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妊娠前にしておくことは、妊娠・分娩の“正しい”基礎知識を手に入れること

妊娠前にしておくことは……?これから妊娠を考える女性にぜひ手に取っていただきたい『はじめてママになる人の「妊娠・出産」読本』。著者のにしじまクリニック院長・西島重光医師が、妊娠に関する正しい情報や知識を全7回に渡って解説します。

妊娠前にしておくことは、妊娠・分娩の“正しい”基礎知識を手に入れること

「妊娠は自然の営み」と言われ、ほとんどの妊婦さんはとくに何も注意しなくとも自然に健康な赤ちゃんを無事に授かります。しかしながら、妊娠は体に大きな負荷がかかるため、中には妊娠による変化に適応できない妊婦さんがいるのも事実です。それも、母体または胎児の異常や合併症は突発的に、予告なしに起こることがあります。

大昔は、妊娠・出産で命を落とすことも少なくなく、「お産は決死の覚悟で臨むもの」でした。それが、妊娠・出産に医療が介入するようになって、妊娠・出産で命を落とすことは稀になり、今では「お産は安全なもの」と思われるようになりました。

しかし、これは有事の際に、産科医療が対応しているからなのです。ですから、何か有害事象が起こったときには医療が介入すること――それがないと大変なことになる可能性があることを、皆が知っておいてほしいのです。

正しい知識がなかったばかりに後悔するような事態になることは、近年でも決して稀ではないからです。妊娠・出産の過程は「奇跡」の連続です。その奇跡を現実のものとして、元気な赤ちゃんに出会うためにも、「妊娠・分娩の正しい基礎知識」が不可欠であることを知っていただきたいと思います。 

これから7回に分けて妊娠に関する正しい情報をお伝えします。妊婦さんが快適に妊娠生活を送るために、また医療介入が必要になった場合でも慌てることがないように、「これだけは知っておいてほしいこと」をお話ししていきますので、ぜひ参考にしてください。 

■間違いだらけの妊娠・出産情報にふれていませんか?

妊娠や出産に関する悩みを解消するには、知識や経験が豊富な人からの情報が頼りになります。かつては母親が主なアドバイザーでしたが、今ではインターネットや雑誌などからも幅広く情報を集められるようになりました。

また、ママ友をはじめ周囲の人たちからさまざまな経験談を得ることもできます。しかし残念ながら、こうした状況が妊婦さんにとってよいことばかりかというと、そうではありません。世の中にあふれる情報のすべてが医学的に正しいわけではないからです。

さも事実であるかのように語られていることでも、実は何の根拠もなかったり、妊婦さんにとって命取りになったりするような情報が数えきれないほど存在しています。噂や迷信、言い伝えを信じたばかりに、悪い結果を招いたケースは枚挙に暇がありません。

近年、医療の発達によって妊産婦死亡率は大きく低下しましたが、この事実がお産への危機感を薄め、「私が大丈夫だったのだから、あなたも大丈夫」などと無責任な情報が飛び交う一因にもなってしまっています。

■妊娠前の生活で心がけて、準備しておくべきこと

女性が妊娠・分娩を考えるとき、自分自身の就学状況、婚姻(またはパートナー)の状況、就労状況など、多くの家庭や社会の周囲の要因を考慮して、個別に計画を立てていくことが重要です。

しかし、健康な子供を自然に授かるということだけに目を向けて、純粋に生物学的にみると、妊娠・分娩に最適な年齢は20歳代で、なるべく早く産んだ方がベターです。30歳を超えると女性が自然に妊娠する可能性は少しずつ低下していきます。

年齢を重ねるにつれて、卵子の質が低下し、妊娠の可能性は少なくなっていきます。妊孕能(妊娠のしやすさ)は若い人ほど高いといえるのです。妊娠を希望する場合には、仕事よりも妊娠を優先し、早めに妊娠することを考えてください。持病がある場合も「その病気を治してから」などと考えてはいけません。

<不妊症Q&A/Q20.加齢に伴う卵子の質の低下はどのような影響があるのですか?>
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa20.html

<不妊症Q&A/Q20.加齢に伴う卵子の質の低下はどのような影響があるのですか?>
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa20.html

■「ハイリスク妊娠」は自己管理しても防げるとは限らない

ハイリスク妊娠とは、妊婦さんとおなかの赤ちゃんのいずれかまたは両者が、妊娠の過程や出産時に何らかのトラブルが起こる危険性が通常の妊娠よりも高い妊婦さんのことをいいます。このハイリスク妊娠ですが、誰でもなる可能性があります。もともと妊娠・出産は「今まで順調だった人でも、いつ何が起こるかはわからない」ものですから。

