今、世界の専門家も注目する「オーストラリアワイン」とは
ニューワールド・ワインの先駆けとして、日本でも愛好家の多いオーストラリアワイン。今回は、シドニーのワインコンクールで金賞を受賞した「シラーズ・リザーブ」から、10年以上キープしても美味しさが続く「シャルドネ」まで、産地や品種・ワインの特徴とともにオーストラリアワインの魅力をご紹介します。
オーストラリアワインの始まりは、1820年代に、イギリスからの入植者によります。その後、ヨーロッパ各地から多くの移民がやってきて有数の産地へと成長しました。
新しい産地として、ワインの熟成を樹樽ではなくステンレスタンクで行うなど、先進的な挑戦を行い、今では世界が技術的な面で影響を受けるほど。
そんな中でも、近年、注目を集めている「グラニット・ベルト」のワインを、ブームになる前に、いち早くご紹介します。
■オーストラリアワインの新聖地 「グラニット・ベルト」
オーストラリアワインと聞いて、皆さんはどのようなワインを想像されますか? 飲みやすくて、手頃な価格のワインが揃い、日常に楽しめるワインというイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。長い期間熟成しなくても美味しいワインが飲めるため、フレッシュで食事にも合わせやすいワインが多く、ワインが苦手だった人たちからも「オーストラリアワインなら飲める」という声をよく聞きます。移民が多いことや、たくさんの品種が生育しやすい環境であることから、幅広いブドウの品種で造られたワインが揃い、好みにあった味わいを見つけやすいのも、ファンを増やしている理由です。
いっぽう、多くの移民たちの情熱や、あくなき研究により、クオリティの高い、プレミアムワインも続々と生まれている有名な産地がたくさん存在するのも事実。ワインに詳しい方なら、南オーストラリア州のバロッサ・ヴァレー、西オーストラリア州のマーガレット・リバー、ニュー・サウス・ウェールズ州のハンター・ヴァレー、ヴィクトリア州のヤラ・ヴァレーなどの産地を耳にしたことがあると思います。でも、周囲より差をつけるなら、今目を向けるべきは、クイーンズランド州の「グラニット・ベルト」です。現地を訪ね、その躍進する様子を見てきました。
■「グラニット・ベルト」とは、どんな産地?
「グラニット・ベルト」があるクイーンズランド州は、オーストラリア大陸の右上、北東側沿岸にある州。2番目に大きな州で、じつに大陸の1/4の大きさを占める州なのです。首都はブリスベン。日本から訪れる場合の玄関口も、ブリスベン空港となります。
そこから、内陸へ約250㎞、車で3時間ほど行くとたどり着くのが「グラニット・ベルト」。標高平均約1000m(720〜1,250m)の高地に広がるワイン産地です。標高が高いため、冷涼な気候で成長したブドウを遅詰みで収穫するため、時間をかけてブドウが熟成され、風味豊かなワインが生まれるのが特徴。「グラニット」とは、花崗岩を意味し、名前の通りに土壌が花崗岩地質で水はけが良く、保水もできる理想的な土壌であることが特筆すべき点です。写真のように、畑の周囲には岩がちの風景がみられます。なんと、この花崗岩は2億年前にできたものだそうです。
簡単にまとめると、下記が「グラニット・ベルト」の美味あるワインを造り出す要因となります。
1)標高1000mの内陸高地性気候で冷涼である。
2)花崗岩(グラニット)地質のため、通気性がよく水はけが良い上、保水もできる。
3)遅摘みのため、糖度と酸度のバランスが取れた風味の良いワインを生む。
「グラニット・ベルト」一帯に広がるのが、右側にある花崗岩の土壌。この岩に、雨が降って地下に溜まった水がしみこみます。寒暖の差が大きいこの地では、その地下水が夜に凍結して体積が大きくなり花崗岩の内側で膨張。太陽が昇って氷が溶けると、氷だった部分が隙間となって亀裂が生じ、左のように小さな小石にかわっていきます。これこそ、水はけもよく、保水力もあるワイン産地向きの土壌である秘密です。
いわばオーストラリアワインのサラブレッドであるブドウを、多くの人の情熱でプレミアムワインに仕上げられるのです。
■「グラニット・ベルト」を代表する 最大のワイナリー「シロメィ」
