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シネマ歌舞伎入門「籠釣瓶花街酔醒」

「シネマ歌舞伎」を見ながら、歌舞伎のおもしろさを紹介。 なんと、「シネマ歌舞伎」をプロデュースする松竹株式会社 演劇開発企画部 事業室長 松本宗大さん、直々の解説つきでした。

シネマ歌舞伎入門「籠釣瓶花街酔醒」

現・海老蔵さん(当時、新之助さん)の源氏物語の光の君を見て、
歌舞伎にはまって十数年。観劇500回を超えた私が雑誌「DRESS」着物部&映画部 シネマ歌舞伎入門「籠釣瓶花街酔醒」をリポートいたします。

「シネマ歌舞伎」を見ながら、歌舞伎のおもしろさを紹介。
なんと、「シネマ歌舞伎」をプロデュースする
松竹株式会社 演劇開発企画部 事業室長 松本宗大さん、直々の解説つきでした。
歌舞伎を知りたい初心者にもわかりやすく、また、私のようなもっと知りたい人まで、よそでは聞けないお話もあり、感激の機会でした。

まず、松本さんは歌舞伎志望で松竹に入社されたそうですが、最初の配属はテレビ部門で、
テレビ時代劇「鬼平犯科帳」のプロデューサーとして京都と東京と行ったり来たりし、
20代を鬼平三昧でお仕事された後、映画宣伝部へ。
寅さんで有名な山田洋二監督の山田組の映画を担当されました。
そして、歌舞伎座や新橋演舞場の監事室と宣伝部で歌舞伎と携わり、現在の部署へ。
時代劇の現場や監事室での貴重なエピソードに、ワクワクしました。
監事室は松竹ならではの機構で、歌舞伎がお客様に滞りなく届くように、表と裏をつなぐ仕事をします。

「シネマ歌舞伎」は50本のマイクで劇場の臨場感を再現
松本さん「歌舞伎や舞台は生で」と思うのもわかるのですが、「シネマ歌舞伎」は寄ったり引いたりのカメラワークで、生の舞台とは別の視点を得られて見やすいです。
50本のマイクで拾った立体的な音がリアルな劇場空間を再現。
揚幕の開くチャリンとした音も左後方から聞こえます。
映画会社でもあり、超一流の技術をもった山田組のスタッフが撮影・編集し、こだわりを持って作っています。」
→「シネマ歌舞伎」http://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/

『シネマ歌舞伎』は今年10周年

「『シネマ歌舞伎』は今年10周年。だいぶ作り方も変わってきました。
昨年、チケットがすぐに完売した渋谷・コクーン歌舞伎の「三人吉三」が、今年6月「NEWシネマ歌舞伎」になりました。
中村勘九郎さんと七之助さんの兄弟、尾上松也さんの人気若手俳優が出演。河竹黙阿弥の名作を串田和美さんが斬新に演出した話題の舞台でした。
その舞台を「シネマ歌舞伎」で再び、しかも安く、映画館という最高の音響と大画面で楽しめます。
3時間の長い舞台を2時間15分に濃密に、串田さん自らが編集し、生で楽しんだお客さんも、舞台裏などまた違う角度から楽しめると好評でした。
今後も新しいシネマ歌舞伎を作っていかなければと思っているところです。」
→ NEWシネマ歌舞伎「三人吉三」http://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/29/

シネマ歌舞伎「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべいさとのえいざめ)」

シネマ歌舞伎「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべいさとのえいざめ)」を観賞

そして、 歌舞伎座立て替え前のさよなら歌舞伎公演で、忘れられない最高の舞台
「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべいさとのえいざめ)」の名場面をピックアップし、
歌舞伎の裏話も含めて、解説いただきました。

中村勘三郎さんと坂東玉三郎さん、片岡仁左衛門さんという豪華な三人の顔あわせです。
→「籠釣瓶花街酔醒」http://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/20/

松本さん「『籠釣瓶花街酔醒』は、明治21年初演の比較的新しい歌舞伎で、当時、実際にあった殺人事件が元になりました。
原作は8幕ですが、現在では5幕目の華やかな吉原での花魁道中が見られる「見初めの場」から上演されます。

