恋人を親に紹介するとき「主役」は恋人
元遊び人の筆者が「恋人を実家に連れて帰る」という人生初のアクションを描く短期連載「遊び人だった僕が恋人を実家に連れて帰った」#2。いよいよ実家へ向かい、恋人を親に紹介するときがやってきた……そんななか、久々に会った姪っ子が後のキーパーソンに!?
前回までのあらすじはこちら!
恋人を実家に連れて帰るのって、気が重い……【遊び人だった僕が恋人を実家に連れて帰った】#1
実家の面々との電話で、ひと通りの会話を終えた後、「帰省のことなんやけど」と母親に切り出した。
「うんうん」と母は返す。向こうは毎年の恒例行事くらいにしか思っていない。子供がいくつになっても、久々に顔を合わせるのは、親にとって嬉しいものらしい。
「今回、彼女を連れて帰ってもいいかな?」と本題を打ち明けた。
少しの間があって本意をはかりかねるように「ふむ」と「はぁ」の中間の言葉を母が放つ。唐突なのでもう少し説明しろという雰囲気である。
伝えにくいことを話すとき、理詰めで攻めるのは妙手ではない。あるいは感情的にわめき倒して、良かったためしなどない。
自分の気持ちをただ素直に言うこと、それだけが相手に伝えるための最善で唯一の手段だと僕は考えて、生きてきた。
「すぐに結婚するとかではないんやけど、もう長く一緒に住んでるから、顔だけでも見てほしいなと思って」
「もしかしたら同棲を始めたときのことで、あんまり印象は良くないかもしれへんけど、会ってみてほしいんよ」
■恋愛とは理不尽なもの
こんな感じで伝えると、もともと無下に断る理由なんかないだけに、母からも
「別に会ったこともない子やのに、印象がいいもわるいもないよ」
「ええんちゃうん。来てくれるなら、連れてきなよ」
という返事があった。こうやって文字で表現するよりもはるかに、電話口で戸惑いは伝わってきたけれども、少しホッとした。やや間を空けて、母がこう重ねた。
「……そんなに気が合うんや?」
直前の会話とさほど意味はつながっていない。けれど、僕が何を伝えようとしているのかが、伝わっていることを感じた。
「うん。一緒にいて落ち着くし、楽しいよ」と返した。
母は「そっか。それはええことやん」と言って、あとは実際の日程が決まってからということで電話は終わった。
自分としては気が重いミッションが終わったということで、メゾネットの2階から降りて、彼女のいる1階まで移動した。さすがに長電話すぎて、仕事で疲れきった彼女はすでにカーペットでうたた寝をしていた。
彼女に覆いかぶさって、「一緒に帰ろう〜!」と話しかけたところ、眠くてかったるそうに「うんー」と、どうでも良さげな軽い返事が返ってきたのであった。恋愛とは、理不尽である……。
■恋人を親に紹介する今回の帰省、「主役」は彼女だ
12月も中旬ということで、うまくハマる帰省の便がなく、日帰りとなってしまった。このあたりが行き当たりばったりで決断が遅い僕の欠点である。早めに行動していればベターな条件で行けたはずだ。
このことを実家に伝えると「こっちは来てくれてええけど、さすがに日帰りだと疲れへんか? 別のタイミングでもええで」と言ってきた。
「ちょっと彼女にも相談するよ」と返して、電話を置いた。
彼女とあらためて話をして、日帰りでもOKだろうという結論になった。正直、2人での海外旅行ではけっこうヘビーな旅程を組むこともあるので、1日くらいどうってことはない。
それに1泊でも2泊でも滞在時間が長くなるほど、彼女に負担をかけることになる。一番緊張するのは彼女なのだ。また実家の面々もそれなりに気疲れするだろう。考えようによっては日帰りは良い面もある。
そして、今回は馴染むことではなく、ただ会ってもらうこと。そのこと自体に大きな意味がある。