現在、「グラニット・ベルト」に点在するワイナリーは50ほど。1870年代から入植が始まり、イタリア人を中心にヨーロッパの移民が開拓していった歴史があります。その中でも、100ヘクタールという最大の畑を有するのが「シロメィ」です。
保有する畑の一つ、セブンシーンズ。
1990年代から、「グラニット・ベルト」の可能性に着目した創業者のテリー・モリス(Terry Morris)氏により、2000年に設立されたワイナリー。「シロメィ」の名は、とてもユニークで、モリス氏の名前のT(Terry)とミドルネームのE(Edward)、Morrisをつないで、逆から読んだもの。言葉遊びのようですよね。
施設内にはテイスティング・ルーム「セラードア」やレストラン「ラリーンズ(Lurleen’s)」が併設されていて、連日、観光客や地元の人たちでにぎわうランドマークとなっています。レストランは「ベスト・ツーリズム・レストラン」に選ばれています。ちょうど訪れた日も、晴天で気持ちの良い日だったので、外のテラスで女性が一人で赤ワインのボトルを楽しんでいる光景が見られ印象的でした。
カンガルーも遊びに来ていました。
数カ所に点在する畑は、グラニットを象徴するような岩っぽい土壌。原始の光景を目にするようで、美味しいブドウは偉大な自然の力で生まれることを実感させられます。
チーフワインメーカーは、オーストラリアワイン業界の若手ナンバー1の呼び声も高い、アダム・チャップマンさん。フランスで一から醸造を学び、その後オーストラリアで帰国してからその才能を開花させます。写真からもわかるように少しファンキーな香りのする、少年のような人柄。
「ドローン」で畑を上から撮影して見せてくれるなど、彼ならではのおもてなしで楽しませてくれました。彼の様相から想像すると、力強いマスキュランな味わいなのかな?と思ってテイスティングしてみましたが、全体的にとてもエレガントで、透明感のあるワイン。とくに印象に残っているのが、2014年の「セント・ジュード・ロード カベルネ・ソーヴィニヨン」。
セント・ジュードとは、「シロメィ」が持つ畑の一つです。一口目からスムーズに喉に入り、香りも華やか。重すぎず、そのままでも料理と合わせても美味しいであろうことが容易に想像できる味でした。
2013年シャルドネは、しっかりコクがあり、ホタテなどシーフードのバーベキューと最高の組み合わせでした。
じっさいに、名物のモルトンベイ・バグ(ウチワエビ)といただきましたが、海の味とシャルドネの樽感がとても美しく、本当に幸せな気分になりました。
おまけとして、一つ「シロメィ」が行っている試みを一つご紹介します。ブリスベンのベイサイドにある観覧車の中で、「シロメィ」のワインを楽しみながら夜景を楽しむことができるアトラクションを行っています。ほろ酔い気分でゆっくりと街の明かりを目にしながらの20分の体験は、ワイン好きなら興奮すること間違いありません。
■受賞歴は、730以上! 世界が認めるシロメィの実力。
日本で「グラニット・ベルト」のワインを見つけるのは、なかなか困難。なぜなら、シロメィが唯一日本で飲めるものだからです。いわば、日本人にとって最も身近な「グラニット・ベルト」のワイン。現在、15種類のワインが展開されています。でも、それはとても幸運なこと。シロメィは、世界的に有名なワイン評論家ジェームズ・ハリデーが認めた5つ星ワイナリーだからです。
オーストラリアのワインコンクールはもちろん、フランス国際ワインコンクールをはじめ、オーストリア、ベルギー、ポルトガル、シンガポール、中国などの海外での受賞歴も多数。日本でも、2004年のジャパン・チャレンジでゴールドメダルを受賞するほか、日本の女性だけで選ぶ国際ワインコンペティション「サクラアワード」でも、毎年受賞するほど注目されています。400名ほどの女性審査員たちによる厳選な審査会を経て選ばれる名誉ある賞を受賞する、それも日本女性が認めたワインと聞けば、一度は飲んでみたくなりませんか?
今年も、そろそろ2017年サクラアワードの受賞が発表される頃。受賞後はすぐに完売するほど手に入りにくくなるので、いち早く、チェックするのがおすすめです!
