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絵本作家ターシャ・テューダーの「喜び」を見つめる生き方

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「人生は短いのよ、何があっても『生きること』を楽しんで」――アメリカを代表する絵本作家にしてイラストレーターであり、農婦で酪農家で4人の子供を育て上げたシングルマザーのターシャ・テューダーの生涯から、勇気をくれる言葉とターシャの庭を訪問するための情報をご紹介します。

絵本作家ターシャ・テューダーの「喜び」を見つめる生き方

こんにちは、島本薫です。

忙しすぎて、心が迷子になってない?」――そう言われて、ドキッとする方も多いのではないでしょうか? 

何気なくそう問いかける小柄な老婦人の名は、ターシャ・テューダー。今年4月から公開されているドキュメンタリー映画『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』のひとコマです。

今回は、ターシャの人生から、暮らしに喜びを見つけるヒントや生きる勇気をご紹介します。

■映画『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』――静かなアメリカの田舎で、花に囲まれて自給自足の暮らしをおくる画家

数々の絵本をはじめ、丹精込めて育てた美しい庭や、地に足の着いた暮らし方、ユーモアに裏打ちされた独特の人生哲学で、世界中を魅了してきた作家、ターシャ・テューダー。

花を育て、動物の世話をし、生活に必要なものは自分の手で作り出す。そんな晩年のターシャの暮らしを撮影したNHKのドキュメンタリーが、1本の映画に生まれ変わりました。タイトルは『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』。4月から各地で上映を続けているので、ご覧になった方も多いことでしょう。

タイトルの「静かな水」とは、ターシャが友人と遊びでつくった「宗教」、“Stillwater” からきた言葉です。静かな水のように穏やかに、流されずに生きる――深い意味をたたえながらも、スティルウォーター教の教義(?)は、あくまでシンプル。

人生は楽しむもので、重荷を背負って歩くようなものではないの。喜びは手にするためにあるのよ

(”Life is to be enjoyed, not saddled with. Joy is there for the taking.”)

■「私は社会通念より自分の価値観に従って生きるほうを選びました」

ターシャの人生は、決して喜びに満ちたことばかりではありませんでした。

ターシャが生まれたのは1915年。両親ともにボストンの名家の出身でしたが、ターシャ自身は、華やかな社交生活よりも、農場での昔ながらの暮らしに憧れていました。

9歳のときには両親が離婚。「自信のない子供だった」ターシャは、農業と絵を描くことへの情熱をふくらませて成長します。

22歳で結婚し、夫と農業を営むかたわら、粘り強く自作の絵本の売り込みを続け、ついに絵本作家としてデビュー。その後も収入の不足を補うため、ふたりの子供を育てながら精力的に絵本やイラストの仕事を続けます。

29歳のときに挿絵を手がけた絵本が権威ある賞を受賞。絵本で得た収入で、朽ちかけた大きな家と農場を購入します。

さらにふたりの子供に恵まれ、農場での暮らしをモチーフにした多数の絵本を手がけますが、42歳で夫と離婚。たくさんの動物のいる大きな農場をひとりで運営しながら、4人の子供を育てることになります。

そのとき、大きな力になったのが、持ち前の明るさと不屈の忍耐力でした。

自分の人生を簡潔に言い表してほしいと言われ、「いつも疲れていたわ」と答えながらも、「そんなものだと思っていたから、苦にはならなかった」とも言うターシャ。

ターシャのモットーは、“Take Joy!” ――つらいことや苦しいことではなく「喜びをつかむこと」に向けられていたからです。

■喜びを創り出す暮らし――「一生は短いのよ。やりたくないことに時間を費やすなんて、もったいないわ」

わたしの絵を気に入ってくださる方は、『創造力を活かせて、さぞ楽しいことでしょうね』と言うけれど、見当違いよ。わたしが絵を描くのは、売るためなの。生活のために絵本を描いていたのよ
(“Everyone who likes my illustrations says, “Oh, you must be so enthralled with your creativity.” That’s nonsense. I’m a commercial artist, and I’ve done my books because I needed to earn my living.”)

