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すべてが完璧。27歳の天才監督が描く家族の愛の物語『たかが世界の終わり』 - 古川ケイの「映画は、微笑む。」#4

グザヴィエ・ドラン監督をご存じですか? 2014年『Mommy/マミー』でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した若き天才監督です。最新作『たかが世界の終わり』で彼が描くのは、自らの死を告げるために12年ぶりに帰郷した人気作家とその家族の「ある1日」。愛と憎しみのぶつかり合い。激しく、美しいフィナーレに、心が揺さぶられます。

すべてが完璧。27歳の天才監督が描く家族の愛の物語『たかが世界の終わり』 - 古川ケイの「映画は、微笑む。」#4

■『たかが世界の終わり』(グザヴィエ・ドラン監督)

DRESS読者のみなさんの中には「関係を発展させるかどうか迷っている人」とのデートの際に、映画をリトマス試験紙代わりに使う方もいらっしゃるのではないでしょうか?

観たい作品が同じだったり、同じシーンで泣いたり、笑ったりできれば「この人とは気が合うかも……」と思えますし、たとえ、観たい映画やお互いの感想が違ったとしても、その違いを認め合えたら、2人の関係は長続きしそうです。

いずれにせよ、映画を観終わった後にゆっくりと感想を語り合う時間は、大人の恋人たちの楽しみのひとつです。

「これからの2人の関係性を見極めたい」そんなときに観る映画は、流行りの大衆向け作品や、スカッとするようなポップコーンムービーより、人生の機微を描いた単館(ミニシアター)系の作品がしっくりきます。

そんな「大人の恋のリトマス試験紙」ムービーとして、DRESS読者のみなさんに自信を持っておすすめしたいのが、若き天才監督、グザヴィエ・ドランの最新作『たかが世界の終わり』です。

■若き天才、グザヴィエ・ドラン監督とは?

1989年、カナダ・ケベック州生まれのグザヴィエ・ドラン監督は現在27歳。

6歳の頃より子役として活動してきたドランは、2009年、19歳のときに脚本・主演も務めた監督デビュー作『マイ・マザー』でカンヌ国際映画祭監督週間部門に選ばれ、若き天才の出現と騒がれました。

その後も一貫して、人間関係における葛藤を描き続けてきたドラン。

母親への愛憎を描いた第5作目となる『Mommy/マミー』で、ついにカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出され、審査員特別賞を獲得します。

『たかが世界の終わり』はそんなドランの第6作目となる最新作。弱冠27歳にして、早くも円熟した作家性を発揮した本作は、同映画祭にてグランプリを獲得しています。

業界では注目を集めていたドランですが、日本での知名度はあまり高くないのではないでしょうか。前作『Mammy/マミー』は映画ファンの間で話題となりましたが、まだまだ知る人ぞ知る監督、という感じです。

■原作は、劇作家ジャン=リュック・ラガルスによる戯曲『まさに世界の終わり』

そんなドランが本作のテーマに選んだのは、1995年に38歳という若さで亡くなったフランスの劇作家ジャン=リュック・ラガルスによる戯曲『まさに世界の終わり』。

亡くなってから急速に評価が高まったラガルスの特徴は、その繊細で詩的な文体。彼の戯曲に魅了される演出家が続出し、現在フランスでもっとも上演されている現代劇作家の一人と言われています。

そんなラガルスの原作を、ドランは詩的な映像と音楽で巧みに描き出します。

「飛行機とタクシーに乗って、12年ぶりに実家へと帰郷する」
ーー台本にしたら、たった一行で終わるような内容ですが、実際にそのシーンを映した冒頭5分間の映像を観ただけでも、ドランの類稀なる作家性を存分に感じることができます。

映像と音楽、カットの一つひとつが、観客にまるで美しいアートに足を踏み入れたような感覚をもたらします。

■『たかが世界の終わり』はどんな内容のストーリー?

