【俳優・内谷正文さんインタビュー #1】 「人生のドン底を経験したから、新しい生き方を見つけられた」
舞台を中心に俳優として活躍するのと並行し、2005年から薬物依存症をテーマにした一人芝居【ADDICTION~今日一日を生きる君~】を全国で公演する内谷正文さん。自身も薬物経験者。その活動を始めたきっかけや願いについてインタビューしました。今回は第1回です。
――最初に自己紹介をお願いできますか。
舞台を中心に俳優を続けながら、2005年から薬物依存症をテーマにした一人芝居【ADDICTION~今日一日を生きる君~】を全国の学校(小中高)や大学などで公演しています。現時点で約180本になるでしょうか。実は私自身が薬物依存症でした。初対面の人にいきなり告白すると一瞬「えっ!?」と引かれるときもありますが……。あえて最初から自分をさらけ出しています。
10代の頃、仲間と軽い気持で始めた薬物(シンナー、マリファナ、覚せい剤)は3歳年下の弟まで巻き込み、家族全員が地獄に落ちました。幸い私自身はなんとか薬物使用を止めることができたのですが、弟は歯止めが利かず重度の薬物依存症となり、私たち家族にとって壮絶な苦悩と葛藤の年月が流れました。
その実体験を元に一人芝居にして、薬物乱用防止のキッカケになればと活動を始めたのです。「薬物なんてやるな!」と偉そうには言えません。ただ「やったらこうなってしまうよ」という実感を込めて伝えています。今なお薬物依存で苦しんでいる人たちや、私自身が薬物の世界に戻らないためにも……なぜなら薬物依存症という病気は“回復はあっても完治はない”恐ろしい世界だからです。
――なぜ役者になられたのですか?
役者を志したのは22歳のときでした。【文学座】の門を叩いたのがキッカケです。
当時は「役者になりたい!」という強い願望より、「有名になりたい!!」といった若さゆえの野心でしたね。それまで某老舗有名デパートの外商部で働いてたのを辞めて、役者の世界に飛び込んだんです。早いもので今年で役者生活25周年になります。
■依存症は人間関係から生じる病
――〔薬物依存〕といっても、あまり私たちの普段の生活にリンクしないのですが……。
私の一人芝居のタイト【ADDICTION】には、中毒や依存の意味があるんですが
“依存症”と聞いて他人事だと思いますか? たとえば、偏頭痛による市販の
鎮痛剤の飲み過ぎはオーバードーズ(過剰服薬)といって立派な依存症です。
身近なものに置き換えると、浪費が過ぎる買い物依存・恋愛依存(不倫、DV、SEX、ストーカー)、スマホ依存、アルコール依存、ギャンブル依存など、周りには依存しやすいものが実はたくさんあります。やめたくてもやめられない、悪習慣が断ち切れないなどの何かしら心当たりがあるのではないでしょうか。
これらの根本には人間関係の希薄さが関係していて、何かに依存することで心の隙間を埋めるわけです。自分自身でなくても身近な人にいるかもしれませんよね。私は依存症とは、人と人との関係から生まれる病気だと思います。
――依存症に兆候やサインはあるのでしょうか?
一概にコレ!というのは難しいですが、私は依存自体はあっていいものだと思っています親子愛、兄弟愛、師弟関係など)。でも行き過ぎると依存症や共依存症になってしまう……「症」が付いたら病気なんです。ある方に聞かれたことがあります。「それを見極めるポイントは何ですか?」と。私は依存症や共依存症の専門家ではありませんが、体験の中から感じたことをお伝えしています。
相手に対して「私がこんなにしてあげてるのに、なんであなたは……」とか「これがないと(この人がいないと)生きてゆけない」と感じたときは危険サインだと思っていいでしょう。そんなときは一瞬、距離を置いて俯瞰してみてください。
他人(ひと)の問題をいつの間にか自分の問題にすり替えて考えていませんか? 知らぬ間に相手をコントロールしようとしていませんか? これらが依存症や共依存症の始まりだと思います。「それは本当に相手が望んでること?」「その行為が本当に子どものためになっている?」など、自分の気持だけを優先させず、冷静になって考えてみることが大切ではないでしょうか。
■どん底へ落ちる経験は必要だった
――回復が困難といわれる〔薬物依存〕を、なぜ内谷兄弟は克服できたのですか?
「今日一日薬物を使わない!」それを日々続けていくことで回復につながりました。だから一日一日を必死に生きてるんです。回復には「薬物を使用する前までの生き方が問題だ」と考えられていて、クスリに手を出す以前の、家族や友人との関係性で変わってくる気がします。そういう意味で生まれて最初に触れ合う母親との関係は、とても大切だと実感しています。
触れ合うことをしっかりと体験している人は自己表現もできて、それが他人とのコミュニケーションにもつながるんです。私たち兄弟の場合、決して見放さず全力で向き合い続けてくれた両親の存在に救われました。もちろん長い年月がかかりましたが……。
現在の薬物依存症は、決して違法薬物の使用だけでなく、処方薬・市販薬・危険ドラックと振り幅は広がっています。そして何らかの心の病の上に薬物依存症が乗っかっているという現実……これは大きな社会問題です。
―内谷さんの御両親様は、どんな方ですか?
お袋は、とにかく明るいですね。とても楽観主義なんですが、さすがに薬物依存の現実を知り弟がおかしくなってしまったときは、母も相当に苦しんだはずです。だからこそ、あえて前向きで楽観的な気持ちを忘れないように心がけていたんじゃないでしょうか。
親父は真面目一本で家族も顧みず仕事に没頭したまま定年退職。その長年の過労の末、腎臓を患い人工透析となり入退院を繰り返していました。今まで家にいなかった父は家族とどう関わっていいか難しさを感じていたようです。
そんな状況の中、弟の薬物依存症は日に日にひどくなっていき、それにより家族の関係性が強固でないことも露呈してしまったのです。あの頃が正に真っ暗闇のドン底な時期でした。でも一度、徹底的にドン底へ落ちることも大切だったのだと思います。
(#2に続く)
取材・構成=鈴木ユミコ (MC & Writer)
〔今日一日を生きるLIVEプロジェクトVol.3〕~Goodbye Drugs, Goodby Addiction~
1)一人芝居 【ADDICTION今日一日を生きる君】…内谷正文
2)体験談「壁のない生活」~聴者と聾者の生活~&手話パフォーマンス…三浦剛×忍足亜希子
3)トークセッション「マイナスをプラスに!」…内谷正文×三浦剛×忍足亜希子
(司会)篠原あさみ
◎入場無料
・日時…2016年6月11日(土) 14時~16時 (開場13時15分)
・場所…志木市民会館パルシティ
(埼玉県志木市本町1-11-50 TEL 048-474-3030)
・アクセス…東武東上線〔志木駅〕下車 東口より徒歩15分
・問い合わせ先…志木市役所 生涯学習課 TEL 048-474-1111