歌舞伎座は初心者でも楽しめる! 常識を逸脱した日本のエンターテインメントを遊び尽くそう
歌舞伎座に出かけたことはありますか? 伝統芸能って難しそうだし……歌舞伎座なんて敷居が高いし……そもそも歌舞伎なんてよくわからないから……。そう考えて、一度も覗いてみないのはもったいない。一歩足を踏み出してみれば歌舞伎は意外なほど親しみやすいし、歌舞伎座へのお出かけ自体が実に楽しいものなのです。
こんにちは、島本薫です。
雨模様だった夏が終わり、本格的な暑さが訪れましたね。
今回は、暑い夏を涼しく過ごす工夫のひとつ「納涼歌舞伎」と、初めての人におすすめしたい歌舞伎座の楽しみ方をお届けします。
■歌舞伎座デビューにおすすめの「納涼歌舞伎」
歌舞伎って、いろいろな意味で敷居が高い……?
そうですね、難しくて堅苦しそうなイメージはあるし、教養がないとわからなそうだし、チケットもいいお値段らしい、と聞けば、何かのきっかけでもない限り足を運びにくいものでしょう。
おまけに、上演時間が泣き所。昼の部は11時開演、夜の部は16時半開演とあれば、勤め人は気軽に観に行くことなど叶いません。
ところが、8月の「納涼歌舞伎」だけは違うのです。
暑い時期は、長い時間お芝居を観ているのもつらいだろう。ならいっそ、3部制にして上演時間を短くすれば、チケット代も安くできるし、夕方から仕事帰りの人も来られるのでは?
――そんな歌舞伎役者たち(故十八世中村勘三郎、十世坂東三津五郎)のアイデアで、1990年から始まったのが「八月納涼歌舞伎」です。
開演時間はそれぞれ11時、14時15分、18時半(第3部なら、平日でもぎりぎり駆けつけられるかも……?)。チケット代も、普段より1000~3000円安くなっています。
演目も、夏だけに「ひんやり」する怪談話や「はっとする」謎解きものなどが多く、肩ひじはらずに楽しめるものが多いのです。
今年2017年は、ミステリー仕立ての新作「歌舞伎座捕物帳」(なんと弥次さん喜多さんが歌舞伎座で“黒衣のアルバイト”をして江戸への旅費を稼ぎつつ、連続殺人事件を解く!)や、野田秀樹さんの代表作を歌舞伎に仕立て直した「野田版 桜の森の満開の下」(演出も野田氏が担当)が上演されるなど、新しい試みも盛りだくさん。
■ジャニーズに初音ミク、漫画にオペラに絵本に落語――歌舞伎の入り口は意外と広い
お堅い伝統芸能かと思いきや、決して保守的なものばかりではないのが歌舞伎のすごさ。
それもそのはず、歌舞伎という名の由来となった「傾く(かぶく)」には、「常識を逸脱する」という意味があり、今なお「やったことのないことをやる精神」が息づいているのです。
例えば、“和と洋のコラボレーション”をテーマにフラメンコを取り入れたり、「美女と野獣」を歌舞伎化したり。このときフラメンコを踊って高い評価を受けたのは、タッキー&翼の今井翼さん。イスパニアの神父で、石川五右衛門の父親でもあるという、歌舞伎ならではの設定でした。
2016年の納涼歌舞伎では、笑福亭鶴瓶さんの新作落語が歌舞伎になりましたし、野田秀樹さんの演出でオペラ「アイーダ」を翻案した「愛陀姫(あいだひめ)」が上演されたことも。
ちなみにジャン・コクトーの映画『美女と野獣』の野獣の造形には、歌舞伎「鏡獅子」の獅子の精が影響していると言われています。取り入れるばかりではなく、影響を与えてもいるのが、歌舞伎のすごさですね。
また、名作絵本『あらしのよるに』や人気漫画『ONE PIECE』も歌舞伎になり、大当たりを取りました。なお、スーパー歌舞伎II「ONE PIECE」は、今年の秋にバージョンアップして新橋演舞場に帰ってくるそうです。
さらには歌舞伎とテクノロジーを融合した「超歌舞伎」なるものも誕生。ボーカロイドの人気キャラ「初音ミク」が役者と“共演”し、音響や立体映像を駆使するほか、ニコニコ生放送での中継時には観客も書き込みで舞台に参加できるという斬新な演出をしています。
伝統的な試みの方も負けてはおらず、今年10月の歌舞伎座では、インドの叙事詩「マハーバーラタ」が新作上演されるとか。
一方、新しいものに取り組みながら古典の規範を守り、次の世代に伝えていくのが歌舞伎の神髄といえるでしょう。海老蔵さんのご長男が最年少で宙乗りを務めたのは記憶に新しいところですが、子役のデビューを見守るのも楽しければ、お祝いムードいっぱいの襲名披露公演で口上を聞くのも楽しいもの。歌舞伎の入り口は意外と広いのです。
■歌舞伎初心者がより楽しむための3つのポイント
演目や出演者など、何か興味を惹かれるものに出会ったら、そのときこそ歌舞伎座探検の狙い目です。初めて歌舞伎を観にいく人は、この3点を押さえておけば、より楽しめると思いますよ。
その1:「花道」が見える席を選ぼう
歌舞伎座の座席には、1階から3階まで、1等席、2等席、3階A席、3階B席、桟敷(さじき)席といった細かい区別があります。
できればここは奮発して、1等席か1階の2等席を選びたいもの。なぜなら、歌舞伎には、舞台下手から客席を横断するように続く「花道」という特別な舞台があるからです。
残念ながら、2階席や3階席の後ろでは、この「花道」の演技が見えません。役者の声や観客のどよめきだけが聞こえるのはさみしいですし、めったにない観劇の機会であれば、すべてを堪能したくはありませんか? というわけで、ここは贅沢のしどころと思い、いい席で観ることをおすすめします。
その2:「イヤホンガイド」を借りよう
「難しくてワカラナイ」歌舞伎を面白くしてくれる縁の下の力持ちが、イヤホンガイドです。
あらすじや物語の背景、音楽や衣装の説明などが、絶妙のタイミングで流れてくる優れもの。役者が登場すればすかさず名前を教えてくれ、舞台化粧にまぎれて目当ての役者を見逃すこともありません。
そんなものを聞いていると、かえって舞台に集中できないのでは?