あらためて実家に帰る旨を伝えると、「そっちがほんまに疲れへんのやったら、もちろん来てくれてええよ」という結論になった。
向こうは向こうで、彼女が同行するから断っているように受け取られたくなかったのだと思う。本当に日帰りが疲れないか心配しているだけ、というニュアンスで語っていた。
そして「帰ってくる」ではなく、「来てくれて」という言葉づかいに、僕の今回の帰省の意気込みを察していることを感じた。
そう、今回の帰省はくつろぐためでも、いつものように親に僕の顔を見てもらうためでもない。彼女に会ってもらうためなのだ。主役は断じて自分ではなく、彼女と家族だ。
ちなみに「それにしても、チケットちゃんと取ってないとか、あんたも相変わらずズサンやなぁ」と少しばかりの嫌味を笑いながら言われてしまい、どこかそれにホッとしてしまうのであった。
■子供が恋人とリラックスして過ごす姿を見て、親は安心するもの
それでも完全に不安を払拭できたわけではない。「経験者」に話を聞きたい思いもあって、年末に既婚の女友達とのランチで少し相談してみた。
「彼氏の親と初めて会ったとき、やっぱり気疲れしたよね?」と女性側からの意見を尋ねる。もちろん緊張したと言いながら、
「息子がその人と一緒にいてリラックスしている姿を見ることで、親は何よりもホッとするものらしいよ」
と彼女が残してくれた言葉が、僕にとって大きな指針になった。彼女の良さを必要以上に実家の面々に押し売りしてプレゼンする必要なんてない。二人でいるときの自然体の姿を、心地よく一緒にいる姿を、ただ見てもらえばいいんだな、と少し気が楽になった。
今回の帰省でどんなに上手く立ち回ったところで、違和感など消せやしない。そもそも出会いとは不自然なものだ。不自然を徐々になじませて、自然な関係になっていく。心の距離を近づけるのに、ショートカットなんかできっこない。
■実家までの帰路の隣に、彼女がいる
彼女と2人で東京を発つ日がやってきた。僕にとっても、誰かと一緒に帰省するのは初めてのことである。
身支度してみると、旅行用にお揃いで買ったカリマーのリュック、色違いのアダムエロペのコート、ジャスティン・デイビスのペアリング。どれだけ仲が良いアピールをしたいんだ! と思われかねないかぶりっぷりに2人で笑った。たまたまなんだけど(ちなみに実家の面々はリング以外は気づいてなかったと思われる)。
それなりに長い旅路を一緒に越えていく。実家は陸の孤島のような場所で、乗り換えの接続が悪いことも、時間がかかってしまう要因になっている。新幹線は通っていない。特急も途中まで。急行も数時間に1本。本当に東京では想像できないくらい不便きわまりない場所。
だけど、自然だけはたっぷりある。彼女は海が大好きだ。定期的に海を見たくなるくらいに。実家に近づくにつれて、広がる美しい海に、心が躍っているようだった。
帰路の隣にいる彼女を見つめながら、胸に去来したのはこんな思いだった。
■恋人を親に紹介する日。姪っ子の反応は……
実家付近の少し大きめの駅まで到着すると、車で父が迎えに来てくれていた。見慣れたセダンから先に降りて駆け寄ってきたのは、7歳になる姪っ子であった。
「東京のおっちゃーん!」と無邪気に走りながら近づいてきた姪は、"今日のご事情"に気づいてギョッとしながらフリーズした。
見たことがない"知らないおねーさん"があたりまえのように、東京のおっちゃんの隣にいるのだ。固まったまま目をパチクリさせながら、挙動不審になっていた。
「久しぶり。この人、おっちゃんの大事な人やから、仲良くしてあげてね」
と言いながら頭を撫でると、頭を縦に振りながら「うん! する!」と無邪気に返してくるのであった。
そして、実は今回の帰省のキーパーソンになるのがこの姪っ子であることは、この時点では僕自身も気づいていないことだった。
(いよいよの実家に続く)