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「どんな呼び名で呼ばれても、私たちって素晴らしいし」 〜ドリアン・ロロブリジーダの場合〜

“オネエ”と呼ばれる人たちの素顔に迫る連載、『オネエのすっぴん』。ドリアン・ロロブリジーダさんにお話を伺いました。

「どんな呼び名で呼ばれても、私たちって素晴らしいし」 〜ドリアン・ロロブリジーダの場合〜

ドラァグクイーンもトランスジェンダーも女装家も、なんでも「オネエ」とまとめたがる乱暴な時代で、さらりとそれを引き受ける方の素顔に迫る連載『オネエのすっぴん』。

第1回は、ドリアン・ロロブリジーダさんにお話を伺いました。
大学在学中、「若手女装グランプリ」初出場にして優勝。紆余曲折ありながらも「今でもどうにか口紅を引き続けている」と語る彼の、これまでとこれから。

ドリアン・ロロブリジーダさん プロフィール

ドラァグクイーン。新宿二丁目発本格DIVAユニット「八方不美人」や、好きな歌を好きな場所で“ただただ歌う”ユニット「ふたりのビッグショー」メンバーとしても活動。2019年夏には、日本航空による日本初の試みである「JAL LGBT ALLYチャーター」にスペシャルアテンダントとして搭乗するなど、活躍の場は多方面に渡る。本名はマサキ。

■堂々としてればいい「ん、オカマ? 羨ましいの?」

ドラァグクイーンになったきっかけは、高校生のときに遊んでもらってた、近所に住むゲイの仲良しグループ。その中に昔ドラァグクイーンをやられてたって方がいて、初めてその方の女装をみたときに、まぁ! って衝撃を受けたの。

もともとビジュアル系バンドが好きだったから自然に入れたのか、なんて素敵なんだろう! かっこいいんだろう! って釘付けになって。ハッキリとドラァグクイーンに憧れたのはあのときが最初です。マサキ少年の“女装魂”に火がついちゃったんだよね。

そこから彼のメイクを真似てみたりするようになって、ちょっとずつ女装をする機会が増えていきました。でも最初はただの趣味ですよ。LGBTのパレードで女装して歩いたり、大学の学園祭を女装で練り歩いたりっていう。

本格的に「ドリアン・ロロブリジーダ」として活動することになるきっかけは、新宿2丁目のあるクラブで開催された「若手女装グランプリ」。リル・グランビッチさんっていうドラァグクイーンに勧められてなんの気なしに出てみたら、いきなり優勝をいただけたんです。そこからドラァグクイーンとして本格的に活動が始まりました。仕事をいろいろといただけるようになって、なんやかんやあり、今もどうにか口紅を引き続けてる。そんな感じです。

ドラァグクイーンの中には、普段のすっぴんの自分とクイーンとしての人格を使い分けてる方もいるんだけど、自分の場合はどちらも一緒。ドリアンはあくまでも「マサキくん」が派手な化粧をしてるだけなんだよね。抑圧された自我やジェンダーを開放するために……! みたいなことは全くなくて。ただこれが美しいと思うから、目立ちたいから、楽しいし、楽しませたいからやってるだけ。

性格は、むかしっから明るかったですよ。自分がゲイだということで悩んだこともないし。小学生のころ母親に「あんたのせいでお兄ちゃん(編集部注:ドリアンさんの実兄)が”オカマ”の兄貴だって言われる」だなんて言われたこともあったけど。兄貴、気の毒よねぇ(笑)。 でも、それもあんまり気にしなかった。というのも”オカマ”よばわりされるような表現が、自分のセクシャリティから自然に出てきたものだったのか、それともおもしろいと思って意識的にやってたのかちょっとわかんなくて。とにかく「自分は”オカマ”の方がいい。羨ましいでしょ〜?」くらいに思ってました。

でもどうなんだろう、それも当時周りにいた友達が良かったからなのかもしれない。こっちが堂々としていたら、そのまま受け入れてくれる人たちでしたから。だから、堂々とすることは今でも大事だなって思ってます。「実はゲイで……」と後ろ暗いことのように伝えてしまうと、相手だってそうとらえてしまう。だから「そうよ! オカマだよ!?  羨ましい?」という態度でいる。もちろん嫌がられることもなくはないけど、そんな人には「つまんないノンケ(※1)ね〜!」くらいにしか思わないかな。