あばた顔の醜男で、田舎出身の仕事一筋な次郎左衛門(勘三郎さん)が、土産話に吉原の花魁道中を見に行ったところ、
吉原一の花魁の八つ橋(玉三郎さん)のあまりの美しさに一瞬にして恋に落ちます。「見初め」と言います。」

「見初めの場」

江戸時代にタイムスリップしたような花魁道中の華やかさ。
玉三郎さんが勘三郎さんに、誘っているのかあしらっているのか、なんとも形容しがたい表情で妖艶に微笑むシーンでは、
客席が水を打ったように静かになる劇場の雰囲気を映像から感じ取ることができました。

松本さん「吉原の遊郭は男性だけなく女性も子供も遊びに行きました。
吉原の中央にあった名物の桜は毎年3月に植替えをするなど贅沢な場所でした。
今のディズニーランドのようで、派手できれいな花魁道中はさながらエレクトリカルパレードです。
当時の江戸文化を見るには浮世絵くらいしかありませんが、芝居にすることで江戸の文化を、歌舞伎は冷凍したようにそのまま伝えています。
江戸のいろいろな言葉や事柄が歌舞伎の道具帳や美術の絵で記録され、芝居だから残せたとつくづく思います。
現代人にはわかりにくい言葉も、舞台でのやり取りを聞いていると「なるほど」と興味深いことばかりです。
歌舞伎の本も数多く出ています。わからないところを本などで謎解きしていけるのも歌舞伎のおもしろさの一つではないでしょうか。」

「八ツ橋さんの扮装も、歌舞伎の中でも助六と並んで、1位2位を争う豪華さで、衣装は30kg、鬘は3kg弱、30センチの高下駄は3kgあり、男性でないとできないと思います。
女に見せるために体に無理をさせることを「体を殺す」と言いますが、女形さんの太ももはアスリート並みの太さで鍛えられています。」

「花魁のまな板帯にある、かきつばたに八つ橋の図柄ですが、伊勢物語や古今和歌集で業平が詠んだ「からごろも 着つつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」のモチーフを表しています。
歌舞伎の中に隠された記号や文様を探していくのも楽しさの一つです。」

「花魁が通りすぎたあと「もう宿に帰るのがいやになった」と勘三郎さんが笠をすっと落とすところに心情の変化が見られます。
俳優さんによってあばた顔の作り方も違い、それぞれ役の工夫を見るのもおもしろいです。
シネマ歌舞伎は、カメラが寄れるので、まな板帯や下駄の三枚歯など細かいところもしっかり見られます。」

「縁切りの場」

絹商人で金持ちの次郎左衛門(勘三郎さん)は、惚れた花魁の八つ橋(玉三郎さん)に通い詰め、ついに身請け話が出ます。身請けの値は千両。
一両は約8万円、その他の経費も足すと1億円もの大金。
身請けだけが唯一、虚から実の世界へ、遊女が吉原を出て一般人になれる方法でありがたい話でした。
ところが、花魁には繁山栄之丞(仁左衛門さん)という恋人がいて、断ってしまいます。
断られるとは思ってもいない次郎左衛門(勘三郎さん)は、見せびらかそうと故郷の仲間まで連れてきていたのに、花魁に裏切られ愛想尽かしされます。

松本さん「自慢気な勘三郎さんが一気に意気消沈するところのお芝居も見どころです。
「見初め」と「縁切り」はいかにも歌舞伎な場面ですが、『籠釣瓶』の「見初め」と「縁切り」は歌舞伎の中でも一番有名だと思います。
また、下手から栄之丞(仁左衛門さん)がいい男ですっと出てくるのもおいしい役どころですよね。
ちらっと栄之丞を見た勘三郎さんは、こいつが八つ橋の男だったかとすべてを悟り、破談をその場では納得します。」

