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大切な人とは「家族」になれる -『幼な子われらに生まれ』が示す希望

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映画『幼な子われらに生まれ』を観た――。家族の条件って何だろう? 血のつながった両親と、その子どもたち? でも、あらゆる関係性が広く認められつつある現代、その条件はひとつだけではない。この作品は、誰もが持っている心の陰や弱さが、人生の重い枷ではなく、人生をより味わい深く幸せなものにしてくれることを教えてくれる物語。

大切な人とは「家族」になれる -『幼な子われらに生まれ』が示す希望

幸せそうな家族。でも本当は、ツギハギだらけ。

■『幼な子われらに生まれ』イントロダクション

中間管理職のサラリーマン、田中信(浅野忠信)は一見よきパパ。しかし、彼の表情にはいつも陰があり、過去に何かしら苦い出来事があったことを感じさせる。

ふたりの姉妹を連れて信と再婚した奈苗(田中麗奈)も、前夫の沢田(宮藤官九郎)とは逃げるように離婚したらしく、信や子どもたちには頑なにそのことに触れさせない。

信の元妻、友佳(寺島しのぶ)は相変わらずのキャリアウーマンとして活躍しているが、なぜか急に信を呼び出し、深夜のドライブに連れ出す。

また、信と友佳の娘である小学6年生の沙織(鎌田らい樹)も、信に言えない悩みを隠しているし、奈苗の娘である小学6年生の薫(南沙良)も、信に明らかな嫌悪感を抱き、家庭内でも壁を作っている。

唯一、屈託のない純粋な笑顔で「かすがい」となっているのが、薫の妹である幼稚園生の恵理子(新井美羽)だけ。

そんな、血のつながらない家族=前のパートナーとの実子がある者同士の、片方からの連れ子ありの再婚という「ツギハギだらけ」な家庭に、大きな波紋が広がる出来事が起こる。

奈苗のお腹に、信との赤ちゃんが宿ったのだ。

■「逃げとごまかし」が、重い枷となってゆく

物語が進むにつれ、登場人物たちの過去が紐解かれていくのだけれど、皆に共通しているのが、「逃げとごまかし」というキーワード。

この、「逃げとごまかし」で、一人ひとりが少しずつ傷つき、苦しみ、また周囲をも傷つけてしまう種となり、その蓄積が次第に大きな混乱へと発展していく。

信は、自分の弱さを受け入れることができなかった。だから、自分が不得意なことや苦手なことからは逃げたり、ごまかしたりするようになった。

自分が弱いと、問題が起きたときもまず自分を守らなければならない。それゆえどんな場面でもまずは自分優先で、そのあとに人の気持ちを考えるから、結果的に人を傷つけることになる。思いやりはあっても、まずは自分を守ってからの思いやりなので、人には届かない。

また、未知のことや未経験のことでも自分が責任を取るとなると、果たして俺にこの責任が取れるのだろうかと考える。根は真面目できちんとしている人間なので考えることは考えるけれど、自分の許容範囲を超える問題にぶつかると思考は堂々巡りになり、結局なあなあで終わったり、逃げてごまかして終わらせてきた。

それが今回、奈苗のお腹に宿った赤ちゃんによって、白日の下に晒されるというわけだ。もし自分事だったらと思うと、背筋が冷たくなる怖さだ。

子どもたちの部屋に、南京錠を付ける。なぜ?

■それでも、人は必ず幸せになれる

思うに、僕も含めて、人生で間違いを犯していない人間やごまかしや逃げた経験のない人間は絶対にいない。誰もが多かれ少なかれ、間違い、逃げて、ごまかして、その上でいまこの人生を生きているはずだ。

そんな人間がその延長線上で掴んだ幸せ。ツギハギだらけ、ハリボテのような家庭。それは果たして本物なのだろうか?