ワインツリー
03-3436-2772
http://www.winetree.co.jp/
■キャサリン妃にも供された 「シンフォニー・ヒル」
ファッションアイコンとしても人気を集める、イギリスのキャサリン妃。彼女が、ウィリアム王子と一緒にブリスベンを訪れた際に供されたワインに、「グラニット・ベルト」のものがあります。「シンフォニー・ヒル」と呼ばれるワイナリーのワインで、その後にキャサリン妃がご懐妊となったため、おめでたいワインとして注目を集めることになったという逸話もあります。
畑の周囲は、やはり花崗岩の岩がちな土地。
社長のイワンさんが案内してくれました。
・ ヴェルデーリョ。ワイナリーの道を挟んだ向かいの畑で採れるブドウから造られたワインで、アロマが綺麗で、余韻が長く、トロピカルフルーツやオレンジ系の味わいを楽しめます。
・ ゲベルツトラミネール。ロイヤル・メルボルンで賞を受賞したことがあるもので、2016年も、ロイヤル・クイーンズランドでワイントロフィを受賞。スパイシーフードと合わせるのがおすすめとのこと。
ユニークなのは、2004年に中国出身の女の子を養女に迎えたため、彼女
の名前をつけた「Red Singing Bird」(カヴェルネ・ソーヴィニヨン×ルビー・カヴェルネの組み合わせ)というワインを毎年リリースし、その売り上げを中国に寄付していることです。ワインで誰かを幸せにする、社会貢献の素敵な例ではないでしょうか。
シンフォニー・ヒル
http://www.symphonyhill.com.au
■若手ワインメーカーの挑戦が際立つ 「ゴールデン・グローブ」
イタリア系の移民が多い、「グラニット・ベルト」。その中でも、祖父からワイン造りを受け継いだ若手ワインメーカー、レイ・コンスタンツォさんが活躍する「ゴールデン・グローブ」は、珍しい品種を多く扱っています。48エーカー、年間100トンしか作らない小規模ながら、クオリティの高いワイナリー。
ここも、5つ星認定を受けています。ヴェルメンティーノ(サルディニアやコルシカのオリジナル品種)やネロダボラ(シチリアの品種)など、普段聞き慣れない品種のワインが豊富。ルーツであるイタリア系の品種への挑戦を含め、新たな取り組みが注目されていますが、奇をてらっているわけではなく、すべて「グラニット・ベルト」で最高のワインを生み出すため。
ここで、注目したいのは、次の2種。
ゴールデン・グローブ
http://goldengroveestate.com.au/
■レストランが有名な 「バランディーン・エステート」
「グラニット・ベルト」へ出かけるべき理由の一つになるのが、「バランディーン・エステート」に併設するレストラン「ザ・バレルルーム」。地元の食材にこだわり、若手のシェフが手がける料理は適度な軽やかさがあり、洗練されたメニューばかり。もちろん、ワインとの相性は言うまでもありません。要予約のレストランで、昼夜ともに満席になる日も多いそう。せっかくなら、旅程に組み込んで、「バラディーン・エステート」の世界観をより深く味わってほしいものです。
バラディーン・エステート
http://www.ballandeanestate.com/
ザ・バレルルーム(要予約)
http://www.barrelroom.com.au
■第二の人生を捧げたワインに出合う 「トビン・ワインズ」。
「グラニット・ベルト」では、比較的若手のワインメーカーが多い。その中で異彩を放つのが、エイドリアン・トビンさんが立ち上げた「トビン・ワインズ」です。2000年、定年後に大好きなワインを造り始めるのですが、その前はアートビジネスという全く異なる業界にお勤めでした。ちなみに、トビンさんは、アイルランドからの移民の3世代目。
一人で、ブドウの栽培から仕込み、醸造を行うため、年間リリースできるのは1つのアイテムにつき100から200ケース。もちろん、ブドウも全て手摘みです。彼が目指すのは、フランスのワイン造りを参考にし、料理とマッチするワイン。もし訪れる機会があれば、購入せずに帰るのはなんとももったいない! こと。
「グラニット・ベルト」では、比較的若手のワインメーカーが多い。その中で異彩を放つのが、エイドリアン・トビンさんが立ち上げた「トビン・ワインズ」です。2000年、定年後に大好きなワインを造り始めるのですが、その前はアートビジネスという全く異なる業界にお勤めでした。ちなみに、トビンさんは、アイルランドからの移民の3世代目。
一人で、ブドウの栽培から仕込み、醸造を行うため、年間リリースできるのは1つのアイテムにつき100から200ケース。もちろん、ブドウも全て手摘みです。彼が目指すのは、フランスのワイン造りを参考にし、料理とマッチするワイン。もし訪れる機会があれば、購入せずに帰るのはなんとももったいない! こと。
一人で、ブドウの栽培から仕込み、醸造を行うため、年間リリースできるのは1つのアイテムにつき100から200ケース。もちろん、ブドウも全て手摘みです。彼が目指すのは、フランスのワイン造りを参考にし、料理とマッチするワイン。もし訪れる機会があれば、購入せずに帰るのはなんとももったいない!こと。
ここで、購入すべきワインは、次の2本。
