暗闇のソーシャルエンターテインメント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」とは?

暗闇のソーシャルエンターテインメント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」とは?

普段わたしたちが周りの様子を知る一番の手がかりは、「目から入ってくる」情報。ところが暗闇の中では、視覚以外の情報を総動員して状況を感じ取るしかありません。光のない空間で世界はどう感じられるのか――視覚障碍者の案内で暗闇の世界を体感し、コミュニケーションの可能性を探る冒険。それが「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」です。


こんにちは、島本薫です。

完全に光を遮断した真っ暗闇を、体験したことはありますか? 闇の中には、見えないからこそ感じ取れる世界の匂いやざわめき、人とのつながりがあるのです。

本日は、暗闇のソーシャルエンターテインメント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」をご紹介します。

■「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」――視覚障碍者が案内する“真っ暗闇の中のエンターテインメント”

ダイアログ・イン・ザ・ダークとは、視覚障碍者の案内で「純度100%の暗闇」に入り、さまざまな事柄を体験する暗闇の中のソーシャルエンターテイメントです。

「ダイアログ(Dialogue)」とは「対話」の意。真っ暗闇の中で人や世界と触れ合ううちに視覚以外の感覚が研ぎ澄まされていきます。そして次第に、闇の中のあたたかさやコミュニケーションの多様性に気づけるほか、”目が見えないことはその人の属性にすぎない”ということを知るきっかけを与えてくれます。

まさに、心の目を開く体験、といっていいでしょう。

何といっても、ここでは「見える人」が「見えない人」に、「見えない人」が「見える人」になるのですから……! とはいえ、背筋を正して臨むようなものではなく、笑い声の絶えない楽しい“冒険”というのがぴったり。

参加者は最大8名のグループになり、光のあるうちに簡単な自己紹介をした後は、まず自分の身長にあった白杖を選びます。薄暗がりの中で白杖を使い、前方をさぐってみたり、トントンと足元をたたいてみたり。扱いに慣れてきたところで、完全な暗闇の中へ。

このとき先頭に立って案内してくれるのが、「アテンド」と呼ばれる暗がりのエキスパート、視覚障碍者の皆さんです。

■五感のすべてを使ってみると……? 誰かの声が聞こえる安心感

「完全な暗闇」では、文字通り何ひとつ視界に入るものはありません。目を開けているのに、何も見えない。周りの様子どころか、隣にいる人のことすらわからない。感じるのは、足もとの床の堅さと、手の中の白杖の感触だけ。

心細さが募るところへ、アテンドさんがすかさず声をかけてくれます。

「皆さん、緊張してますか? 暗闇では、声を出して感じたことを伝えてくださいね」

はぁい、という声があちこちであがり、ああ、周りにはこんなに人がいてくれるんだと実感。声を出すって大事なんだと、改めて気づかされます。

片手を前の人の肩に置き、もう片方の手で白杖を突きながらゆっくり前に進んでいくと、辺りの様子が変わっていくのが感じられます。

足元がやわらかい。草の匂いがする。
あれ? 広いところに出た?
鳥の声が聞こえる。水の流れる音も。

「そうなんです。皆さん、どうぞ歩いてみて、いろんなものを感じてみてください」

アテンドの言葉にうながされ、おそるおそる散策を始めると……いつの間にか、わくわく気分のほうが高まって、暗闇の中の冒険に夢中になっています。

ぽろぽろした土の手ざわり。カサコソ音を立てる枯れ葉の感触。葉っぱの匂い。ちくちくする木やごつごつする木。かと思えば、「こっちにおもしろいものがあるよ!」という声や「こっちってどこ~?」という声も。

誰かの声が聞こえるだけで、こんなにほっとするなんて――。それだけでも発見なのに、「どう伝えるか」についても考えさせられることが度々です。

たとえば、「橋を渡って向こうに行きましょう」と言われたはいいものの……暗闇の中で橋を渡るなんて、足がすくんでしまいそう。そこへ、先に渡った人たちが

「次に段がありますよ」
「だいたい3歩で渡り終えますからね」

と声をかけてくれるので、安心して前に進めます。もしも足を踏み出すところがわからなければ、「どこですか?」と尋ねていいのです。伝えることがいかに大切か、どうしたら具体的に伝わるか、ひいては、普段の自分はどれだけ相手の声に耳を傾けているか、考えずにはいられません。

