妊娠発覚後にすべきことを、妊娠前から押さえておこう
妊娠できるか、そして妊娠発覚後の生活が不安な女性に手に取っていただきたい『はじめてママになる人の「妊娠・出産」読本』。著者のにしじまクリニック院長・西島重光医師が、妊娠に関する正しい情報や知識を全7回に渡って解説します。
■妊娠できるか不安な女性たちへ
第1回「妊娠前にしておくことは、妊娠・分娩の“正しい”基礎知識を手に入れること」でお伝えしたように、妊孕能(にんようのう)、すなわち妊娠のしやすさは加齢により低下していきます。卵巣を若返らせることはできないため、女性にとってなるべく早く妊娠したほうが良いことは明らかです。ですから、子どもをつくろうと夫婦生活をしていてもなかなか妊娠に至らない場合には、早めに医療に助けを求めることを考えた方がよいでしょう。
また、何らかの持病のある人が妊娠した場合、合併症妊娠といいます。女性に多い甲状腺の病気や膠原病、心疾患、糖尿病、婦人科疾患である子宮筋腫、卵巣のう腫なども妊娠と合併することがあります。
近年では、妊娠年齢の高齢化によって合併症妊娠が増えてきているため、「妊娠への不安」を抱えている方もできるだけ早めに妊娠することをおすすめします。「案ずるより産むが易し」です。たとえ持病があっても、適切な妊娠管理をすれば、多くの方は何ら問題なく妊娠・出産を乗り切れるものなのです。
そして、不健康な生活習慣のある人は、まずそれを改善することも大切です。過労やストレス、歩かない生活、遅寝や睡眠不足、肥満ややせ、飲酒・喫煙、不良な食事などの生活習慣は、インスリン抵抗性(※)を起こし、卵の質が悪くなり、不妊を招く原因となります。
日常の生活を見直すことは女性に本来備わっている「妊娠する力」を取り戻すことにつながります。本来、誰にでも備わっている「妊娠する力」を維持するために自分でできることをいくつかお教えします。
まずは、太陽の光を浴びながら歩くことです。そして、良質で十分な睡眠のために早寝、早起きを心がけましょう。食事は、新鮮な食材を調理して、3食バランスよく食べること。また、適正な体重を維持することも重要です。肥満はインスリン抵抗性を招きます。一方、やせ過ぎも妊娠しづらくなります。
ストレスを避け、楽しく過ごすとインスリン感受性が促進されます。もちろん、禁酒・禁煙も必要です。健康で、仲のよい幸せなカップルのところに、子供ができるのです。
※インスリン抵抗性とは
インスリンという糖や脂質の代謝に関わるホルモンの効き目が悪くなったり、分泌しにくくなったりする状態のこと。インスリン抵抗性が起こると、糖尿病をはじめ、さまざまな生活習慣病の原因になります。卵巣でインスリン抵抗性が起こると、卵巣機能が低下し、卵の発育がうまくいかなくなったりするのです。
■初めての診察に向けて
「妊娠したかな?」と思ったら、なるべく早く産婦人科を受診してください。妊娠を早期に知って専門医のチェックを受けることは、正常妊娠か異常妊娠かが早期に判別できるだけでなく、妊娠・出産に対するリスクがないかどうかもわかるので安心です。
初めての診察では、一体何を聞かれるのか不安に思われる方も多いと思います。以下に記したことは、どれも妊婦さんにとって重要なことですので、あらかじめ確認しておきましょう。
・最後の月経がいつ始まったか
・つわりや腹痛、出血などの症状の有無
・これまで妊娠したことがあるかどうか
・これまでに経験した大きな病気や手術
・喘息や緑内障などの持病やアレルギー、服用中の薬
・両親に高血圧、糖尿病などの既往歴があるかどうか
・親族の中に遺伝性疾患を持つ人がいるかどうか
初めての診察では、身長、体重、血圧の計測、尿たんぱく、尿糖の検査が行われます。経腟超音波検査で胎嚢(胎児を入れている袋のようなもの)が子宮内に見られると、子宮内妊娠の診断がつきます。
予定月経開始日から2週間の頃からは、胎嚢の中に赤ちゃんの心拍が確認できることもあります。市販の検査薬で陽性反応が出ても、正常な妊娠かどうかまではわかりません。産婦人科医の診察によって子宮内の正常妊娠であること、赤ちゃんが順調に発育していることを確認することが大切です。
■妊娠発覚後、仕事とどう両立する?
