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小野美由紀さんが選ぶ、私に影響を与えた5冊の本

今月、本をセレクトいただくのは『人生に疲れたらスペイン巡礼~飲み、食べ、歩く800キロの旅~』などの著書がある、文筆家の小野美由紀さん。小野さんが送ってきた読書人生とは……?

小野美由紀さんが選ぶ、私に影響を与えた5冊の本

■あなたは真理子派? それとも邦子派?

編集者さんに「文章の勉強になるから」と薦められて読み、強く心に残ったのが『ワンス・ア・イヤー 私はいかに傷つき、いかに戦ったか』(林真理子)と『夜中の薔薇』(向田邦子)。両方とも20年以上前に書かれた本ではあるが、どんな時代を生きる女にも共通する「女の性」を鮮烈に描き出し、今読んでも胸を打つ。

『ワンス〜』は林真理子さん自身の、無名時代から結婚するまでの赤裸々な恋愛遍歴を綴った私小説。特に「30歳 有名人」の章では、現・幻冬舎社長の見城徹さん(がモデルとなっている、正岡という編集者)との出会いが臨場感たっぷりに描かれる。お互いの魂を切り結ぶような白熱した男女の鍔迫り合い。これほどウィットに富んだ会話を書ける若い書き手が最近いるだろうか。主人公である“私”は徹頭徹尾、傲慢で強欲。男を取り替え、傷つき傷つけながら作家としての頂点へと上り詰めてゆく。そのギラギラとしたむき出しの女の欲は時に醜くも「仕事で恋愛で、お前は高みを目指して “戦う”覚悟があるか?」と読み手に深く問いかける。

『夜中の薔薇』の「手袋」という章は、「私が私であるゆえん」をふと考えさせるような、深く心に沁み入るエッセイ。手袋をしないのは寒々しくて無作法とされていた、昔の美意識にも驚かされるが、若い向田さんが“気に入らない手袋なら、しないほうがマシ”と「自分なりの生き方」を貫くことを心に決めるまでの過程が、冬の夜空のような透徹したトーンでしずかに語られる。

“多分私は、ないものねだりをしているのでしょう。一生足を棒にしても手に入らない、これは、ドン・キホーテの風車のようなものでしょう。でも、この頃、私は、この歳で、まだ似合う手袋がなく、キョロキョロして、上をみたり周りを見たり、運命の神様になるべくゴマをすらず、少しばかり喧嘩ごしで、もう少し、欲しいものを探して歩く、人生のバタ屋のような生き方を、少し誇りに思っているのです。”(『手袋』より)


すがすがしい冬の大三角形の真下、手袋をせずにひとり背筋を伸ばし、きりりと前を見て歩く若い女性の姿が思い浮かぶ。
30歳、これからどうやって生きてゆくのだろう。そんな問いが心にぐるぐると渦巻いていたとき、「私は私の個性を世間のために曲げず、しつこく欲しいものを追い続けよう」と静かに決意する向田さんの姿が自分と重なり、勇気づけられた。
前者は熱くねばっこく、後者は清々しい。どちらも「女の性」である。読み比べてどちらにより共感するかを確かめるのも楽しい。あなたは真理子派? それとも邦子派?

■しなやかにしたたかに人生を変えていける—“女”という性は愛おしい

「女の人生は楽しい!」そう気づかされたのが、整体師・奥谷まゆみさんの著した『おんなみち』。これを読んでから、それまで煩わしかった月一回の生理が楽しみになり、不安でしかなかった妊娠・出産を「してみたい」と心から思えるようになった。

女の身体のしくみ、年齢に応じた快適な使い方を、整体師としてこれまで何千人もの身体を見てきた奥谷さんが易しい言葉遣いで伝授。ケアの仕方や動かし方によっては、身体って実はすごいパワーを発揮するんだ!と気づかされる。

とりわけ響いたのは「今のあなたの身体は、これまでの行動や習慣の集積の結果。ということは、今からいくらでも変えられるし、身体が変われば心も変わる。人間、いつからだって変われるんだよ」という奥谷さんのメッセージ。

20代前半、母親との関係に悩み、自分は一生ダメな人間のままなのか……とくよくよしていた私は、この考え方に涙が出るほど勇気づけられた。
人生はいつからだって自在に変えられる。外的な環境に押しつぶされることなく、しなやかにしたたかに生きてゆける、それが女……。

“女”という、時に不便で時に煩わしい性を、愛しいものとして捉え直す機会をそっと与えてくれる一冊。現在妊娠育児中の女性には『0歳〜18歳までの骨盤育児』もおすすめ。

■素晴らしい読書体験は目に映る世界を変える

「身体に残る読書」というものがある。
小学校3年生のときだ。母の書棚に入っていた村上龍の『限りなく透明に近いブルー』をこっそり取り出し、内容をほとんど理解しないまま読み進めていたところ、突如「黒人の苺のようにめくれあがった肛門」という描写が目に飛び込んできた。苺と黒人の肛門。私の中で世界の端と端ぐらいにかけ離れていた事象2つが合わさった瞬間、目の中にピカッと稲妻が走り、その鮮烈なイメージは私の脳裏に焼き付いた。言葉が身体に残る、という体験を、このとき私は初めて味わった。トラウマティックなほどに新奇な表現に出会ったとき、自分の世界と作者の世界が融合し、固定されていた視座はいとも簡単に撥ね落とされる。いじめられっ子だった小学校4年生のときに読んだ山田詠美の『風葬の教室』は、「いじめ」という行為に対する新たな見方を教えてくれたし、本を閉じたあとにはいじめっこも彼らのいる教室も、前ほど怖いものではなくなっていた。

すぐれた表現は読者の身体と心に深く残り、眼球を通して見える世界までをも変えてしまう。
人と関わるのが苦手で、一人遊びばかりしている(大人になってからも!)私にとって、読書は他人の見ている景色を垣間見、自分の目に映る世界を刷新するための重要な機会である。“人付き合い”の代わりに“本付き合い”を重ねて、目に映る世界を刷新し続けたい。

小野美由紀さん
文筆家。1985年生まれ。慶応義塾大学フランス文学専攻卒。恋愛や対人関係、家族についてのコラムが人気。著書に『傷口から人生。〜メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』(幻冬舎)、『人生に疲れたらスペイン巡礼~飲み、食べ、歩く800キロの旅~』(光文社)、『ひかりのりゅう』(絵本塾出版)などがある。

小野 美由紀

作家。1985年東京生まれ。エッセイや紀行文をWeb・紙媒体両方で数多く執筆している。2014年、絵本『ひかりのりゅう』(絵本塾出版)15年、エッセイ『傷口から人生。~メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』(幻...

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