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「どうでもいい人の話は、気にしなくていいんだよ」〜ブルボンヌの場合〜

“オネエ”と呼ばれる人たちの素顔に迫る連載、『オネエのすっぴん』。女装パフォーマーのブルボンヌさんにお話を伺いました。

「どうでもいい人の話は、気にしなくていいんだよ」〜ブルボンヌの場合〜

ドラァグ・クイーンもトランスジェンダーも女装家も、なんでも「オネエ」とまとめたがる乱暴な時代で、さらりとそれを引き受ける方の素顔に迫る連載『オネエのすっぴん』。
今回は、女装パフォーマーのブルボンヌさんに話を伺いました。

テレビのバラエティ番組出演から、ラジオパーソナリティ、講演まで幅広くこなすブルボンヌさん。

彼が初めて女性装に惹かれたきっかけはなにか。
そしてこれまでどんなことを願い、悩み、歩んできたのか。
素顔のままで語っていただきました。

ブルボンヌさん プロフィール

女装パフォーマー/ライター。1990年にゲイのパソコン通信ネットワークを企画・設立。その後、ドラァグクイーンとして、全国のイベントやパレード、映画のキャンペーンなどに参加。と同時に、ゲイ雑誌『Badi』の編集主幹、ライター、エッセイストとして女性誌、映画雑誌、週刊誌などに連載、寄稿する。女装パフォーマー集団「Campy!ガールズ」のメンバーとして、全国のクラブイベント、各種メディアでも活躍。本名は斎藤靖紀。

■着飾ることの力を教えてくれた母

私が女装というか、着飾ることの魅力を最初に感じたのはオカンからなんです。

母は若い頃にテレビの深夜番組に出てシャバダバ言ってた人でね。その後地方都市に移り住んで歓楽街でスナックを開くっていう、深夜番組に出てた女のお決まりコースをいったような人だったんですけど(笑)、やっぱりそういう世界で生きてる人だから、綺麗だった。

授業参観に来てくれるとパッと目立ってね。男の先生からも「母ちゃん綺麗だな」って言われたり、時代ですよね。でもそれが私はうれしくって、自慢だった。オカンが出勤前に化粧をする姿を見て、かっこいいなっていつも思ってましたよ。

彼女は主婦グループともつるまなくてね。ずっとひとりでいるもんだから「いいの?」と聞いても「群れるの嫌いなのよ」とさらっと言うような人でした。いつも堂々としていて、シングルマザーのまま私を大学まで出してくれて。母は私の誇りですね。

あの人のもとで育ったことが、私に「自分は自分でいいんだ」と思わせてくれたんじゃないかな。私も幼い頃は人並みに、自分の女性的な部分というか、やわらかさをからかわれてしょげたりもしたんですけど、でもふさぎこむほどに苦しまなかったのはオカンの影響が大きいと思います。マジョリティでないことは決して悪ではないと、彼女を見て知っていましたから。

■女装はやってみたかったけど、ドリフもおもしろくて

私がはじめて女装をしたのは今から25年以上前。ただの余興だったんですよ。身内の小さなイベントで。それがまさか仕事になるなんて思ってもみなかった。面白いですよね、今じゃこれでテレビにも出てるんだから。

そのイベントは仲のいいゲイの友人たちとやっていたんですけど、今Netflixで話題のル・ポール先生(※1)が出したアルバム『スーパーモデル・オブ・ザ・ワールド』が当時流行っていて、その曲でショーをやりたいよねってなったんです。じゃあ女装しなきゃ! ってみんなで騒いでね。

だけどいざ準備を始めたらもう“上っ面女装”で。『プリシラ(※2)』みたいな映画を観たり、日本初のドラァグクイーン・ムービーと言われる『ダイヤモンドアワー』を見たりとか、表面的には最新のドラァグカルチャーを取り入れたりはしたんですけど、どちらかというと「ドリフたのしいね」みたいな人間の集まりだったので格好いいのはできなかったの(笑)。

