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既婚者のマウンティング

モテ中年の独身男性に絡むオッサンはとても格好悪いので、黙ってください。

既婚者のマウンティング

見た目がなかなかで、頭が良くて行動派で、仕事ができて好人物で、独り者の中年男性がいる。当然、モテるらしい。

 でもってたまに何人かで飲むと、決まってその男性にカラむおやじがいる。毎度のことなのでげんなりする。男が男にするセクハラ。

 「君はさあ、40近くなってなんでまだ独り者なの?誰か付き合っている人、いるの?」
 「もったいないなあ、理想が高すぎるのかな?」
 「きっと、女が放っておかないでしょう? することはしているけど、結婚はしないってこと?」

 ものすごくしつこい。おまえは、彼をどうしたいんだよ!
50男が、自分の結婚がいかに素晴らしいかを語りながら、独身男性にからむ。
言われた方は適当に受け流しているので、さほど気にしていないのかも知れないが、横で聞いている私はイライラする。

 あげく、俺が誰か紹介しようかなどとしきりに言う。当の本人は、彼女が欲しいとは一言も言っていないのに(おやじは知らないが、件の男性には若い恋人がいる)、
 「結婚ていいものだよう、今度いい子連れてくるからさ!」
 とか、さも善行めかして言うのがまた聞いていて鬱陶しい。

 おやじは、モテ中年の独身男性に嫉妬しているのだ。しかし自分は妻と子どもを手に入れたと、無理矢理張り合ってみたい気持ちがあるのだろう。

 だから、結婚していない男は可哀想、と決めつけては茶化したり絡んだりする。ほんとは、妻子を養う重荷もなく、いろんな女と付き合える自由を手にしている独身男の生活が、心底妬ましいだけなのに。そんな自分を認めたくないから、上から目線でお節介するのだ。

 君は、独身で、お金も自由に使えて、モテモテなのを幸せに思っているのかも知れないけど、教えて上げよう。

結婚は、君にはわからないぐらい、ものすごく幸せなものなのだ。
だから君がいくら自分は幸せだと思っていても、結婚している私には絶対に敵わない。君が本当は可哀想な負け犬だってことを、教えてあげよう……

 相手への善意にみせかけたマウンティング(※)に、私は他人事ながら毎度イラつく。
 男セクハラおやじは、自分を分別ある教養人だと思っているみたいなんだけど、私は心中密かに「俗物」と名付けている。
今度また誰かに絡み始めたら、声に出して呼んでやろうと思う。

 黙れ、俗物!

 文字にしただけでも、ああスッキリした。
 


※サルなどが個体間の優位性を誇示するために他者に馬乗りになる行動のこと

小島 慶子

タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族と暮らすオーストラリアと仕事のある日本を往復する生活。小説『わたしの神様』が文庫化。3人の働く女たち。人気者も、デキる女も、幸せママも、女であることすら、目指せば全部しんどくなる...

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