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女選びは慎重に【甘糟りり子の生涯嫁入り前】

大切なのは、嫉妬の飼いならし方。男を見る目には今でも自信がないけれど、女を見る目はそこそこある。……と、思う。数少ない同世代の友人たちはたいてい、彼氏にしたいような頼りがいがあっておもしろい女ばかりだ。

女選びは慎重に【甘糟りり子の生涯嫁入り前】

先日、その中の一人と温泉に行った。鹿児島の「天空の森」。温泉なんて男と行くところという友人と、女同士でわざわざ遠出するぐらいなら家でごろごろしていたい私。彼女の視察に私が便乗する機会があって、この独身同士の組み合わせになった。裸で温泉に浸かりながら、互いの身体をさりげなくチェック。月明かりの下ならまだ大丈夫よ!となぐさめ合ったり、脇の肉をつまんで「ここはがんばろうね」と励まし合ったり。美味しい食事の後もまた露天風呂でくつろぎ、夜中まで打ち明け話をしたりもした。友人も私も、女同士の旅行って意外と悪くないじゃん、と考えを改めた。

実は、女二人の旅行には、ちょっとしたトラウマがあった。あれはまだ、中年なんて遠い先だと思っていた三十代半ばのこと。同世代の女友達と国内旅行に出掛けた。夕食の後、女二人で雰囲気のいいバーに入る。彼女はカクテルを注文し、私は白ワイン。

「ねえ、どうせ、一、二杯じゃ済まないから、ボトルで頼んで一緒に白ワインにしない?」

なんの気なしにいった私のこの言葉で、彼女は突然、ブチ切れた。

「あんたって、どうして、なんでも自分の思うように持ってくの? 私はカクテルが飲みたいのよぉっ」

ただただ、びっくりした。
いったん堰を切った彼女の感情は止まらない。いわく、私はとんとん拍子に上手くいっていていい気になっている、私の勝手な思いつきのために自分を含む周囲はとても振り回されている、会社勤めじゃまず通用しない(知ってるよ、そんなこと)、自分で思っているほどイケてない、等々……。陰口はちょこちょこといわれてきたけれど、面と向かって自分を否定されたのは、あれが最強だった。
思わずあふれた涙とともに、それまでのささやかな違和感が少しずつよみがえった@雰囲気のいいバー。
 
忙しいかという問いかけに、原稿用紙で三百枚ちょっとの長編を仕上げたからさすがに疲れたと答えたことがある。分野の違う彼女は、無理矢理自分の仕事に三百枚を置き換え、たいしたことない、それぐらい私だってこなしている、といったっけ。

さらにさかのぼれば、シャンデリア&ふかふかソファのバーに男性を含めて飲みに行った時、私はプラダの膝丈のスカートをはいていた。後日、私が、下着が見えそうなスカートでわざと足を組み替えていて不愉快だった、といわれた。男性が私に思わせぶりな冗談を連発していたから、そう感じたのかもしれない。

彼女は、私のことが気に食わなかったのですね、ずっと。なんとなく運だけでやってこられて、チャラチャラと楽しそうにしている、と思っていたようだ。まあ、おっしゃる通り、なんだけれど。恋愛感情も友情も、相手の現状や欠点を受け入れない限りは成立しない。あれから私は、「女二人」の遠出を極力避けるようになった。

女同士の感情には、残念ながら常に嫉妬がつきまとっている。だからこそ、その質と飼いならし方にその人自身が現れると思う。

もし仮に、自分の好きな人と私が恋愛関係であるとか、あるいは、もし仮に、自分が〆切や部数のプレッシャーだの孤独だのを引き受けてでも物書きになりたいとしたら、私に嫉妬するのはわかる。自分が欲しいものを持っている相手に対する嫉妬は、当然だと思う。その類いなら、するほうもされるほうもエネルギーの源になったりもする。でも、なんとなくオイシい思いをしてそうだと(実際は、私に限らずそうでもないことが大半だよ)、いらいらした感情を抱くようなセコい女と友達ごっこするほど、私は暇ではない。

私は、万が一、下らない嫉妬が心に芽生えたら、冗談まじりに相手に伝えるようにしている。不思議なことに、言葉にすると、すうっと消えていく。元々、その程度の感情なのだ。 
そう、女は度量、男は愛嬌。

男の人のセコい嫉妬を、「もう、かわいいんだからあ」とつい思ってしまう私には、また別の問題があるような気がする……。

甘糟りり子さんのプロフィール

あまかす りりこ 作家。1964年横浜生まれ。玉川大学文学部卒。
都市に生きる男女と彼らを取り巻くファッションやレストラン、クルマなどの先端文化をリアルに写した小説やコラムで活躍中。『中年前夜』『オーダーメイド』など著書多数。読書会「ヨモウカフェ」主宰。

DRESS August 2013 P.49掲載

甘糟 りり子

作家。都市に生きる男女と彼らを取り巻くファッションやレストラン、クルマなどの先端文化をリアルに写した小説やコラムで活躍中。『産む、産まない、産めない』など著書多数。読書会「ヨモウカフェ」主宰。公式ブログ http://ame...

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