映画『ラ・ラ・ランド』がデートムービーとして最悪な理由、あるいはなぜ世界に音楽が必要なのか。

映画『ラ・ラ・ランド』がデートムービーとして最悪な理由、あるいはなぜ世界に音楽が必要なのか。

映画『ラ・ラ・ランド』が第74回ゴールデングローブ賞で7部門、第89回アカデミー賞で6部門を受賞する快挙を成し遂げた。PR/クリエイティブディレクターの三浦崇宏さんは「デートムービーとしては最悪」と語る。その理由はこの映画が、観る者全員に、胸の中に封印している「特別なあの人」を思い出させるからだ。


先週金曜の24時40分から、六本木ヒルズのTOHOシネマズで2回目の『ラ・ラ・ランド』をキメてきた。

もちろん1回目と2回目で、観にいった相手は別の女性だ。

1回目も2回目も、観終わった後、心の痛みが膝にきて立ち上がるのに時間がかかった。甘いビジュアルと、明るい音楽に騙されるなよ。この映画はデートムービーとしては最悪だ。なぜかって?

■映画『ラ・ラ・ランド』は観るドラッグだ

『ラ・ラ・ランド』は日本でも2月から公開され、先日のアカデミー賞ではちょっとしたハプニングに話題をさらわれながらも、6部門受賞という快挙を成し遂げた。

“キメてきた”というのは、ぼくの周りで最近流行っている言い回しで、イケてる映画を観たという意味。中毒性の高い映画を見たときの高揚感・没頭感をドラッグとかけている。

『シン・ゴジラ』や『マッドマックス 怒りのデスロード』なんかがその対象だった。これらの映画は間違いなく観るドラッグだ。

ただし、観終わったあと爽快でハイになる前述の2作品がアッパー系のドラッグだとするならば、『ラ・ラ・ランド』は観たあと、どっぷりと落ち込み、立ちくらみに襲われ、気だるい気持ちになるダウナー系のドラッグだ。

手に負えないのは、豪華絢爛で心地よい音楽・ミュージカルシーンに包まれた甘い絶望がクセになって、何度でも観たくなってしまうこと。そして、多幸感に包まれた広告に踊らされた女子たちが“『ラ・ラ・ランド』観たーい! 素敵そうだよね、アカデミー賞いっぱい獲ったんでしょ”なんて言いやがるから何度でも観にいく理由ができてしまう。

来週も再来週も週末の深夜に僕は六本木ヒルズの映画館で甘い絶望に打ちひしがれ、帰り道のけやき坂、浮かない顔で踊るのだ。劇中の楽曲『Another Day Of Sun』をたどたどしい英語で口ずさみながらね。

『そして誰かに拒絶されることがあっても また朝はやってくるから』

■『男は女が変わらないと信じて恋愛をする。しかし、女は必ず変わってしまう。女は男が変わってくれると信じて恋愛をする。しかし、男は決して変わらない』

前置きが長いのはもちろん、ネタバレを防ぐためだ。ここから先は、『ラ・ラ・ランド』の物語の核心に触れつつ、この映画がいかに素晴らしいか。そして、それゆえに絶望的にデートムービーに適さないわけを説明する。

作品のストーリーはとてもシンプルだ。女優を目指す若い女と、ジャズクラブを開くことを夢見る若いピアニストの男がハリウッドで出会い、最初は反発しながらも恋に落ちる。そして2人はそれぞれのやり方で夢を叶えるが、別々の道を歩むことになる。

物語から学べるのはシンプルなことだ。

『男は女が変わらないと信じて恋愛をする、しかし、女は必ず変わってしまう。
女は男が変わってくれると信じて恋愛をする、しかし、男は決して変わらない』

・・・といういつものラブストーリーと同じ、僕たちが何度も何度も自覚しては忘れてしまう恋愛のすれ違いのルールだ。主人公のセバスチャンがことあるごとに奏でるピアノの楽曲はしつこいほどに同じメロディだもんな。

■女の恋は上書き保存、男の恋は別フォルダ保存

物語自体はどこにでもある平凡なものだ。だからこそ、この映画は僕たち普通の人々全員の胸を切実に締め付ける。

誰にでもいるだろう。“あのとき、あの人を選んでいれば自分の人生はどうなっていたのだろう”と思わずにはいられない人が。

しかし、選ばなかったからこそ、今の人生があるのだ。どれだけ記憶が甘美なものだったとしても、今の人生を守ることが、今の自分のいちばん大切なことなのだ。だから誰もが、その人のことをなるべく思い出さないようにしている。

