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セックスレスの相談を受けるたびに思うこと

セックスレスに関する相談を男女双方から受ける。その度に「まずは相手を休ませてあげて」と思うのには理由がある。セックスレスに到る根本の原因は「疲れ」ではないか。ライターのカツセマサヒコさんが、生きていくうえで訪れるたくさんの喜びや悲しみにそっと寄り添うエッセイ、第5回。

セックスレスの相談を受けるたびに思うこと

「最近、彼女が全然させてくれないんだけど、なんでだと思う?」

と、相談を受けたことがある。


「ここ3カ月、彼がまったく誘ってこないんだけど、男としてどうかと思わない?」

と、愚痴を吐かれたこともある。



「なぜ僕に、その相談を?」という疑問と、

「難しい問題だよなあ」と純粋に思う気持ちが、どちらとも言えないバランスで同居する。

半年〜1年前くらいだったか。
「奥さんとどうにかセックスするため、ディズニーランドのホテルを予約して、頑張ってムードを作ったけれどそれでもダメで、ひっそりとベッド横で泣いた」
という男性のブログが話題になった。

「そこまでやったのに、どうして?」
「奥さん、不倫してるんじゃないか?」
「もっと問題は、別にありそう」

コメント欄にはたくさんの憶測が飛び交っていたが、どれが正解なのかは誰もわからない。
「ふたりはセックスできずに終わった」という事実だけが、のしりと横たわっていた。

「それらしい下着まで穿いたのに、彼はその気になってくれなくて、結局恥ずかしい格好のまま朝を迎えて、もっと恥ずかしい思いをした」
という経験を、半ば笑い話のように悲しい顔をしながら話す友人もいた。

「もう冷めちゃったのかな」
「同棲期間、長すぎたかな」
「ほかに若い女の子と寝てるんじゃないかな」

不安と不満は募る一方のようだった。それに対してどう言葉をかければ良いかわからず、個室居酒屋のその席は、煙もないのにモヤモヤとした空気が漂った。どうにか酸素を取り込むことに必死になる僕がいた。

■セックスレスの相談を受けるたびに思うこと

もちろん僕はセックスレスの専門家ではないので、数字やデータに基づいた話はできないけれど、結婚して、子供がいて、さらに働いている女性の話を聞いていると、常に思うことがある。

「この人たち、めっちゃくちゃ疲れている」と。

保育園の準備、お見送り、朝食、皿洗い、
洗濯、掃除、仕事、お迎え、夕飯、皿洗い、洗濯物取り込み、子供との時間。

もちろん、それらを外注している家庭もあれば、
旦那さんがその多くを負担している家庭もある。

でも、独身時代にはあれほど持て余していた自由な時間を、
今では24時間中30分も取れなくなった人を、何人も知っている。

そんな人たちが、少なからず世の中にはいて、
その人たちは皆、すごく疲れていると思った。

「セックス」を愛情表現の一種と考えるとするなら、
「セックスレス」は愛情の一種が失われていることになる。

その原因のひとつに、僕はこの「疲れ」があるのではと思う。

疲れてしまったから、家ではダラダラしていたい。
疲れてしまったから、魅力的でいようとする余裕がない。

最初のうちはふたりに存在していた緊張感がいつしか途切れ、
肉体的にも、精神的にも、疲れとともに「男女であること」を忘れていってしまう。
そんなことが起き得るのだと思う。

「ずっとそばにいる」という安心は、いつしか怠惰に変わって、
女性から女性をなくし、男性から男性をなくしてしまうのかもしれない。
少しずつ、少しずつ……。

■「まずは相手を休ませてあげて」

だから僕は、セックスレスの悩みには、
「まずは相手を休ませてあげて」と思う。


男性の場合、

「家事とか向こうに負担かけすぎなんじゃないか?」
「子供の世話、全部奥さんがやってないか?」
「奥さんと出かけるとき、ちゃんとおしゃれしようとか思ってるか?」

など、聞いてみると意外とボロが出る。

「だったら、たとえ1日でも育児家事全部を自分が巻き取って、その間に奥さんには美容室とかエステとか温泉とか、気分が上がる場所に行ってもらったら? 『女性として扱われてる』って感覚が、セックスには意外と大事だと思うよ」と、伝えてみたりする。



女性だって同様だ。

「一緒に住んでるからって、毎日ブラとショーツ別々で、テキトーな下着を履いてないか?」
「付き合いたてのときよりもお互い『ありがとう』とか言う機会減ってないか?」
「よくよく振り返ってみると、彼の話を聞く時間を全然設けていなかったりしないか?」

と尋ねると、ちょっとムキになって返事をされることがある。

「男って意外と単純だから、リスペクトが伝わればそれだけで満足するし、奥さんに若々しくいよう、きれいでいようと努力する姿勢があれば、向こうも良い意味で男らしくいようと努力してくれる気もするよ」と、なんとなく話してみることもある。

結婚して、子供がいて、ふたりとも働いていると、日常が本当に忙しない。
心をなくしていくのと同時に、性までもなくしていく家庭もある。

結婚していなくても、関係が長くなってくると、どこかなあなあになって、「相手にとって特別な存在だと思われたい」という欲求自体が薄れてしまうことがある。

だからこそ、もし問題意識を抱えているなら、今一度見つめ直してみてはどうだろうか。

「わたしたち、男女としてどうなんだろう?」
「彼がどうあったら魅力的で、私はどうなれば彼に好いてもらえるだろう?」
「もう一度好きになってもらうには、どうしたらいいだろう?」

どうにか時間を作って、今の役割を一旦休んでみて、そう考える余裕ができたら、まずは自分から、「ただ隣にいるだけの存在」から脱せるように動いてみよう。

そうしたら、少しずつ少しずつ、ふたりの間に男女を取り戻していける気がする。

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※この記事は2017年4月13日に公開されたものです

カツセ マサヒコ

下北沢のライター・編集者。書く・話す・企画することを中心に活動中。
趣味はツイッターとスマホの充電。

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