だから海外のドラァグカルチャーと日本のコミックカルチャーの融合みたいな感じで、たとえば『ガラスの仮面』のパロディー女装劇をやるとか、そういうことになったんです。

メンバーはみんな面白い子ばかりでしたよ。「新しい何かをしたい人の集まり」という空気があったと思う。みんなで自主制作の映画を撮ったりしてね。その映画の脚本家も今じゃ売れっ子になられてるし、エスムラルダさん、肉乃小路ニクヨさん、バブリーナさん、皆さんそれぞれのフィールドで活躍されてます。実はマツコ(・デラックス)さんが初めてショーをしたのも私たちのイベントじゃないかな。今になってみたら、あれは日本らしいカルチャーの構築の仕方だったんじゃないかって……、思うことにしてます(笑)。

■最後のお便り「ブルちゃんはもう、自虐なんてしなくていい」

芸能界には、マツコさんやミッツさんが作ってくれた女装オネエ枠の端くれとして少し入らせてもらったんですけど。

はじめはワイドショーとか雛壇のお仕事をさせてもらって、10年くらい前からかな、ラジオや講演のお仕事に力を入れるようになりました。「語り」の仕事と言えばいいかな。

ラジオをやることになったときは、一番の武器であるビジュアルを奪われるので不安だったんですよ。聴いてる人からすると生温い、なよなよしたおじさんのトークにしかならないんじゃないかって。

しかもオファーをいただいていたのがNHKのAM、その上お昼の番組っていうコンボだったから、聞いてくださる方は50〜70代が中心でね。みなさん「農作業しながら聴く」みたいな世界だったから、自分のことなんてきっと受け入れてくれないって思ったんです。

でも、事務所の社長が「やってみないとわかんないじゃん!」って背中を押してくれてお受けして。でも、やっぱり私は自信がなかったんでしょうね。いざ始まってどうしたかっていうと、自虐のギャグを多用したんですね。「みなさん、得体の知れないオネエ声にひいてませんか?」とか「異物混入しちゃってごめんなさいね」とか言って。世間のおじいちゃん、おばあちゃんに嫌われたくなかったから、嫌われるより先に自虐を言えばいいんだって。小馬鹿にされている前提でいれば「気さくでいいヤツだな」くらいには思ってくれるんじゃないかと思ったんです。

それで結局2年もやらせてもらって。ファンと言ってくださる方もできたり、たくさんお便りもいただけて、本当に頑張ってよかったと思ったんですけど、最終回でいただいたお便りに「ブルちゃんはいつも『自分なんて』って笑って言うけど、すごくステキな方なんだから、そんな風に思わなくていいのよ」って書いてあったんですね。「まっとうなこと言ってるんだから、自虐なんてしなくていい」って。「これまでありがとう」って。

私、放送事故並にギャンギャン泣いちゃってね。あー全部バレてたんだって。ちゃんと伝わってたんだって。
「女装は武装」って私はよく言うんですけど。女装を始めてからずっと、なんだろう、自分の中の弱さを払拭したくて。メイクして頭に花とか乗せて「ここまでやってんだから、えらそうに真ん中いっちゃうよ!」ってパワーをもらってきたんですけど、でもそれを続けてきた先で私が結果できたことは、素直な気持ちを語るということだったんだと思います。……この話、思い出すとやっぱダメだわ(笑)。

新宿二丁目でひどいショーをやってた頃を知ってる他のドラァグ・クイーンの子が、今の私を見て「いい子ちゃんになったね」って言うこともあるし、そのことで切なくなることもありますけど、ひどい毒舌が笑いにはなりづらい時代で、私は今の自分が役に立てる一番いいフィールドに導いてもらったんだと思います。