『ラ・ラ・ランド』は誰もが胸の奥にしまっている「あの人」の思い出を強制的に再起動させる。

映画のラストシーン、女は女優として成功し、別の男と家庭を築いている。ある夜、女が夫とジャズクラブを訪れる。そこはかつて愛した男が、開いていたジャズクラブ。

男はステージでピアノを弾いていた。2人は視線を交わしお互いに気づく。その瞬間、かつて2人の過ごした日々が鮮やかに蘇る。

あのとき、あぁしていれば、あぁなったかも……という“あり得たが、そうはならなかった理想の日々”が美しく煌びやかな音楽とともに描かれる。

そして2人は、一瞬の思い出から目を開き、それぞれの暮らしに戻る。去っていく彼女を見送る男の表情で映画は幕を閉じる。

女は別の人生を前向きに歩み、男は思い出にとらわれながらまたあの頃と同じメロディをピアノで奏でる。女の恋は上書き保存だが、男の恋は別フォルダ保存と言われるように。

こんな悲しい物語を、今愛している人と観ていったい何を語るのだ。それぞれが過去に愛した、今はそばにいない誰かのことを思い出して語り合うのか?

そんな残酷なコメディはハリウッドでは映画にならない。でも、そんな風に過去の恋愛を美しく思い出して「あれはあれで必要だったこと」と整理することが、今の人生を肯定する力になるのかもしれない。この映画のラストシーンがハッピーエンドだって言えるくらい、強くなりたい。

(後輩のとても優秀な20代の女子コピーライターが『あれはハッピーエンドでしょ』って断言してて、心が折れそうになったことはこのコラムとなんら関係ないからね)

■普通の人生にこそ音楽が必要なのだ

そして『ラ・ラ・ランド』が僕たちをたまらなく惹きつける仕掛けがもう1つある。最大の特徴であるきらびやかなミュージカルシーンの意味だ。

通常、ミュージカル映画では、登場人物の気持ちが高まり、物語が加速する瞬間に音楽・歌唱シーンが始まる。だが、『ラ・ラ・ランド』は少し違う。

映画史に残るであろうオープニングのミュージカルシーンは渋滞のハイウェイで始まる。そして、そのあとも、「ヒロインが気乗りしないパーティに向かうとき」や「プリウスを駐車していた場所がどこかわからなくてうろついているとき」といったなんでもない、ちょっとモヤっとするタイミングで、たまらなくハッピーなミュージカルシーンが始まる。

つまり、この映画において、音楽はなんでもない日常の、ちょっと停滞した時を美しく一変させる力そのものとして描かれているのだ。
物語の主軸をなす男と女の恋愛の物語も同じように、誰にでもありえる陳腐な物語だ。そのことがまさに象徴しているように、世界には豪華絢爛なミュージカルの主人公はそんなにたくさん生きていない。この世界を生きるのはこの映画の主人公たちと同じ普通の人々だ。

そんな普通の人々である僕たちの日常においては、思わず歌いたくなるときよりも、むしろ歌でも歌わないとやっていられないときの方が多い。ぼくたちの普通の人生にこそ、音楽が(そしておそらく恋愛も)不可欠なのだと、『ラ・ラ・ランド』は声高に歌う。

『少しの狂気がスパイスになる。世界に新しい色を与える』

■『ラ・ラ・ランド』はあなたのための映画だ

『ラ・ラ・ランド』は誰もが胸の奥に密かにしまっている、選ばなかったもう1つの人生へのレクイエムだ。過去を美しく埋葬することで、今の人生を改めて強く肯定するための映画だ。

そして、普通の人生に、すべての日常に、音楽の力が必要であることを証明する物語でもある。

だから、やっぱり、この映画は僕の映画であり、君の映画であり、そして彼女の映画でもあるのだ。

来週の金曜の深夜も僕は、その夜はそばにいてくれる誰かと3度目の『ラ・ラ・ランド』をキメるだろう。そして今はそばにいない大切な誰かのことを思い出してクラクラするのだ。『人混みの中の誰かが、行きたいところへ連れて行ってくれる相手かも』なんて歌いながら。



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この記事のライター

踊れるタイプの良く喋るデブ。

The Breakthrough Company GO 代表取締役 PR/CreativeDirector 株式会社クリエーターエージェント 取締役 プロデューサー 渋谷区観光協会プロデューサー 太った男性のためのファ...

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