歌舞伎とフィギュアスケートの華麗なる融合。荒川静香も出演する「氷艶 hyoen 2017―破沙羅―」
歌舞伎俳優、市川染五郎とフィギュアスケーター荒川静香・髙橋大輔を中心とする氷上の歌舞伎、「氷艶 hyoen 2017―破沙羅―」。この想像を遥かに超える素晴らしいコラボレーションの模様をお届けします。
こんにちは、島本薫です。
あれはもう半年も前のこと。日本の誇る伝統芸能「歌舞伎」と、氷上の妙技「フィギュアスケート」のコラボレーションが誕生する……と聞いて、新たな表現の可能性に胸が躍りました。同時に、どうやって? どんなふうにコラボするの? という疑問も頭をかけめぐったのです。
いったい、どんなものが誕生するんだろう?
氷上に繰り広げられたのは、期待を遥かに、鮮やかに超える作品でした。今回は、世界初の壮大なエンターテインメント、「氷艶 hyoen 2017―破沙羅―」の世界をお届けします。
■「破沙羅」あらすじ:神話の世界で出会う、さまざまなキャラクター
氷の世界に女神稲生(荒川静香)が現れ、「夢を見せてあげよう」と物語が始まる。
遥か神代の昔、氷の国を治める天の神を迎えようとする猿田彦(中村亀鶴)。その妻、天鈿女命(あめのうずめのみこと:村上佳菜子)の舞に応え、天の国から瓊瓊杵尊(ににぎのみこと:織田信成)が下ってくる。
妃として岩長姫(市川笑也)と木花開耶姫(このはなさくやひめ:浅田舞)の姉妹が遣わされるが、尊は美しい妹姫一人を妻に望む。恨みに燃える姉の岩長姫は、念力で歌舞伎の世界の大悪人、仁木弾正(市川染五郎)を呼び出し、尊と妹を捕えてしまう。
二人を取り戻すべく、猿田彦は芝居の国の英雄、源義経(髙橋大輔)を呼び出す。想い人、静御前(鈴木明子)の幻に勇気づけられた義経は、悪との決戦に向かう……!
■新たな表現を突き詰めた「破沙羅」の魅力
1.スケート靴を脱いだスケーターとスケート靴を履いた歌舞伎役者
物語の始まりを告げる女神は、まさしく「天から降りて」登場。女神としての圧倒的な存在感を放つ、荒川静香さんの神々しさが、一気に観客を不思議な世界に引き込んでいきます。
氷上に「舞台」を設け、歌舞伎とスケートを分けてしまうのではなく、リンク全体が舞台となり、双方の演技がひとつになる世界。
氷上に朗々と声を響かせる俳優陣。自らの滑りでキャラクターを表現し、物語を紡いでいくスケーターたち。歌舞伎にはもともと「踊り」の要素が入っているためなのか、伝統にあぐらをかかず常に新しさを求める「傾く=かぶく」精神が息づいているためなのか、ごく自然にふたつの世界が溶け合って物語が進んでいきます。
主として「善」にはスケーター、「悪」には歌舞伎俳優が配され、それぞれの「芸」や「技」を披露。スケーターが剣を手にして殺陣を見せるかと思えば、歌舞伎役者はスケート靴を履いて立ち回りに参戦します。互いにどれほど練習を積み重ねたことでしょう。腰を落とし膝を曲げる日本舞踊の所作は、スケートに役立ったということです。
市川染五郎さんはサーカスさながらのアクロバティックな宙乗りを始め、剣を片手にスケート靴で滑走。学生時代はアイスホッケー選手だったという市川笑也さんは、重たい衣装の裾をなびかせて危なげない滑りを見せ、なんと氷上で「毛降り」(連獅子などでおなじみの、長い髪をぐるぐる振り回す所作)まで披露するサービスぶり。
一方、髙橋大輔さんも、歌舞伎風に見得を切って登場したかと思えば、第二幕ではスケート靴を脱ぎ、三味線にあわせて「和」の世界を踊りで表現。これにより会場は喝采に包まれました。
愛らしい村上佳菜子さん、貴公子然とした織田信成さん、美しく可憐な姫君がぴったりの浅田舞さん、抑えた表現の中に強い想いを載せて舞う鈴木明子さん、それぞれの表現力にも目を奪われます。
2.スピードとスペクタクル――大迫力の立ち回りと、それを支えるアートの力