物語の始まりは、飛行機の機内。

人気作家のルイは、自らの死を伝えるため、12年前に飛び出した故郷へと向かいます。

ルイに嫉妬心を抱く威圧的な兄のアントワーヌ、ルイとは初対面の兄の妻・カトリーヌ、幼い頃の姿しか知らない妹のシュザンヌ、そして母のマルティーヌ。長い不在の後の再会は、どこかよそよそしさを拭うことができません。

ルイの突然の帰郷は、家族の間に不協和音と恐れを生じさせます。

息子との再会に喜びながらも、帰郷の理由を聞き出せない母。弟への嫉妬から感情を露わにする兄。ルイへの憧れから、これまでの不在を責める妹。

唯一の他人でありながら、ルイの瞳の奥に何かを感じ取った兄の妻。よそよそしい会話の中に、主人公と家族たちの実にさまざまな感情が描かれます。

いつまでも本題を切り出さないルイが、その重い口を開いたとき、押さえつけていた家族の感情は爆発し、衝撃的なフィナーレへと向かいます。

■『たかが世界の終わり』はキャスト、カメラワークも見どころに

ギャスパー・ウリエルにレア・セドゥ、若手演技派俳優たちが集結!

主人公のルイを演じるのは、ギャスパー・ウリエル。『かげろう』でエマニュエル・ベアールの相手役に抜擢されて以降、『ハンニバル・ライジング』で若きレクター博士役を演じるなど、フランスの若手俳優として注目されてきました。

また、2014年には『サンローラン』で天才デザイナー、イヴ・サンローランに扮し、セザール賞にもノミネートされています。

本作でのセリフは多くありませんが、表情の動きひとつで実にさまざまな感情を見せてくれます。

ルイの妹シュザンヌを演じるのは、『アデル、ブルーは熱い色』で主演女優として初のカンヌ国際映画祭パルム・ドールに輝いたレア・セドゥ。2015年の『007 スペクター』でボンドガールを務めて世界中から注目を浴びました。

本作では兄に純粋な憧れを抱き、気を引きたいながらも、素直になれない複雑な思いを抱える妹を、見事に演じています。

グザヴィエ・ドランが仕掛ける、映像の魔法から目が離せない!

前作『Mommy/マミー』では、グザヴィエ・ドラン本人が「インスタグラム・アスペクト」と呼ぶ、アスペクト比1:1の正方形の画面で撮影し、主人公の気持ちの広がりに合わせて画面を広げるという鮮烈な手法が話題を呼んだドラン。

本作では画像のアスペクト比こそ変化はないものの、ギャスパー・ウリエル、レア・セドゥ、マリオン・コティヤール、ヴァンサン・カッセル、ナタリー・パイという実力派俳優たちの息を呑むような演技を、至近距離で映し取ります。

俳優たちの息遣いまで聞こえるようなカメラワークに、観客はまるでその場にいるかのような臨場感を味わえるのではないでしょうか。

■怒り、喜び、悲しみ、憎しみ。理解し合えない家族の絶望の先に

なかなか自らの死を打ち明けることができないルイですが、食事が終わったデザートのタイミングで、ついに重い口を開こうとします。その瞬間、家族のさまざまな感情は一気にピークを迎えます。

ラストに向けて、息つく間もなく展開される5人の感情のぶつかり合いは、始まり同様、あるきっかけで唐突に終わりを迎えます。しかし、終わってみれば、すべてが完璧なタイミングだったように感じられるのが、まさにグザヴィエ・ドラン作品の魔法なのです。

まるで、大胆に重ねられていった絵の具たちが、突如、完璧な1枚のアートとして完成して、目の前に現れたかのような彼の手腕に、私たちはただただ驚くほかありません。

映画界に新たに誕生した、美しきマスターピース。『たかが世界の終わり』は、明日2月11日(土)より全国順次公開です。

■グザヴィエ・ドラン監督『たかが世界の終わり』公開情報

『たかが世界の終わり』
2月11日(土)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA 他全国順次ロードショー
監督:グザヴィエ・ドラン『Mommy/マミー』
出演:ギャスパー・ウリエル『かげろう』、『サンローラン』/ヴァンサン・カッセル『オーシャンズ12』、『ブラック・スワン』/レア・セドゥ『アデル、ブルーは熱い色』、『007 スペクター』/マリオン・コティヤール『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』、『マリアンヌ』
原作:ジャン=リュック・ラガルス「まさに世界の終わり」
配給:ギャガ株式会社
上映時間:99分
公式サイト: http://gaga.ne.jp/sekainoowari-xdolan/
© Shayne Laverdière, Sons of Manual

古川 ケイ

映画・ファッションライター。女性誌や女性向けWeb媒体を中心に、新作映画やオススメのファッションアイテムなどを紹介しています♫

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