■営業マンもPRマンもパフォーマーも同じ。 まずは自分を好きになってもらうことから

ゲイであることよりよっぽど悩んだのは、大学を中退したときかな。大学に入って2丁目で遊びに遊んで、その上ゲイバーで働きだして、女装もはじめて。気付いたら単位数がえらいことになって思い切って中退。母親が泣いてね、自分もこれからどうしようって真っ暗な気持ちになりました。

でも運良く香水メーカーに拾ってもらえて、そこからは「取り返さなきゃ!」ってがんばった。最初は営業をやらせてもらって、次がPR。それから転職してもずっとPRとしてキャリアを積んできました。

会社員のマサキくんとドリアンの違いは、これまたあまりないんだよね。

もちろん会社員の仕事のときはオネエ丸出しだと社会人としてNGだからそのあたりはちゃんと振る舞うけど、メンタリティとしては一緒。売るのは物だったり情報だったりブランド自体だったりしたけど、「まずは自分という人間を買ってくれ!」と思ってやってきたから。最初はアウェイだったお客さんがどんどん自分を見てくれるっていうのはクイーンのときも一緒です。「さあファンになってもらうぞ! イッツ、ショウタイム!」っていう気持ちで昼の仕事もやってきました。

最近はありがたくもドラァグクイーンの仕事が忙しくなって、2月に「これ一本に賭けてみよう!」って昼の仕事をやめたんですけど、そうしたらこの世界の状況(新型コロナウィルス※2)で。先行きは“煮こごり”くらい不透明だけど、でも人生は一度きりだから。どうせなら死ぬときに「楽しかったー!」って言えるように、いろいろ挑戦していこうと思ってます。

今はクラブイベントだけじゃなくて、一般企業のイベントでもMCやショーをさせていただいたり、『八方不美人』っていうグループでCDも出させていただいたりね。著名なアーティストのみなさんと一緒に大きなステージに立たせてもらえることも増えました。

『八方不美人』のステージ(ドリアン・ロロブリジーダさん提供)

だけど自分が今そんなことをできるのも、先輩たちが道を作ってくれたおかげ。もともとはアングラなものだったドラァグカルチャーを地上に出して、いろんな仕事とつないでくれた人たちがいる。だから自分も若い人たちにバトンをつないでいきたいって思います。

そのためにも面白そう! と思う現場にはどんどん飛び込んで、「ドラァグクイーンって、こんなにいろんなことができるんだぞ!」ということを日本の人たちに知らしめたいですね。アングラな魅力は持っていながら、もっと道を広げていきたい。欧米の「Drag culture」の単純なコピーじゃなくて、日本がこの数十年で培ってきた「ドラァグ文化」の魅力を知ってほしいの。

■楽しむから楽しい。 先輩たちが教えてくれたドラァグクイーン道。

まぁ、でも、とは言っても吹いて飛ぶような仕事だから、周りからは「そんな生き方をしていて不安にならないの?」って聞かれたりしますけど、大学の中退もそうだし、自分には恥ずかしい失敗とか挫折が人生でたくさんあって。もう失うものはあんまりないって思う。

今の自分の人生のゴールは「目指せ、野垂れ死に」なの。自分はきれいなお布団の上で死ねるとは思ってないんです。それだけこれまでの人生、すっごくおもしろかったり楽しいことをさせていただいてるから。いやーな死に方すると思うよ(笑)。そこまでどうぞご覧いただきたい、そう思ってます。

今はもう1分後に死んでも後悔ないな。楽しかったなーって、今でもそう思える。もちろんこれからも目の前のひとりでも多くの人を笑わせたいし、笑顔にしたいから、ステージに立ち続けたいですけど。

目の前の人を楽しませるコツは、まず自分が誰より楽しむことじゃないかな。楽しそうにしていれば、楽しい人たちが周りに増える。逆にずっと文句を言ってるような人って、そういう人しか寄ってこないじゃない。

そう思うようになったのもドラァグクイーンをやってからです。仕事をしてると、しょっぱい現場なんてしょっちゅう出くわすんですよ。ステージ裏でバッチリメイクして「よし!」っていざステージに出たらお客さんが二人しかいないとか、他にもショウタイムに機材トラブルで音が一切出ないとか。控室がないからビルの外付けの非常階段でメイクするなんてこともあった。夜だし暗いし見えないっつーの! でもそういう現場で先輩たちが「こういうときの方が楽しいのよ」って教えてくれた。「笑っちゃうね」「なんか楽しくなってきた!」って。