なんといっても、戦いの場面は圧巻。善と悪とが入り乱れ、スケートならではの疾走感で氷上を駆け抜けるかと思えば、上空からは大蛇が襲い掛かり、ドラゴンのごとく身をくねらせ、アクション俳優も加わって、文字通りの「大立ち回り」が繰り広げられます。
これをさらに盛り上げるのが、映像と音楽の力です。
氷上に桜吹雪や炎、大海原を出現させるのはプロジェクションマッピング。戦闘シーンに限らず、鮮やかな色彩で氷上を彩ります。
一幕・二幕のクライマックスに登場する和太鼓エンターテインメント集団「DRUM TAO」は、ダイナミックな演奏を響かせ、血沸き肉躍るとはこのためにある言葉かと思うほどリンク内は白熱。
人物を彩る衣装やメイクも見逃せません。演出の市川染五郎さんの世界観をもとに、歌舞伎とフィギュアスケート双方のデザイナーが工夫を凝らしたとあって、どの衣装も実に氷に映えること。ヘアメイクなどはVOGUE JAPANが担当し、歌舞伎の様式を活かした艶やかな美が表現されています。
■「氷艶 hyoen」から新たな表現の可能性を見る
演出の市川染五郎さんは、「『歌舞伎っぽいアイスショウ』ではなく『氷上の歌舞伎』を」と言い、「お互いが未知の世界に入り、混ざり合い、新たな挑戦を経て融合する」新たな表現を追求しました。
これを受け、髙橋大輔さんと荒川静香さんも、「ジャンプやスケートではなく、物語を見せ『演じる』という新たな表現の可能性が見えた」「今回のコラボレーションを、スケートの表現の一つとして獲得したい」と話し、今回の挑戦をフィギュアスケートの表現の幅を広げるチャンスだ捉えているそうです。
「どこをとっても美しくなければならない」という共通項から出発した、歌舞伎とフィギュアスケートのコラボレーション。
「氷艶」の「en」とは、演じるの「演」であり「縁」だということです。ここから、どんな新しい表現が生まれ、育っていくのか楽しみで仕方がありません。もちろん、この「氷艶 hyoen 2017―破沙羅―」が、「氷艶 hyoen 2018」「氷艶 hyoen 2019」となって帰ってくることを、心から願っています。
今後はこうしたテクノロジーや多ジャンルのアートが組み合わさり、新たな表現を作り出すエンターテイメントが増えてくるのかもしれません。これからどんな新しいイベントが出てくるのかチェックしてみてはいかがでしょうか。
■「氷艶 hyoen 2017―破沙羅―」:作品紹介
特設サイト
http://hyoen.jp/
仁木弾正直則 : 市川染五郎
源九郎判官義経 : 髙橋大輔
女神稲生 : 荒川静香
岩長姫 : 市川笑也
奴江戸兵衛 : 澤村宗之助
鬼佐渡坊 : 大谷廣太郎
猿田彦後に武蔵坊弁慶 : 中村亀鶴
静御前 : 鈴木明子
瓊瓊杵尊(ににぎのみこと): 織田信成
木花開耶姫(このはなさくやひめ) : 浅田 舞
天鈿女命(あめのうずめのみこと):村上佳菜子
荒獅子男之助 : 大島 淳
奴一平 : 鈴木誠一
渋谷金王丸 : 蝦名秀太
鳶頭彰吉 : 佐々木彰生
地獄太夫:中村蝶紫
蘇我入鹿:澤村國矢
石川五右衛門:片岡松十郎
酒呑童子:中村かなめ
ほか
脚本:戸部和久
演出:市川染五郎
振付・監修:尾上菊之丞
振付:宮本賢二
振付: 東京ゲゲゲイ
演奏: DRUM TAO
主催: 日本テレビ放送網株式会社、株式会社ユニバーサルスポーツマーケティング
企画: 株式会社ユニバーサルスポーツマーケティング
製作: 松竹株式会社
制作協力: 株式会社松竹エンタテインメント
特別後援: 公益財団法人日本スケート連盟
映像演出: チームラボ
アーティスティックコンサルタント: VOGUE JAPAN
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