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東京の父 【DRESS WEB編集長コラム 今月のDRESSな男女#3】

谷底に転げ落ちてしまったとき、手を差し伸べてくれる「東京の父」。記憶を手繰り寄せると、誰しもきっと、そんな温かい存在の人がいるはず。

東京の父 【DRESS WEB編集長コラム 今月のDRESSな男女#3】

密かに「東京の父」と呼んでいる男性がいる。
ご縁あって4年前に出会ったアラフィフ男性で、故郷に住む父よりはるかに若いのに、なぜか私が内心で父扱いしているのには理由がある。既婚者である彼は私の女性性に興味関心を持っていないこと、そして窮地に陥ったとき、いつも引っ張りあげてくれること。その度に彼のような人が父だったら、と妄想するのだ。

あるとき久々に、東京の父から連絡が来た。共通の知人から私が離婚したと聞き、コラム「女を磨く離婚道」にも目を通したらしい。その頃、私は離婚の悲しみから立ち直る代わりに、新たな問題を抱えていた。それには母が絡んでいる。

詳しくは別の機会に譲るが、昔から母は極端に怒りっぽい性格である。今年、私は上京して初めて、母の誕生日にメールするのを忘れた。今まで11年間、一度も欠かしたことはなかったけれど、今年はふっと抜けてしまったのだ。

翌朝に詫びと贈り物を手配した旨、連絡を入れると、苛立ちや憎悪であふれる長文メールが数日に渡って届いた。「育ててやった恩を忘れている」「今までにかかったお金をすべて払わせる」など、頭を抱えてしまう内容だらけで、呆然とするしかなかった。

そうして私の心が傷だらけになったのを見計らったかのように、絶妙なタイミングで届いた東京の父からのメッセージ。「大変でしたね。大丈夫ですか?」

私は離婚よりも、母からの攻撃で気持ちが落ち込んでいること、母との窮屈な関係性のことをテキストに綴り、彼に送った。真夜中だったけれど、すぐに既読になる。彼は私の重たい打ち明け話をすべて受け止め、母に対してどんな対応をすべきか、母娘間の関係改善に向けたアイディアを提案してくれた。

彼が最初に私を救ってくれたのは、およそ4年前のこと。ある騒動が起きて取り乱した私のもとへ、平日の夕方、関係各所への調整を済ませた上で、彼は駆けつけてくれたのだった。

憔悴しきった私を元気づけ、安心させてくれて、最寄駅前の喫茶店で一緒に過ごしてくれた彼は、1時間ほどして帰っていった。年齢は20歳も離れていないのに、その広く大きな背中を見送ったときから、私の中で彼は「東京の父」となった。

良く言えば優しい、悪く言えば優柔不断で頼りない田舎の父とはかけ離れた人である。足りないピースを埋めるかのごとく、“自らが所有していないもの”を求めてしまう私のクセは、ずっと直らないのかもしれない。

そんな東京の父と数年ぶりに会えることになった。「母の誕生日事件」に感謝することにしよう。それにしても緊張する……。他のどんな男性と会うよりも、気持ちがピンと張り詰める相手である。父であり、尊敬する師匠でもある彼と対面し、どう感謝の意を伝えるのが適切なのか。今から頭を悩ませている。

池田 園子

DRESS編集長(2016年1月〜2020年1月)。

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