「大詰めの場」

数ヶ月後、次郎左衛門(勘三郎さん)は再び、吉原の八つ橋(玉三郎さん)を訪れます。
当時、魔力があると有名だった妖刀「籠釣瓶」を手に持っていました。

松本さん「籠釣瓶(かごつるべ)の名前の由来ですが、井戸の水を汲む釣瓶が籠だと水漏れていくことから水もたまらぬ早さで切れるという意味がありました。
「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべいさとのえいざめ)」の「花街(さと)」は吉原のこと、「酔醒(えいざめ)」で夢から現実に、この7文字のタイトルで表しています。
歌舞伎の題名には、縁起をかついで7文字、5文字など奇数の数が多いです。
「仮名手本忠臣蔵」の「仮名」も47文字あり四十七士を意味し、工夫を凝らした題名の謎ときを知るのも楽しみの一つかもしれません」

歌舞伎の楽しみ方は自由 ~きれいを楽しむ~
「『籠釣瓶』は男女の三角関係から怒った男が女を切って終わりという簡単なストーリーですが、背景がおもしろいところが歌舞伎の魅力だと思います。
監事室時代、会社からお金をもらって朝から晩まで歌舞伎を見るという恵まれた部署でいろいろ見ましたが、「身替りお俊(みがわりおしゅん)」というあまり上演されない狂言がかかりました。
毎日見てもさっぱり意味がわからない。その当時の重役に聞くと意味なんてかわからなくていいんだよと。
ストーリーがわからなくても俳優がきれいで役者がきれいであればと言われて、なるほどそういう見方でよいのかと。
みなさん、気持ちよくて寝ちゃうこともあると思いますが、見所でバタバタと附けを打って起こしてくれるからそれでいい、見方は自由でいい。歌舞伎は気取っていて難しいと思われがちですが、自分の感性でご覧になったらいいと思います。」

歌舞伎に興味をもつきっかけはいろいろ
「学生のとき、私は色と衣装に惹かれました。一番いいのは俳優から入る。玉三郎さんを見てみたい、仁左衛門さんが人間国宝になったニュースで見に来るのでもいいです。
勘三郎さんが亡くなられましたが、息子の勘九郎さんが本当に良くて、会うたびにお父さんに似てきている。
楽屋を出てきた勘九郎さんを見て涙が出てきたことがあります。お父さんがのりうつったんじゃないかと。今月は赤坂ACTシアターでご兄弟の七之助さんとで「赤坂大歌舞伎」を公演しています。 (リンク:http://www.tbs.co.jp/act/
若手の俳優さんだと、三津五郎さんも亡くなられて本当に悲しいですが、不思議なもので責任感なのでしょうか、息子の巳之助さんがどんどんよくなっている。次の世代の若手がどんどん育ってきています。」

「シネマ歌舞伎」で気軽に楽しむ
「きっかけは役者でも衣装でも音楽でもどんなものでもいいです。
どうか、このなかの一人でも歌舞伎への興味を一つでも見つけてもらえたらと思います。
自分が興味をもった事柄から歌舞伎を知っていく。
そういう歌舞伎の入り方が一番入りやすいのかなと思います。
「シネマ歌舞伎」は音響と映像の優れた映画館で2100円と安く見られて、敷居が低く、オススメです。歌舞伎を好きになってくれるきっかけになればと思います。」

オペラの「METライブビューイング」もあります
「歌舞伎とオペラとシェイクスピアには共通点があり、西暦1600年頃、誕生しました。400年前にできた演劇が現代でも残っています。
歌舞伎に関しては、松竹は今年120周年ですが、400年の歴史のうち120年は、松竹が一般企業として民間が運営しています。
京都の芝居小屋の興行主になったのが始まりで、そのあとに映画が誕生しました。
映画やテレビでの映像手法は、歌舞伎ではすでにあり、「だんまり」はスローモーション、「見得」はストップモーションです。歌舞伎もオペラも一番長く作っているだけあって、奥深いです。」本日はどうもありがとうございました。
→「METライブビューイング」http://www.shochiku.co.jp/met/

今後の「シネマ歌舞伎」上映紹介

●スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」2015年11月28日(土)~2015年12月 4日(金)  全国上映
http://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/22/

「シネマ歌舞伎」公式サイト
http://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/

東出 りさ

日本の古典文学と歌舞伎が大好き。日本国内各地・世界での歌舞伎観劇500回以上。観劇のしすぎで最近は、腰元や花魁などの時代扮装にも少しはまっています。ちょこちょこ映画のことも書きます。文京区在住。文学部日文科卒。

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