胃潰瘍が命に関わることも……押さえておきたい症状や治療
胃潰瘍の症状や治療を救急医がご紹介します。「たかが胃潰瘍」と侮るなかれ。救急に運ばれてくる方の中には、胃潰瘍が原因で命を落とすケースも……。
はじめまして! 今月よりDRESSで連載を持たせていただきます、中島侑子と申します。
現在、長野県で救急救命医をしておりますが、一時期医者を中断してバックパッカーで世界一周をしていた経験もあり、旅行と医療のスペシャリストとして「旅行医学会認定医」の活動もしています。どうぞよろしくお願いします。
初回は「胃潰瘍」をテーマにした記事をお届けします。胃潰瘍は中高年で発症することが多い病気ではありますが、若い方でもなることがあります。
とくに十二指腸潰瘍は若い人に多く、胃潰瘍と十二指腸潰瘍、両方を総称して「消化性潰瘍」と呼びます。
■胃潰瘍とはどんな症状?
胃潰瘍とは、胃の壁の粘膜の一部分が欠損した状態のことを指します。わかりやすく言うと、胃の壁に傷ができたようなイメージです。
胃は、消化をすすめるために胃酸を分泌しています。通常であれば胃壁は胃粘膜で守られていますが、その防御機構に障害がおきたり、胃酸の分泌が多くなったりすると、胃粘膜は胃酸により攻撃され、傷ついてしまうのです。
胃壁は複数の層構造になっていて、傷が粘膜層にとどまる場合を「びらん」、粘膜下層まで届いた場合を「胃潰瘍」と定義しています。
胃潰瘍、十二指腸潰瘍の代表的な症状としては上腹部痛が有名ですが、胃潰瘍の場合は食後に痛み出し、十二指腸潰瘍の場合は空腹時や夜間に痛みが起こることが多いのも特徴です。また、胸やけや胃もたれを訴える方もたくさんいます。
私が普段働いている救急外来に来られる方は、吐血(口から真っ赤な血や、黒っぽい血を吐く)や下血(黒っぽい便が出る)で運ばれてくるパターンが圧倒的に多いです。
■胃潰瘍の原因
胃潰瘍の原因の3分の2以上は、ヘリコバクター・ピロリという細菌です。最近ではピロリ菌検査や治療が普及し、感染率は徐々に低くなってきています。
他には、バファリンやアスピリンなどの「非ステロイド系消炎鎮痛薬」、つまり痛み止めが原因で胃潰瘍になる場合も増えてきています。その背景としては、高齢化社会にになり、腰痛や膝の痛みに対して痛み止めを継続して飲んでいる高齢者が増えていること、などが挙げられます。
その他の原因としては、アルコールやたばこ、ストレスなども考えられています。
■胃潰瘍の治療
胃潰瘍の治療には大きく分けて薬物治療と内視鏡的止血術があります。薬物治療としては、胃酸の分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬、H2ブロッカーなど)や、胃粘膜の防御機構を強める薬があります。
また、ピロリ菌に感染している場合は、除菌のための薬を飲みます。また、痛み止めを飲んでいる方もこれらの薬を併用することで胃潰瘍になるリスクを減らすことができます。
内視鏡的止血術とは、胃潰瘍から出血してる方を対象に緊急で行うものですが、クリップのようなもので出血している部分を挟んで止めたり、出血部分に薬を注入して止血をします。
吐血、下血をおこし救急車で運ばれないためにも、定期的に健康診断を受け、上腹部痛が続く場合は早めに病院を受診することをおすすめします。
■胃潰瘍の食事療法
胃潰瘍時の食事療法は、厳密に定義されているわけではありませんが、刺激性の食品は避けたほうが好ましいです。アルコールやカフェイン、炭酸飲料、辛い物、たばこなどがこれにあたります。
また、明らかな吐血、下血がある場合は、食べるのをやめて、すぐに病院を受診してください。