ブランコに乗ったり、お絵かきしたり、特設カフェでお茶したり(アルコールもあります!)。もちろん、お会計も暗闇の中で。

90分間の冒険の間に感覚が研ぎ澄まされ、いつしか暗闇はあたたかく居心地のよい場所に変わっています。そして、不思議と人や世界とつながる力を取り戻していることに気づくのです。

■こころのバリアフリーを目指して:違いをわかり合う場から、人材研修の場としても利用が進む

2度目に参加したときのアテンドさんが、こんな話をしていました。

「ダイアログ・イン・ザ・ダークは、障害者疑似体験のような福祉的イベントではありません。立場の違い、年齢、性別、国籍、障害の有無……。わたしたちは、知らず知らずのうちに、さまざまな違いに縛られて暮らしています。そうした違いを超えて、すべての人が対等に対話する機会を提供すること。ダイアログ・イン・ザ・ダークは、こころのバリアフリーを感じてもらえる場作りをしたいと思っているんです」

共感覚があり知覚過敏の傾向を持つわたしにとって、暗闇は「感覚をひとつ休ませることのできる場」だったので、とても心がゆったりする空間でした。

安心して他の感覚に頼っていいし、何より、楽しさや安全といった気配が伝わってくるので、自由に感覚をのばすことができます。同じような感覚を持つ方や、気配に敏感なお子さんをお持ちの方は、こうした場で感覚を遊ばせ、体験をシェアするといいかもしれません。

さまざまな“気づき”を生むことから、ダイアログ・イン・ザ・ダークは、チームビルディングやリーダーシップ研修、五感を活かした商品開発・マーケティングなど、ビジネス・ワークショップとしての利用も進んでいます。

■ダイアログ・イン・ザ・ダーク誕生の背景と、日本での開催情報

1988年にフランクフルトで開催されて以来、ダイアログ・イン・ザ・ダークは世界39カ国以上で開催され、800万人を超える人々が体験してきました。

発案者のアンドレアス・ハイネッケ博士は、ユダヤ系の母とドイツ系の父の間に生まれました。母の親族がホロコーストの犠牲者であるのに対し、父の親族はナチスの支持者だったことから、人が人を排斥する過程には何があるのか、人は何をもって優劣を決めるのか、排除を生まないためにはどうすればいいのかという疑問が頭から離れずにいたそうです。

ハイネッケ博士が辿り着いた答えが、「対話」でした。

元々ジャーナリストだったハイネッケ博士ですが、事故で視力を失った男性への取材がきっかけで、障碍に対する意識が変わり、視覚障碍者に対する差別を変えていこうと、社会起業家(ソーシャル・アントレプレナー)の道を歩み始めます。こうして、ダイアログ・イン・ザ・ダークが誕生。

日本での初開催は、1999年11月。以来、約19万人が体験し、その輪を広げてきたのです。

現在の東京・外苑前会場は、残念ながら今月いっぱいでクローズとなりますが、大阪の「対話のある家」は今後も来場が可能です。参加には事前予約が必要となります。チケットの購入方法や空席情報などは、ダイアログ・イン・ザ・ダークのサイトでご確認ください。新宿では、8月20日までの期間限定で、聴覚障碍者がアテンドする「ダイアログ・イン・サイレンス」も開催されています。

東京での新たな常設展開催に向け、クラウドファンディングも始まっています。さらにパワーアップして帰って来られるよう、口コミや体験のシェアなどダイアログの輪を広げる活動に、あなたも参加してみませんか?

参考

ダイアログ・イン・ザ・ダーク
http://www.dialoginthedark.com/

ダイアログ・イン・サイレンス
http://dialogue-in-silence.jp/

この記事のライター

もの書き、翻訳家、ときどきカウンセラー、セラピスト。 大切にしている言葉は “I love you, because you are you.” 共感覚・直観像記憶と、立体視不全・一種の難読症を併せ持ち、自分に見えて...

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