ハイリスク妊娠の1つに高齢妊娠・出産があります。加齢により卵子も老化するため、高齢妊娠では流産率が急上昇します。また、糖尿病などの生活習慣病や子宮筋腫などの婦人科疾患が増えるなど、若いときと比べると合併症は増加します。高齢妊娠ではさまざまな妊娠・分娩時合併症も増えて帝王切開率は上昇します。

しかし、これは全体として統計的に頻度が高くなっているだけで、個人差も大きく、40歳を超えていてもスムーズなお産ができたという人もいます。高齢出産そのものが決定的なリスク要因ではありません。確かにリスクは高くなりますが、正しい知識を身につけていれば、多くのトラブルは未然に防げます。

35歳以上でこれから出産を控えている人は、極度に恐れることなく、「若い人に比べると一定のリスクはあるのだな」という認識で生活習慣に気を配るようにしましょう。高齢初産はハイリスクですが、対処の仕方によっては、リスクを回避することは十分に可能です。

逆に、若い人でも自己管理したからといって必ず安産できるとは限りません。そもそも出産のうち8~9割は自然に産まれるため、安産だったからといって「自己管理のたまもの」とはいえないのです。もちろん「自己管理」は大切ですが、「自己管理すれば安産になる」という考えを持つことは危険です。

■妊娠前にしておくことは正しい情報・知識の収集

医療介入のない自然出産を安産と勘違いしている方が多くいます。しかし広義の安産とは「母子ともに元気に家に帰れること」をいい、産院ではその手助けをしています。妊娠中の自己管理をどんなにがんばっても難産になることはあります。必要であれば医療介入は受け入れてください。そうしないと、悲しい結果になることもあるからです。

産科手術などのさまざまな医療介入を必要とした難産だったとしても、立派にお産したことに変わりはありません。母子ともに元気な状態で家に帰れるなら、安産だったといえるのです。

あなたが妊娠したということは、母として赤ちゃんを産める健康な体だという証拠です。妊娠中だからといって「あれもダメ、これもダメ」と神経質になる必要はありません。ごく普通に生活していれば、大きな問題もなく出産の日を迎えられるはずです。

よく「安定期に入るまでは無理はしないで」「重いものを持ったり、激しい運動をしたりするのはNG」といわれますが、妊娠前と同じように過ごしても構いません。激しい動きをしても妊娠の予後(流産)とは無関係です。限度を超えなければ、妊娠を理由に自分の欲求を抑え込む必要はありません。

ただ、妊娠中期以降になると、おなかが大きくなってきて、行動にいろいろな制限が出てきます。「仰向けの状態がつらくなってきたから寝る時は横向きになろう」など、体の変化に次第に生活を合わせていく心づもりでいるといいでしょう。また、「妊娠中は無理をしない」が原則です。妊婦の自覚を持ち、できるだけゆったりとした生活を送るようにしましょう。

なお、妊娠すると免疫力(抵抗力)が低下するため、感染症などの病気にかかりやすくなります。また、感染を防ぐための留意点もあります。それらに関しての正しい知識を得ておくことは重要です。

■(まとめ)妊娠前にしておくこと

妊娠したとたんに生活を改めないといけないということはありませんし、今まで通りの生活を続けて大丈夫ですが、妊娠前にかなり不規則な生活をしていた人は、妊娠を機会に生活態度を改めるいいチャンスかもしれません。妊娠を望んでいる方たちも、妊娠に向けて規則正しい生活をするように心がけてみてください。

ただし、これは常識的なことですが、妊娠中の喫煙や飲酒はNGです。とくに妊娠初期の喫煙や飲酒は赤ちゃんに奇形を生じる可能性があるため、厳禁です。妊娠を望む女性は、妊娠後に心配しなくてすむように事前に禁煙・禁酒するようにしましょう。また、放射線による心配をなくすためにも、病気で医療域間のかかるときも、妊活中であることは申告するようにしましょう。

次回も引き続き、妊娠発覚前後の知識をお伝えいたします。

西島重光(にしじま しげみつ)さんプロフィール

医療法人社団翔光会産婦人科にしじまクリニック院長。
昭和30年、福岡県生まれ。医学博士。日本医科大学昭和56年卒。
日本医科大学付属第一病院産婦人科などに勤務後、埼玉県富士見市ににしじまクリニックを平成10年に開院し現在に至る。これまで立ち会った分娩数は1万件を超す。著書に『コンパス産婦人科 医師国家試験完全対策』(メック出版)があり、改訂第8版のベストセラー。日本医科大学産婦人科学教室 非常勤講師。

HP
http://nishijima-clinic.or.jp/
『はじめてママになる人の「妊娠・出産」読本』
https://www.amazon.co.jp/dp/4344910478

※画像は一般社団法人日本生殖医学会の許可を得て引用・掲載しています。

DRESS編集部

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