僕は声を大にして力いっぱい、イエスと言いたい。

奈苗の涙、信の決意、薫の笑顔、ほかの誰の言葉も決断も、そのときの精一杯、最高の最大の真実だ。ツギハギだろうとハリボテだろうと、一瞬でもそこに心からの喜びや幸せを感じたなら、温かい心のつながりを感じたなら、それは確かな本物なのだ。本当の家族なのだ。

この作品と同じような、もしくはもっと複雑な関係を実際に生きている人も多くいることだろう。同じように悩み、同じように苦しみ、同じように涙している人もいるかもしれない。

でも、どんな人だって、必ず幸せをつかめる。どんな人とだって、家族になれる。誰に何をどう言われる筋合いもなく、あなたとあなたの大切な人は、必ず家族になれるんだ。

遊び疲れて眠ってしまった薫を信がおんぶする。奈苗が信に理想の夫像を重ねた瞬間。

■暗闇の先で見つけた答え

友佳が元夫の信を呼び出したのは、再婚相手である江崎がガンの末期で余命わずかなため、沙織と信の面談の日をキャンセルしてほしいと申し出るためだった。

あらゆる問題が複雑に入り乱れ、混乱が頂点に達するとき、信は病室の江崎と対面する。そこで信は、実はずっと探していた「答え」を知るのだ。

それぞれがそれぞれの本意を知り、理解し合い、時が穏やかに歪な関係性を均していく。

間違いは消えない。逃げてごまかしてきたことも、それによって生まれた眼の前の現実も、消えてなくなりはしない。

でも、人は前に進める。強くなれるし、優しくなれるし、家族になれる。

信がどんな答えを見つけるのかはぜひ劇場で観てほしい。

きっと、あなたの胸の内もすっとなり、頷けるはずだ。

余命わずかな江崎に寄り添う友佳と沙織。信はここで答えを得る。

■感情を「体感」する撮影裏話

物語について多く語ったので、最後は撮影裏話について。

今回、とにかく登場人物たちの気持ちが痛いくらいに刺さって、しばらくレビュー原稿を進めることができなかった。それくらいにリアルに感情を「体感」できる本作品。その秘密は三島有紀子監督の撮影手法と役者たちの骨身を削った演技にある。

演劇でいうエチュード(台本を用意せずに即興で演じる)の手法を取り入れ、例えば友佳が信に相談なく子どもを堕したことを揉めるシーンで、用意されていたのは産婦人科の書類だけ。最初のきっかけだけを作って、あとは役者たちが即興で演じたのだ。このシーンは観ればわかるが、本当に心臓をわしづかみされるようなヒリヒリした感情を体感してしまう。

他にも多くのシーンで同様の撮影手法が取り入れられているので、役者は用意された台詞を言うのではなく、役の人間がそこに存在して、自分の言葉を喋っているのだ。

ということは、役者もその役を生きなければその言葉は生まれないし、その感情にもならない。役者たちは難しく複雑な役の人生を自ら生きて、現場に立っていたのだ。その精神的負荷がいかほどのものだったかは、想像に難くない。

見応え感はくどいほどにずっしりと残る作品だが、込められた無言のメッセージはどこまでも優しい。不器用な大人たちが、傷つきながらも確かな幸せを紡いでいく物語は、きっとあなたの心にも温かな希望の明かりを灯してくれるだろう。

■『幼な子われらに生まれ』公開情報

2017年8月26日(土)、テアトル新宿・シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー。
出演:浅野忠信・田中麗奈・宮藤官九郎・寺島しのぶ
監督:三島有紀子
原作:重松清『幼な子われらに生まれ』(幻冬舎文庫)
脚本:荒井晴彦
配給:ファントム・フィルム
(C)2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会

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安 憲二郎

20年で22回の転職、40の職種を経験。現在は【ことばライフデザイナー】として「人生誰でも右肩上がり」になるアドバイスをAmebloをメインに提供している。また、クリエイティブな才能を活かし、ボーカリスト、映像作家、コミュニ...

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