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アラフォー女性が映画通な理由

5月21日いよいよ公開する柳楽優弥主演の『ディストラクション・ベイビーズ』。少年の暴力と狂気を生々しく描いた同作は、かつて私たちが通ったミニシアターの匂いがする……。

アラフォー女性が映画通な理由

アラフォー女性が、映画通な理由(ワケ)

アラフォー女性は、映画通である。

思春期の頃はレンタルビデオが全盛期だった。学生のアルバイト収入でも支払える数百円で、観たい映画を観たいときに観ることができた。私たちの多感な時期を、多様な作品たちが救ってくれた。

 大学生時代はミニシアターが華やかりし頃。当時、渋谷界隈で観た映画といえば『恋する惑星』『天使の涙』『奇跡の海』『トレインスポッティング』などなど。タランティーノしか知らない人は、もはや、もぐり。パトリス・ルコント、ヴィム・ヴェンダース、ラース・フォン・トリアーとかとか。これらアート系の映画監督の名前は、知っていてあたりまえだったというわけではない。でも、知っていたからといって、特別映画好きだというわけでもなかったように思う。当時、音楽の「渋谷系」もそうだけど、流行を追いかけないスタンスが、一部で流行していたのだ。

 今年1月。ミニシアターのシンボルだった渋谷シネマライズが閉館。ひとつの時代が完全に終わったことにしみじみとした。そして、思う。(こんな指摘をする人は少ないだろうけど)私たちの世代は「映画を愉しむ」という点において、もっとも恵まれた世代だったんだろうな、と。

「残りの人生をどう生きるか」考えさせられる名作が5月に公開!

 あの頃、私たちはミニシアターやアート系映画に、いったい何を求めていたんだろう? 

 表層的には大衆的なものへのアンチテーゼだったり、オシャレだったり、個性、例えば「アキ・カウリスマキってさぁ…」とか言えちゃう自分だったり。でも本質的には、生きるということだったり、私たちが生かされている社会や文化や制度を理解しようとすることだったり、それらについて考えるきっかけだったり、を映画に求めていたんだと思う。

 現在、私は41歳。もういい大人だ。オシャレのために、また、自らの個性をアピールするために映画を選んで観る年齢ではなくなった。そんな私が不覚にも、あの頃のなつかしい焦燥感を再び味わった。生きること、自分がこの世に受けた生命をどう使い切ろうか、そんなことを真剣に考えさせられる映画と出会った。映画『ディストラクション・ベイビーズ』は、日本映画の歴史に残る青春映画の金字塔になることは間違いない。

 舞台は愛媛県松山市西部の港町・三津浜。海沿いの造船所のプレハブ小屋に、ふたりきりで暮らす芦原泰良(柳楽優弥)と将太(村上虹郎)。日々、喧嘩に明け暮れていた泰良は、ある日を境に町から姿を消す。それからしばらく経ち、松山市の中心街。強そうな相手を見つけては喧嘩を仕掛け、逆に打ちのめされても食い下がる泰良の姿があった。街の中で野獣のように生きる泰良に興味を持った高校生・北原裕也(菅田将暉)。裕也は「あんた……すげぇな! オレと面白いことしようや」と泰良に声をかける。こうしてふたりの危険な遊びが始まった。

ほとばしる剥き出しの魂――少年の純粋な狂気にのみ込まれる

 拳を振い血を流しつづける日々。喧嘩に明け暮れていた泰良は、いったい何を感じていたのだろか。死と隣り合わせの日常で「生きている自分」を実感していたのではないだろうか。喧嘩をすることで、血を流すことで、確認できる「自分の存在」。泰良の剥き出しの魂は、狂気ではあるけれど純粋でもある。泰良が劇中で発するセリフはたった五つしかない。口数の少ない寡黙な少年だ。しかし、初めから終わりまで彼は観客に問い続けているかのようだった。

「あなたは、どう生きている?」
「自分の命をどうやって使い切る?」

 108分間、衝撃シーンの連続だった。当然のごとく、暴力や少年犯罪を肯定する映画ではない。しかし、昨今の窮屈な社会の風潮から様々な反響を呼ぶかもしれない。ネガティブ・プロモーションが巻き起こるかもしれない。今後発生するかもしれない類似性のある事件との因果関係を語られるかもしれない。

 でも、DRESS世代のあなたなら大丈夫。大人の女性が自分の人生を見つめ直すには最適な、極上のエンターテイメント作品。あの頃に観たミニシアターの匂いがする。安心して、そして、心して鑑賞してほしい。

 加えてもうひとつ。DRESS世代の『ディストラクション・ベイビーズ』の楽しみ方をご紹介。柳楽優弥といえば『誰も知らない』(2004年/監督:是枝裕和)で主演を果たし、一家の長男・明役でデビュー。14歳の若さでカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞した奇跡の俳優である。あれから12年。あの明と今作品の泰良には、孤児という共通の設定がある。どことなくリンクしてしまうのだ。

 劇中、何度か見せた泰良の笑みが忘れられない。



5月21日(土)テアトル新宿ほか全国にて公開 『ディストラクション・ベイビーズ』

製作年 2016年/製作国 日本/ 配給 東京テアトル/上映時間 108分/映倫区分 R15+

オフィシャルサイト

Yang Yii

41歳。さすらおう…この世界中を。
転がり続けて歌うよ… 旅路の歌を。

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