あとはもうババアの世代になりましたからね。語りの仕事を通じて、ほんの少しでも次の世代が今より生きやすくなるように貢献することが、今の自分のプライドなのかなって。

■女装、ワーママ、わかりやすいタグを前にすぐ妄想する人々

今女装してパフォーマンスをしたり、お店に立つ上で気にかけているのは、お客さんからジェンダーとかセクシュアリティにまつわる偏見を感じたときは、なるべく突っ込むってことかな。もちろんこの人なら大丈夫そうって人の場合にね、ユーモアを交えながら。

たとえば、私に「女の私より女らしいわよ」と言ってくる女性ってよくいるんですけど、「束の間の女装だから女性性を濃縮して出せるけど、反動で家じゃクソジジイそのものよ!」って言っちゃいますね。実際普段の私は座ったら足も開いちゃうし、一人称も「俺」ですし。「女装」とか、きっと「ワーママ」とかもそうだと思うけど、わかりやすいタグを持ってると、こういう風に自分の妄想に当てはめたがる人って絶対に出てくるんです。

でも人間っていうのは、そこまでひとつの塊じゃなくて、時間とかによって自分の中のある面をふんだんに出したり、演じたりもできるものじゃない。私は誰にだって内側に多面性があるんだってことを表現したくてこの仕事をしてるので、そういった妄想にはできるだけ突っ込むようにしていますね。

■この世代、この感覚だからできること

これから先については……もう何もすることないかも。だめ?(笑) お店は3店舗(※3)も出させていただいて、全国でたくさんの方とお話する機会があって、今はありがたいことばかりなのでそれを失わうことが怖い、みたいになっちゃったね、歳のせいかな。ずっと二人三脚でやってきたうちの社長は白血病を五回くらい再発してる人だし、いつ失われるかわからないことがたくさんありますから。

でもこの世代、この感覚だからできることはやっていきたいですね。ちょっと前は「女装大衆演劇ごっこ」というお昼のイベントを同世代の女装仲間とやりました。もう私たちはクラブイベントで深夜2時に「出番です」って言ってもらってもねって。体力ないよねって(笑)。だからずっと着席で、だけどうちらのそれなりに培った感覚で発信できるものをやろうってなりました。

テーマも、若い子に無理にこびるというよりは、自分たちと同じように歳をとってきた子たちが感じる孤独とかを扱えたらいいなと思って作りました。「女装大衆演劇」って、やっぱババアの女装だからできる感じがあるじゃないですか、横文字ゼロで漢字6文字も並んじゃって。

すごい野望はないけれど、これからもお店での接客とか講演とかラジオとかメッセージを伝えられることはやりつつ、自分の年とやってきたことに似合う表現で、心が動いたものがあればやっていきたいですね。……なんか、すること全然あったね(笑)。

■どうでもいい人の話なんて、聞かなくていい。

読者のみなさんに伝えておきたいことがあるとすれば、なんだろうな……。「どうでもいい人の話なんて聞かなくていいのよ」かな。

若い頃にうちの社長と付き合ってた時期があったんですけど、社長はこの世代に珍しく人目をまったく気にしない人でね。ある日、街中で私と手を繋ごうとしてきたんです。そのときに私は反射的にそれを解いたんですけど、社長はきょとんとしていて。すごく考えさせられましたね。

なんで私はもう会わないかもしれない人たちの目を気にして、こんなことしてるんだろうって。ラブラブなふたりの楽しい気持ちより自分の人生に関係ない人たちの目を大事にすることってなんなんだろうね? って、つきつめて考えてみると、なんのために生きてるんだろうね? って話にもなるじゃない。まぁ、最近社長と手を繋ごうとしたら、「もうそういうんじゃない!」って違う意味で振り払われましたけどね(笑)。

誰かをジャッジするための枠組みなんて本当はないのに、「社会はこうだ」とか、「あの人はきっとこう思うに違いない」って、敵役を頭の中で生み出してまわりに配置して、何かを言われてることを想像しては、どんどん自分の行動範囲を狭めていく。自分の可能性を自分でつぶしてることが、本当はすごく多いと思います。

