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正しい選択肢を選ぶより、選んだ選択肢を正しくする

正しい選択肢を選ぶより、選んだ選択肢を正しくする


年末年始は乳呑み児を抱えていることもあり、自宅周辺で大人しくしていました。Facebookなどで友人たちの楽しそうな写真を羨ましく眺めながら、自分が送った年賀状も人から見たら、さも充実しているように見えるのだろうなと思いました。

昨年は30歳で2児の母になり、著書がHRアワードという賞の書籍部門で優秀賞をいただきました。我が家に届いた年賀状には「ご活躍ですね」というコメントをいただくことが多かったです。

その内実は、アデノウイルスやノロウイルスに襲われ2児の育児にあたふたし、まだまだ仕事との両立に葛藤や不安を抱える一人のワーキングマザー。「ご活躍」しているように見えるメディア上の自分とのギャップがずいぶん大きく感じて、自己嫌悪すら沸いてきました。

産後に陥りがちなネガティブ思考の一種なのかもしれません。育休中で、良くも悪くも振り返る時間が増えているせいなのかもしれません。働いている間は、前職を辞めたことを後悔した瞬間は1秒たりともなかったのですが、まだ新聞社で働いていた1年前と比較してみたり、また今後10年くらいのことを考えてみたりして、転職し個人でも発信しはじめたことについて「これでよかったんだろうか」「これから大丈夫だろうか」という気分になることもありました。

我が子を見て「産まなければよかった」と思ったことは一度もありません。でも、やっぱりライフイベントで大きく人生設計自体が変わっていったことは事実。あのとき、あのタイミングで結婚していなかったら……? 結婚・妊娠があったからこそ『「育休世代」のジレンマ』のテーマに出会えた半面、新聞記者という仕事自体は本当に好きだったので、活躍している同世代を見ていると別の「あったかもしれない未来」を想像してみたくなります。


でも、30~40代になれば、きっと誰もがどこかで「あったかもしれない未来」に想いを馳せてしまうような分岐点を経験してきているのでしょう。私と反対で「あのとき、結婚していれば」「あのとき、子供を産んでいれば」と後悔している方もいるかもしれません。

特に女性の場合、ある選択肢が採れなかった背景には、個人の問題を越えて、世代丸ごとの構造があった可能性もあります。また就職氷河期世代は、男女ともにほかの世代に比べて割を食っている面もあるかもしれません。バブルを謳歌して社会保障の崩壊からは逃げ切れそうな上の世代も、制度が整って仕事も家庭も充実させようとする後輩世代も妬ましい。

でも「罪を憎んで人を憎まず」ではありませんが、「時代を憎んで人を憎まず」。その時代背景と変化を知ったうえで「新しい時代をよりマシにしていくには」を考えるしかないのではないかな、と思います。

個人としては、「正しい選択肢を選ぶより、選んだ選択肢を正しくする」ということを意識していたいです。検索してみたらDeNA創業者の南場智子さんの『不格好経営』にも出てくる文言のようですが、この本の出版よりかなり前、大学時代に同級生が座右の銘として挙げていたことがあります。

当時も「なるほど」と思ったのですが、昨年大きな決断をいくつもした私にとっては、今年の抱負として、そして新年度にまた2児の育児と仕事の両立というスタートを踏み出す上で大事にしたい言葉です。

「あったかもしれない未来」をちょっとくらい想像してみるのも悪くはないけれど、実際の未来を、今までしてきた選択の延長上で作っていくしかない。

ある尊敬する研究者の方からの年賀メールにこんな風に書かれていました。「中野さんの欲張りな生き方にはいつも感心すると共に勇気付けられます。中野さんと後に続く方々が日本の職場を変えていくことを祈っています」。

「欲張りかぁ」と苦笑しつつも、チャレンジングな選択をして、欲張りに贅沢にやりたいことを諦めない一人ひとりの行動が、結果的に本人にとっての「正しかった道」となっていき、それが広がっていったときに憎んでいた「時代」が変わっていくのではないかと思っています。

中野 円佳

女性活用ジャーナリスト/研究者。『「育休世代」のジレンマ』(光文社新書)著者。東京大学教育学部卒業後、日本経済新聞社入社。金融機関を中心とする大企業の財務や経営、厚生労働政策などを担当。14年、育休中に立命館大学大学院先端総...

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