華やかさの裏側にある美しさ。変化とともに移りゆく想いを観る【箱根ポーラ美術館を訪れて】
9月10日から箱根ポーラ美術館で開催中の展覧会「ルソー、フジタ、写真家アジェのパリ―境界線への視線」。消えゆく運命にあったパリの風景を描いた作品群たちを観て、DRESS世代の私が感じたことは――。
人はいつでも華やかで目立つものに注目する。お洒落で優雅、美人に美男子、美しい風景に贅沢な食事、または何かの才能がある人。しかし、決して煌びやかでセレブな生き方をしていなくても、そこにはまた違った光がある。景色がある。
40歳を過ぎてから日曜画家として独学で絵を描き始めたルソー、5人の女性と結婚を繰り返した日本人フジタ。写真家アジェは消えゆく運命にあったパリの風景を記録している。
19世紀から20世紀初頭に活躍した3人の作品を観に、緑豊かな箱根ポーラ美術館で開催中の展覧会「ルソー、フジタ、写真家アジェのパリ―境界線への視線」に行ってきた。
展覧会の構成
第1章 変貌する都市パリ:ルソーとピカソ
第2章 フジタの巴里:越境者としての原風景
第3章 アジェのパリ
第4章 壁に刻む:ユトリロ、ヴラマンク、佐伯、岡
第5章 フジタとプティ・メティエ
http://www.polamuseum.or.jp/sp/paris_2016/o_20160825_3/
■「花の都」だけがパリではない。移り行く郊外の人々や風景を描いた3人
19世紀末~20世紀初頭のパリ。目覚ましい技術発展とともに変革を迎えた時代。中心部には中産階級の人々が、その周囲を取り囲むゾーンと呼ばれる周縁部に下層の労働者や移住者が住んでいた。今展覧会のテーマである「境界線」。パリを隔てる城壁と郊外。ルソーは新世紀の都市の風景に好奇のまなざしを、フジタは貧しく孤独、庶民的で見逃されている人物を、アジェは失われゆく運命にあるフォルムに注目した。
3人の作品の特徴や各作品についてそれぞれ見ていこう。まず、ルソーは税関職員として働きながら、40代から日曜画家として絵を描き始めた。当初は批評家たちの嘲笑の的になっていたものの、晩年には才能が認められるようになる。独学だったこともあり、枠にとらわれない描き方もできたという。
今回の展示会の人物像は後ろ向きの作品もいくつかあり、彼が見た景色なのか、それとももっと後方から彼を含めた景色を見たものなのか、興味が注がれる。また、素朴な景色から覗かれる最先端の飛行機や鉄橋など、変貌していくパリを感じられる作品だった。
私たちDRESS世代と同じ年齢から新しいことへとチャレンジしたことに、なんとなく親近感をおぼえる。また、時代は変われど新しいことへの批評は今も昔も存在するのだと知った。それでも画を描き続けるうちに才能を開花させ、のちにピカソにも影響を与えたルソーに対し、尊敬や親しみ、憧れを抱きながら鑑賞を楽しんだ。
フジタは「乳白色の下地」で繊細な線描を特徴とした。寂寥感が漂う風景画から彼が異邦人であることが、絵を通して伝わってくる。また、「小さな職人たち」シリーズは15センチメートル四方の小画面。「プティ・メティエ(しがない職業)」に従事する子どもたち。人がなかなか注目しないような部分を描いた作品に興味を注がれる。
写真家アジェは庶民的かつ平凡でもあり、存在すら見落とされているものにも注目した。進歩が著しい近代化により、消えゆく風景、職業など記録写真としての歴史のために役立てた。
会場では同時代の作家たちの作品も展示。パブロ・ピカソ、モーリス・ユトリロ、モーリス・ド・ヴラマンク、ジョルジョ・デ・キリコ、佐伯祐三、里見勝蔵、岡鹿之助、アンドレ・ケルテスらの作品も展示。
いよいよ季節は秋に突入。せっかくならば美しい四季がある日本、緑豊かな箱根ポーラ美術館で‘芸術の秋‘を楽しんでみませんか?
箱根ポーラ美術館
「ルソー、フジタ、写真家アジェのパリ―境界線への視線」
http://www.polamuseum.or.jp/sp/paris_2016/
会期:2016年9月10日(土)~ 2017年3月3日(金)*会期中無休
主催:公益財団法人ポーラ美術振興財団 ポーラ美術館
特別協力:川崎市市民ミュージアム、東京国立近代美術館、横浜美術館
後援:フランス大使館、アンスティチュ・フランセ
作品点数:約130点(絵画、写真、版画) ※会期中、展示替あり
東京出身。フリーライター。ワーク・ライフスタイル・恋愛・婚活を中心に執筆中。趣味は高校野球・アクリル画、銭湯。