は、突然納得したように私に話しかけた。
「は?」
「君がやろうとしていることは、さっきホテルで写真撮影をした女性と本質は変わらないよ」
「どういうこと?」
「なんでいまこの写真を撮ろうとしたの?」
「えっと……。普段見ないようなキレイなシャンパンだから」
「普段見ないようなキレイなシャンパンなら、なぜそれを写真に撮りたいと思ったの?」
「えっと、Instagramにアップできるようなキレイな写真だなと思ったから」
「じゃあ、なぜ撮った写真をInstagramにあげようとしたの?」
「それは……」
そこで私は、キレイなシャンパンの写真をInstagramでシェアをしたいと思った自分の動機に気がついた。
「こんなキレイなシャンパンをいただいちゃっているのよ〜と自慢したい気持ちがある」
「シャンパンを自慢したいの? 他にも自慢したいことあるんじゃない。この写真にどんな文章を付けたかったの?」
「そうだね、”結婚式にお呼ばれしました”って書くつもりだった」
「つまり、素敵な結婚式に呼ばれたことを言いたいんだよね」
「あ、他にも言いたいことがある」
なんだか、写真1枚で自分の心の闇がえぐられるようだ。
「”私は仲人として成婚の実績をあげています”とか”こんな素敵な飲み物を飲める身分です”とか思ってほしいかも」
「そうなんだよ、結局ね”こう自分のことを思ってもらいたい”っていう願望が写真に出てるってことなんだよ」
■フォトジェニックな写真から伝わる「心の輝き」「心の闇」
つまり、フォトジェニックな写真には、「周りの人から自分はこう評価されたい」という願望が強く現れるということなのだ。そして、その感情というものは、写真と本人にギャップがある場合はとくに、周りの人に透け透けになってしまう。
「この人自分のこと○○と見られたいのね、ふっ」と少し馬鹿にされるような感情を持たれてしまう危険性があるということなのだ。
夫との会話はこう続いた。
「じゃあさ、フォトジェニックな写真を撮るだけ高感度下げたり、見栄っ張りと思われたりして損だよね」
「いや、それは違う」
夫は、次のように説明してくれた。
「君も、ホテルの写真を撮っていた人も、動機は自分への評価だったよね」
「あ、そうだね。一緒なんだね……(私は結婚式に本当に呼ばれているのに、ムキー!)」
「自分以外の人のためにフォトジェニックな写真を撮ればいいんだよ」
「なにそれ?」
「たとえばさ、新婦の友人が手作りしたウェディングケーキが出てきたとするでしょう。それを撮る。そのとき、なんて文章を入れる?」
「”新婦の友人が作ったケーキ、素敵!”とかかな」
夫は、顔がパーっと明るくなった。
「そうなんだよ。その写真をキレイに撮ったらさ、伝わるのは新婦の友人の手の込んだ愛だよね。もう君の話じゃなくなっている。その友人がどんな友情を持って、そのケーキを作ってくれたのかっていう温かい物語ができる」
さらに夫はこう続けた。
「物語には美しい写真を添えるべきだよ。だからこの場合のフォトジェニックな写真はめちゃくちゃいいんだよ。フォトジェニックは、自分のためではなく、誰かのために使う。それが盛られた写真であっても何ら問題はない」
フォトジェニックな写真を自分のために使えば、見栄っ張りな気持ちが透ける。でも、他人のために使えば、感動が生まれる。そしてその感動をシェアしてくれたその人の評価が上がる。
SNSにアップするフォトジェニックな写真は諸刃の剣なのだ。
婚活アドバイザー。自ら経営する結婚相談所で7年で200組以上のカップルを成婚へと導く。