今妊娠している・していないに関係なく、妊娠発覚後に仕事と両立できるのか、という不安は働く女性の多くが抱くものではないでしょうか。近年は働いている妊婦さんも大勢いらっしゃいます。妊娠中の体にとってより良い働き方や、妊婦さんがより柔軟に生活できるための社会制度をお伝えします。
・働き方について
仕事の内容次第では、負担の少ない仕事や安全な仕事にシフトチェンジする必要がありますが、通常の仕事であれば、今まで通りに続けられます。むしろ立ち仕事よりも、デスクワークのほうが妊婦さんにとっては負担になります。長時間座りっぱなしの姿勢を続けないよう、こまめに立ち上がって休憩をとるようにしてください。
また、厳しいようですが、来院の指示に「その日は仕事が休めないので来られない」というのは避けていただきたいです。妊娠中は赤ちゃんのことを考えて、仕事よりも自分の体を優先してください。
・母子手帳について
医師から「母子手帳をもらって」と言われたら、速やかに上司に報告するようにしましょう。負担の大きい作業に従事している人などは業務内容を変えてもらう必要がありますし、産休代替の決定など雇用側の都合もあるためです。「つわりがつらい」などが原因で周囲の協力が必要な時には、早めに申告したほうがよいでしょう。
・通勤時の注意点
ラッシュ時などの混んでいる電車に乗るのは極力避けて、体に無理のない通勤をしてください。医師に頼めば、会社に時差通勤を指示する「母性健康管理指導事項連絡カード」を書いてもらえます。通勤が大変な人は会社に出社時間を融通してもらってください。
・急な体調不良に襲われたとき
妊娠時の合併症・持病の悪化などで仕事がきついとき、休業などを申請できます。担当医に「母性健康管理指導事項連絡カード」を書いてもらいましょう。
産休(産前産後休業)は出産予定日の6週間前から、出産後は6~8週間の休業が認められています。予定日が決まったら会社に届けを出しておきましょう。ただし、産前休業は希望によって取得するものなので、妊娠経過に異常がなく、仕事が苦にならなければ、お産の前日まで仕事を続けてもかまいません。
■まとめ
なかなか妊娠に至らないと「自分は不妊症ではないのか?」と不安になることもあります。加齢により妊娠率は低下しますが、だからといって妊娠できなくなるわけではありません。簡単に諦めないことが大事です。卵巣機能が悪くなっている原因は加齢による老化だけではありません。日常生活を見直すことから始めましょう。自分たちが健康で幸せな状態になることから始めることです。
そして、効果的な治療機会を逃さないためには、早めに専門医にみてもらって、必要があれば効率的な医療を受けることが大切です。しかしながら、不健康な状態で無理やり排卵誘発しても、妊娠に至らないことが多いです。不健康な生活習慣を是正し、ストレスを感じないようにして、楽しい状態で、妊活するよう心がけましょう。
西島重光(にしじま しげみつ)さんプロフィール
医療法人社団翔光会産婦人科にしじまクリニック院長。
昭和30年、福岡県生まれ。医学博士。日本医科大学昭和56年卒。
日本医科大学付属第一病院産婦人科などに勤務後、埼玉県富士見市ににしじまクリニックを平成10年に開院し現在に至る。これまで立ち会った分娩数は1万件を超す。著書に『コンパス産婦人科 医師国家試験完全対策』(メック出版)があり、改訂第8版のベストセラー。日本医科大学産婦人科学教室 非常勤講師。
HP
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