私はラジオの仕事も講演の仕事も、「きっと受け入れてもらえない」と思い込んでいたけど、本当に挑戦してよかった。だから読者のみなさんも「周りにいるあの人がダメ出しをするだろう」とかそんなことを考えるんじゃなくて、私がしたいことはこうだと、私が今の世の中に求めることはこうなんだということを絶対信じてあげた方がいいと思います。それを信じられたなら、死ぬときだってきっと後悔しないんじゃないかな。

もちろん大好きで尊敬してる人から「あんた今おかしなことしてるよ」って言われたときは聞いた方がいいですけどね。でも、そんなことってそうそうなくない? だいたいどうでもいい人の悪口を気にしちゃうんですよね。

だから、どうでもいい人の話は気にしなくていいんだよってことは、まぁ……私はこんなこと言っておきながら、これからも気にしちゃうから(笑)、自戒もこめて、言っておきたいですね。

「斎藤靖紀」が「ブルボンヌ」になるためのアイテム

ジュビィ クイーンの秘密メイクセット
ブルボンヌさん自身がプロデュースするメイクブランド。「ジュビィ フラットヴェール ムースファンデーション」「ジュビィ シャイニーピュア カラーUV(グロウ下地)」のセット。

「女装のカバー力の源である舞台用ドーランをムース状にして一般女性が使える軽さに仕上げました。強めのグロー下地と合わせて、イヤなものは全部隠して、内側からのツヤを演出します」


本インタビューは2020年3月5日に実施しています。新型コロナウイルスの流行に伴う社会の変化を受け、2020年5月13日のブルボンヌさんからのコメントを掲載します。

ブルボンヌです。

取材をお受けした当時は「プロデュースするお店を3店舗出せたし、もう何もすることない」なんて調子こいて語っていましたが、ご存知の通り新型コロナで世界は激変しました。近年の私を支えていた、お店は全店営業自粛中、講演も全てキャンセル、ラジオはリモート出演となりました。コスメも市場は売上半減です。

無収入どころか家賃だけで大惨事、名指しで危険な場所扱いされた歓楽街がもとに戻るのはいったいいつになるんでしょう。「不要不急」という言葉が自身の存在意義を追い詰める中で、今や遠い昔にも思える、ノリノリだった頃の自分の発言を世間にお出しするなんて……と、この記事を世に出す決心がなかなかできずにいました。
ですが、私はもともと何もないところから、自分がしたいと感じた変なことをして生きてきた身です。逆境こそ女装の見栄が生きるのだとも思います。正直しんどい。こんな弱ったアタシを見ないで、とも思う。でもやっぱり見て。女優女優女優。嘘を演じるの!

オンラインでの配信や、営業が再開したらド派手マスク女装で店に立つなど、その時できることを必死にやってアタシなりに生き抜かなくては。

皆さんもそれぞれのしんどさと取っ組み合って生きてらっしゃると思いますが、華麗に装って、自分を褒めまくって、最期に「アタシなりによくやったよ!」って誇れる人生を送りましょうね。プライドをお守りに。



<DRESS編集部より>
本連載では、ドラァグクイーンや女装パフォーマーの方にお話を伺っていますが、すべての方が「オネエ」を自称しているわけではありません。


(※1)歌手、モデル、司会者としてマルチに活躍するアメリカのドラァグ・クイーン。主演のドラマシリーズ『AJ and the Queen』(Netflix)や、オーディション番組『ル・ポールのドラァグ・レース』(Netflix)が話題。
(※2)3人のドラァグ・クイーンが主人公のロードムービー。1994年公開。
(※3)ブルボンヌさんプロデュースの店舗は、2020年4月現在「Campy!bar」(新宿、渋谷)、「ASOBi」の3店舗


Photo/友松利香(@tm_mt_)、Title logo/hinatä(@_1984hn

太田尚樹

編集者・ライター。LGBTエンタメサイト「やる気あり美」編集長。ソトコトにて「ゲイの僕にも、星はキレイで、肉はウマイ。」を連載中。人の気持ちに一番興味があります。

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