夏近し

夏といえば海。海といえば水着。水着といえばVIO……。しっかりお手入れしていたら、遊んでいると思われそう!という発想は、「ここは男のもの」と言っているようなもの。「そこ」は自分のためにある場所なのだから、自分らしいスタイルを楽しもう。

夏近し

 ゴールデンウィークが終わったら、夏休みまではまたお仕事の日々。今年はどこの海に行こうかなあと、早くも計画を立てている人もいるだろう。水辺といえば、水着。水着といえば、毛の問題。
 先日見たアメリカのある調査では、男女ともに普段から剃るとか抜くとか、何らかの手入れをしている人が9割近くで、少なからぬ人が剃刀負けなどの肌荒れに悩んでいるという。この頃は日本でも、レーザーでVIO脱毛する人が増えていると聞いた。雑誌で特集していたりするので、クリニックに行くのも、さほど抵抗はないだろう。
 私が住んでいるオーストラリアは海が近くて水着になる機会が多いこともあり、お手入れグッズがたーくさん売られている。10代のうちに、親に言われて永久脱毛することも珍しくないと聞いた。何しろいろいろな年齢、あらゆる体型のビキニが浜にあふれるお国柄。私もご多聞に漏れず、夏ともなれば(これから冬だけど)ビキニで子どもたちと海に行くのだが、当然、思いきり動きたい。透き通る広大なインド洋を前にして、ちっぽけな自分の股間を気にしているのは勿体ないではないか。そこで、東京で行きつけの皮膚科に「日本では、みんなどうしているの」と聞いてみた。
 「この頃はI・Oまでレーザー脱毛される方も多いですよ。40代、50代でお手入れを始める人も増えましたね」と看護士さん。
 「へええ。海に行く機会が増えたとか、そういう理油で?」
 「いえ、お肌と同じ、お手入れ感覚です。海外では手入れするのが当たり前と聞いて、じゃあと思い立つ人もいます。お友達に勧められてというのもありますし……毎月の衛生的なことも考えてとか、理由はいろいろですね」
 という彼女もVIO経験者らしい。IとOはなかなか抵抗がありそうだが、慣れてしまえばなんてことはないという。ちなみに施術をするときはどんな姿勢で?と聞いてみたら、一番いいのは、四つん這いだそうだ。なるほど、合理的。
 サンプル数は多いほうがいいので、知人や友人にリサーチをかけてみた。すると、VIOオールクリアで初期化状態という上級者もおり、確かに浸透してきているんだなと実感。
 「毛が白くなるのが嫌で、その前に全部レーザーで抜いちゃったの」
と言う彼女、もう一つ理由があるという。
 「介護のときにね、大変なんだって。お世話してもらうようになったときのことを考えたら、なくしておいた方が親切かと思って」
 おお、その視点はなかった。しかし確かに、介護施設で働いている知人も言っていた。女性の場合は、きれいにするのが大変なのだと。
 介護の話になって、にわかに心動かされる私。いざそのときになって、もう自分ではよくわからなくなっていても、介護士さんに「おっ、抜いといてくれたんだ、気が利いてるな!」とか思われたいではないか。白髪問題は、いっそ真っ白になってしまえばむしろスタイリッシュな気もするが、頭髪と同じで、ごま塩期をどう乗り切るかという課題はある。そしてなんと、白くなってしまうとレーザーが反応しないので、抜くなら黒いうちに!ということらしい。
 彼女のように更地に戻すのもアリだが、面積を減らす場合には、形はどうしているのか。看護師さんいわく、
 「焼き海苔1枚分ぐらいを残す人もいれば、指1本分とか、もっと細い人もいます。三角とか丸とか、形の好みも違いますね」
 そうね、確かにオーストラリアで売っているお手入れグッズの箱にはそんないろいろな型紙が付いている。この型紙に沿って処理すれば綺麗に残せるよ!ということらしいけど、ハートはともかく、バタフライとか難易度高すぎ。
 「やはり一番多いのは、下着の中に収まるような形にしたいという人ですね」
 ふむふむ。世の女性はどのような感じなのか、もしかしたら男性の方が実際に目にしたサンプル数が多いかもしれないな。でも、さすがにそれは聞きづらいよね。
 「ねえ、彼女ってどんな感じ?」
 「頂角40度の二等辺三角形だよ!」
とか、屈託なく教えてくれそうな友人もいない。
 DRESSに脱毛部とか、ないですよね。トレンドはどんな感じなのかなあ。
 この頃は専用洗剤とかクリームとか、レーザーを使った内部のケアとか、いろんな記事も目にするし、身体のありように自覚的な人は増えている様子。私は妊娠・出産を経験して「ああ、ここも体の一部なんだから、ちゃんと大事にしよう」と実感したが、もっと早く、それこそ第二次性徴が始まる頃から、体との付き合い方を知っておくといいと思う。外側だけじゃなくて、仕組みも含めて、正しく知っておくのは大事なことだ。体は自分のものだからね。
 中年が水着を着るとイタイとか、何かあるとすぐ劣化だとか、タレントならずとも、女性の体は「鑑賞に堪えるものでなくてはならない」と思われがちな日本。女性自身がそう思ってしまっているのも厄介だ。本当は「別にお前に見せるために、水着着てるんじゃねえわ。イタイとか、うるせえわ」と言っていいのだけど。
 そんな風に過剰に見え方を気にする一方で、自分にとって最も親密な部分は放ったらかしというのも、妙な話。お手入れなんかしていたら、遊んでいると思われそう!という発想は、「ここは男のもの」と言っているも同然。そこだってやはり、自分のためにある場所なのだ。自然のままに生きたい人も、細部までファッショナブルでいたい人も、介護を視野に入れてしっかり備えたい人も、それぞれのスタイルにすればいい。今は誰だか見分けのつかない、大浴場の床から80センチのあたりの景色が、これからはもっと多様になるといいなあ。

小島 慶子

タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族と暮らすオーストラリアと仕事のある日本を往復する生活。小説『わたしの神様』が文庫化。3人の働く女たち。人気者も、デキる女も、幸せママも、女であることすら、目指せば全部しんどくなる...

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