だから今では自分もああいう瞬間が一番楽しいって思うようになりましたね。「さあどうしよう!」って逆境を楽しむというか。もちろんいつもブツブツ文句は言うんだけど。言いながら、でもやる、みたいなね。この「じゃあどう楽しもう?」精神は自分の日常の中にも返ってきてますね。

■ワーママ、オネエ、好きに呼ばせておけばいい。どんな呼び名であれ、どのみち私たちって素晴らしいし

これから先のことは、もうあと5年で40歳ですから、ひとまずそこまでは走り続けようと思ってます。5年なんてほんとに一瞬。ふんばりどきだと思ってます。できるなら女優デビューもしたいし、ダンスも習いたい。恋人も作りたいし、いろんなことをしてみたいです。「ドラァグクイーンにはこれくらいしかできないだろう」という誰かの思い込みを壊せるくらい、たくさんのことに挑戦していきたいです。

読者のみなさんに伝えたいことは、なんだろう……、「あなたの魅力は、あなたに貼られたラベルごときでは到底表現し得ない」かな。

今の時代って例えば母親だったらシングルマザーとかワーキングマザーとかなにかとラベルを貼られやすいし、それは迷惑なことでもあるけれど、でもそんなラベルなんてたいしたことない。あなたの魅力とは関係ないから。だからラベルは社会と戦うための単なる窓口だと思って、逆手にとって楽しんじゃおうよって言いたいです。

自分もよく「オネエ」ってひとまとめにされるけど、でもこんなにいい男だし、メイクをすれば美人だし、PRの仕事もできるし、歌も歌えるのよ、いいでしょう〜? って思ってる。ドラァグクイーンをやるときも男装をすることがよくあるんだけど、ドラァグクイーン=女性の格好をするっていう固定観念を逆手にとって、ドラァグクイーンで男装、だけど壮絶に美しい、というのを見せて、見る人が混乱している様子を楽しみたいんです(笑)。

人がそれぞれ持ってる「男らしさ」「女らしさ」の思い込みをグラグラ動かすきっかけになりたいって思う。だからあなたも何かラベルを貼られたら、そんなラベルは気にしないで、あなたのありのままを存分に出しちゃえばいいと思う。全身全霊のあなたで、貼られたラベルのイメージごと変えちゃえばいいのよ。私たちは何を貼られたって、どうしたって、どんな状況になったって、それはそれは素晴らしいんだから。

自分は自分のことをすっごくダメな人間だと思うけど、でもすっごく愛してるの。どうしてこんな自己肯定の化け物みたいになったのかはわからないけど(笑)、そうなるには、小さなことからでも成功体験を積み重ねることじゃないかな。自分がやりたいことで誰かから褒められたり、頑張った結果を自分で褒めてあげることができたりっていうのが少しずつ自信や自愛につながると思うから。

1日10回腕立てするとか、毎日ベッドメイキングをするとか、なんだっていいのよ。なにかひとつ続けていくと、自信は育まれていくと思う。だからまずは「なんか欲しがれ!」って言いたい。欲しがる対象は具体的なモノやコトだけじゃなく、「こういう自分になりたい」っていうのも含めて。「どうせ私なんて」っていうのはほんとに禁句。小さいことから欲しがっていく先に、自己肯定ってあると思うから。まぁ、ほどほどにしないとこんな化け物みたいになっちゃうけどね(笑)。

ドリアン・ロロブリジーダさんの愛用アイテム

ポンズ ふきとるコールドクリーム
「ドラァグの濃いメイクを落とすのは、これが一番。化粧のテクニックとかは、正直全然話せることはないのよ、本当にメイク下手だから(笑)」

※1:異性愛者のこと
※2:このインタビューは、2020年3月12日に実施しています

Photo/友松利香(@tm_mt_
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太田尚樹

編集者・ライター。LGBTエンタメサイト「やる気あり美」編集長。ソトコトにて「ゲイの僕にも、星はキレイで、肉はウマイ。」を連載中。人の気持ちに一番興味があります。

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