物語の中に取り残されたい夜に【TheBookNook #58】 4/4
3. 山口未桜『禁忌の子』
救急医の主人公の元に、顔も身体も自分と瓜ふたつの溺死体が搬送されたところから始まる本作品。評判の高さも納得の一冊でした。質の高い謎解き要素に加え、センシティブとも言える題材の描き方が抜群にうまい……。
直視することができない重たいテーマで、後を引く読後感でしたが、ミステリーとしても医療小説としても“極上”。それでいて、描かれている人間たちが濃厚で、読み手によって誰もが“主人公”になりうるような一冊でした。これがデビュー作というから驚きです。著者の山口未央さんは現役の医師。それゆえによりこのテーマが重くのしかかってきます。
“we were born”という祝福と、“禁忌の子”という罪業がイコールになるおぞましさ……。人の業の前では、小説としての謎解きが色褪せます。事件の解決の先にあるのは事実という名の地獄。その地獄に浄土を見ることができるのも人間。
読後にどんな感情を抱いても、その感想が現実の全て。後半、タイトルの本当の意味がわかった時の衝撃は今でも忘れません。できるだけ前情報は入れずに、できるだけ紙の本で、できるだけ一気読みで触れてほしい一冊。読んでも読まなくても後悔します。
■本は一度読んだら終わりではありません
読み終えた後もう一度そっと表紙を見てみてください。最初に出会ったときとはきっと違う顔をしているはずです。本は一度読んだら終わりではありません。
答えが出てしまうミステリーであっても、二度三度と楽しむことができます。この書評もあと残り1回。紹介してきた中のどれか一冊だけでも、みなさんの心に残っていることを祈っています。
それではまた。
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