――はじめはわたしもそう考えていましたが、使ってみて大正解。決して出過ぎず、それでいてツボを押さえた解説が、なんとも心地良く舞台を盛り上げてくれるのです。とくに初めて歌舞伎を観るなら、ぜひイヤホンガイドを。
イヤホンガイドは、劇場や歌舞伎座の地下で借りられます。レンタル料は、700円プラス保証金1000円(こちらは機材の返却時に返金されます)。芝居の幕が上がる前にも舞台の見どころや役者さんのインタビューなどを聞けるので、借りたらすぐ耳にセットしておくといいですよ。
その3:開場したら、すぐ劇場に入ろう
当日は、開場と同時に劇場入りできるように余裕をもって出かけましょう! 劇場のしつらえから着物で行き交う人の姿まで、歌舞伎座の中は楽しいものだらけ。いくら時間があっても足りません。
まずは売店へ。
クリアファイルやポストカードといった定番商品から、歌舞伎をかたどったおもしろ文房具やしゃれた一筆箋、ハローキティのコラボ商品、ザ・ギンザのあぶらとり紙、扇子に印鑑に根付といった和の小物など歌舞伎座ならではの品があふれていて、見ているだけでワクワクすること請け合いです。
グッズにとどまらず、ここだけのお菓子もずらり。
お煎餅に人形焼き、チョコにサブレにマカロンラスク、もちろん“歌舞伎揚げ”も忘れてはなりません。お茶や佃煮もならび、あの人にこの人に、自分にもと、お土産を選んでいるとあっという間に開演時間が来てしまいます。うかうかすると、全部の売店を回り切れないこともあるくらいですから、ぜひとも早めに劇場入りしたいところです。
幕間には、食事も楽しめます。
劇場内には食堂もあれば、いろいろな種類のお弁当や焼き立てのパン、スイーツも販売されています。近くのデパ地下でリッチなお弁当を買っておいて、座席で食べるのもいいですね。
■気軽に歌舞伎を楽しむなら「一幕見席」、歌舞伎座ギャラリーや木挽町広場も楽しさ抜群
できればゆっくり時間をとって、自分へのご褒美として楽しみたいのが歌舞伎。ですが、なかなかそうもいかなかったり、まずは少しばかり歌舞伎の世界を覗いてみたい人は、「一幕見席」で体験してみてはいかがでしょう。
手ごろな値段で好きな幕だけを鑑賞できるのが、「一幕見席」のいいところ。こちらは一幕につき、ひとり1枚、当日券のみの扱いで、席はすべて4階の自由席(立見を含む)になります。
雰囲気だけを味わうなら、歌舞伎座タワーで遊び倒すという手もあります。東銀座駅に直結した地下2階の木挽町(こびきちょう)広場では、歌舞伎グッズや歌舞伎スイーツが売られていて、お祭りのような賑わいぶり。
エレベーターで5階に上がれば、実際に使用された衣装や小道具、セットの一部などが展示されたギャラリーがあります。地下とは違って落ち着いたムードのお土産処もあれば、お茶と海苔の老舗による日本茶カフェで、和のスイーツを楽しむこともできます。
桜や石塔のある屋上庭園でほっと息をつくのもいいですね。「スタジオアリス歌舞伎写真館」で、歌舞伎の登場人物になりきって写真を撮るのも一興かも?
銀座にお出かけの際は、歌舞伎座タワーに立ち寄ってみてくださいね。
参考
歌舞伎座
http://www.kabuki-za.co.jp/
歌舞伎公式総合サイト「歌舞伎美人」
http://www.kabuki-bito.jp/