・ 2015年ヴェルデホ。「グラニット・ベルト」でも、一番フルーティさが際立つ品種。ライチやトロピカルフルーツの味わいがして、暑い季節に冷やしてさっぱり味わいたいワインです。
・ シャルドネ。トビンさんが自信作というワイン。バタースコッチのようなねっとりした感じがあり、余韻が長い。パンのような香ばしい発酵の香りも楽しめます。トビンさん曰く、10年以上キープしても美味しさが続くとのこと。
トビン・ワインズ
http://www.tobinwines.com.au
■日本で「グラニット・ベルト」を体験?! 肉食女子にもおすすめの名店「テラ・アウストラリス」。
昨年の1月に東京・千駄ケ谷に誕生し、オープン1周年を迎えたばかりの「テラ・アウストラリス」。“オーストラリアの美食コンプレックス”をうたう1軒として、人気を呼んでいます。じつは、ここで「グラニット・ベルト」には、なかなか行けなくても、地元顔負けの食体験ができるのです。
店内やテーブルセッティングも、モダンでおしゃれ。
ここは、「シロメィ」の輸入元である「ワインツリー」と、元「Salt」の総料理長であった福田浩二氏のコラボレーションによるレストランです。「Salt」といえば、オーストラリア・クイジーヌを牽引する超のつく有名レストラン。その洗練されたプレゼンテーションとワインともぴったりの味わいを、よりコージーな雰囲気で味わえるのが「テラ・アウストラリス」なのです。福田シェフは、オーストラリアでシェフを務めていただけに、ライフスタイルまで深く理解している方。「シロメィ」と組むことで、オーストラリアの食文化を日本の人に広めたいという思いを訪れるゲストへ伝えています。
このレストランには、当然のことながら日本で展開している「シロメィ」のワインが、すべて揃っています。その他、オーストラリアやニュージーランドを中心にしたボトルワインが80種類ほど、グラスも常時10種類ほどを用意(赤白の各スパークリングと各スティルワイン¥790〜¥990)。
コンセプトは、“モダン・オーストラリア”。移民による、さまざまな文化を独自にミックスしたカルチャーが魅力のオーストラリアを料理で提供しているのです。アジア、アフリカなど多彩な世界各国の味わいが、一皿に詰まっているという感じでしょうか。
ここで味わうべきは、絶対に「お肉」。素材は、すべてオーストラリア産です。とくに、ラム肉は必食。福田シェフが、「ラムバサダー」というオーストラリアのラム肉のアンバサダーを務めているので、香り高いラムが堪能できます。せっかくなので、「シロメィ」のワインと、絶品お肉料理のおすすめの組み合わせをお店の方に教えていただきました!
まずは、スパークリングで乾杯した後、白ワインを飛ばして、このカべルネ・ソーヴィニヨンに行くのがお店のおすすめ。華やかで爽やかな香りのワインで、カシスやブルーベリーといった赤い果実の香りが上品に広がります。タルタルには、様々なコンディメント(調味料や薬味)がついているので、それぞれの香りや味わいを消さない程度のボリューム感に仕上がっているのがポイントだそう。調味料によって、風味の変化があるので、一皿で何度も美味しい!を発見できます。
標高の高い場所で育ったメルロー品種は、酸味も穏やかでバランスが良いのが特徴。フローラルで芳醇な香りは、香り高いラムとマッチします。ラム肉は、鮮度と火の通し方が命。福田シェフは、塊のまま、炭火でじっくりと焼いていくので香り高いラム本来の味をいただけるのです。脂身の甘みとの相性は抜群。細やかなタンニンと芳醇なワインの香りでラムを包み込んで食べて欲しい組み合わせだそうです。
マーブルスコア6〜8とは、日本のA5判定のようなもの。放牧して、牧草を食べさせて育てた牛の肉は、脂身と赤みのうまさが両方楽しめる逸品。噛むと脂身の旨味がジュワーっと広がります。これだけ、旨味が突出したお肉には、スパイシーでタンニンのしっかりあるワインを合わせるのがベストマッチ。口の中の油を分解して、旨味を強めてくれるうえ、ベトベトした油で飽きないよう、2口目もフレッシュな味わいにしてくれる効果があるのだとか。ケーパー、エシャロット、コルニッション(小さなきゅうり)、自家製バーベキューソースがついてくるので、合わせるもので、さっぱりから力強い味わいまで幅広く楽しめます。
「テラ・アウステリア」は、2階がレストラン、3階がバー(ランチはバーガー、ディナーはタパスがいただけます)、4階はパーティやイベントに利用できる個室、屋上はテラスの四層になっているので、目的に応じて利用できます。
アラカルトはもちろん、ランチなら¥2500のコース、ディナーなら¥5800〜のプリフィクスコースも。隠れ家的な1軒なので、美味しいもの好きの友人を誘って出かければ、きっと喜ばれるはずです。
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-29-2
03-6455-4827(2Fレストラン) 03-6455‐4828(3Fバ―)
11.30am~2.30pm(L.O 2pm) 5.30pm~10pm(L.O 9pm)
月曜休
http://www.terra.tokyo/
Photographs & Text by Rica Ogura
いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。