自らの絵筆で生活費や子供たちの学費を捻出してきたことは、ターシャの誇りでした。

4人の子供が独立した後、56歳のターシャは、絵本の印税でバーモント州の山中に広大な土地を購入。家具職人で大工の長男に18世紀の農家を模した家を建ててもらうと、翌年には花の種やペットを引き連れて移り住み、ほぼ自給自足の暮らしをスタートさせます。

花や野菜を育て、ヤギの乳をしぼり、卵を集め、古い鋳鉄製のオーブンでパンを焼く。

庭のプラムやベリーを摘んで、午後にはゆっくりお茶を飲む。

着るものはすべて手作りし、糸も紡げば布も織る。

秋にはろうそくをつくり、薪を割って暖炉に火をおこす。

クリスマスにはツリーを飾り、クッキーを焼き、プレゼントを手作りして孫たちを迎える。

手間暇を惜しまない豊かな暮らし方と花のあふれる見事な庭が、後年のターシャをさらに有名にしました。

「あなたのように生きられればいいのに」と言う人々に、「そう? じゃあ、なぜそうしないの?」と答えていたターシャ。そんなターシャが大好きだった言葉をご紹介します。

■農場で昔ながらの自給自足の生活をし、大好きな花を育て、絵を描くという夢を叶えた主婦

ターシャが好きだった思想家、ヘンリー・ディヴィッド・ソローは、こんな言葉を遺しています。

夢に向かって自信を持って進み、思い描いた人生をおくろうと努力するなら、思いがけない成功を手にするだろう
(“If one advances confidently in the direction of his dreams, and endeavors to live the life which he has imagined, he will meet with a success unexpected in common hours.”)

その言葉通り、夢に向かって、ターシャは努力を続けてきました。それも、一日一日を楽しみながら。

お休みをとったことはありません。わたしの人生すべてがバケーションです
“I’ve never taken a vacation; my whole life has been a vacation.”

また、何よりも、日々の暮らしを大事にする主婦でした。

家事は大好きです。アイロンがけも、洗濯も、料理も、食器を洗うのも。アンケートの職業欄には、いつも『主婦』と記入しています。主婦はまたとない職業よ、肩身の狭い思いをすることはないわ。主婦は愚かでは務まらないの。ジャムを煮詰めながら、シェイクスピアを読むこともできるのよ
“I enjoy doing housework, ironing, washing, cooking, dishwashing. Whenever I get one of those questionaires and they ask what is your profession, I always put down housewife. It's an admirable profession, why apologize for it. You aren't stupid because you're a housewife. When you're stirring the jam you can read Shakespeare.”

ターシャは最後まで自分らしい生き方を貫き、2008年、92歳で亡くなりました。けれどもその生き方は、お子さんやお孫さんに引き継がれ、本を通して今も世界中の人の心にぬくもりを与えています。

■ターシャの庭を訪れてみたい人へのトラベルインフォメーション

バーモント州にあるターシャの家、<コーギコテージ>とその庭は、お孫さんのウィンズロウ・テューダー氏が手入れをし、年に数回だけ、プライベートツアーという形で公開されています。

ツアーの人数は、最大でも20人。ゆったり見て回るにはちょうどいいものの……ツアーチケットはあっという間に売り切れになってしまうのだとか。

年の初めにチケットを発売するようなので、参加したい方は “Tasha Tudor & Family” (下記参照)にメールアドレスを登録し、次回のツアー情報が届くようにするといいでしょう。2017年現在のチケット代は、大人165ドル、子供12ドル(税別)です。

首尾よくツアーチケットが手に入ったら、次は航空券の手配です。日本からは
・コネチカット州のハートフォードブラッドリー国際空港
・ニューヨーク州のオルバニー国際空港
のどちらかを経由し、ツアー当日の1時半までに、バーモント州のマールボロ(Marlboro)という街に着くようにしてください。どちらの空港からも、車で1時間半ほどです。

参加にあたっての主な注意は、次の通りです。

・雨天決行です
 (予期せぬ事態によりツアーが中止された場合を除き、チケットの払い戻しはありません)
・3時間のツアーの間立っていられ、1.6キロ歩けることが前提です
 (歩きやすい靴でおいでください)
・家や庭をめぐるウォーキングツアーには、手荷物の持ち込みができません
 (財布・カメラ・スマホ等を含む)
・食べ物のアレルギーがある人は、あらかじめお申し出ください

ウォーキングツアー中の撮影は禁止されていますが、ツアーの起点となるルーカリー(Rookery:「集いの場」という意味で、ターシャの長女が住んでいた家をオフィスに作り替えたものです)に戻った後、ターシャのご家族とのティータイムが予定されているので、写真撮影はこのときにどうぞ、とのことです。

また、ルーカリーにはターシャのギフトショップが併設されているので、お買い物も楽しめます。イラストのほかに、映画に登場したろうそくやエプロンなども取り扱っているようですよ。

参考

・「ターシャ・テューダー 静かな水の物語」公式サイト
http://tasha-movie.jp/
・ターシャの本
http://www.mediafactory.co.jp/book/tasha/
・<コーギコテージ>ツアー情報(英語)
https://www.tashatudorandfamily.com/visit#the-experience-2

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島本 薫

もの書き、翻訳家、ときどきカウンセラー、セラピスト。 大切にしている言葉は “I love you, because you are you.” 共感覚・直観像記憶と、立体視不全・一種の難読症を併せ持ち、自分に見えて...

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