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自分の“劣化”が怖くてたまらないあなたへ

どんな人も、容姿やスタイルは経年変化から逃れられない。でも、その変化は“劣化”なのだろうか? “コンプレックス解消家”としても活動する、ライター・講演家 朝倉真弓さんのコラム連載、第7回。

自分の“劣化”が怖くてたまらないあなたへ

女の子が美を意識し始めるのは何歳ぐらいからなのだろう。
気づけば幼い私の周りには、お姫様の絵本があって、着せ替え人形があった。

そんなころからずっと、かわいがられるのは目がクリッと大きくて、ふわっとしたスカートが似合う女の子だと相場が決まっていた。絵本を開ければ、そんなお姫様が幸せをつかむストーリーに胸を躍らせた。

ところが、自分はどうもお姫様のようにはいかない。目は小さいし、鼻はぺちゃんこ。決定的に何かが違う。
絵本の中のお姫様に負けるのは仕方がない。けれど、お隣の○○ちゃんと比べても、なんだか私、かわいくない……。

こうして、いつのまにか女の子は、自分の容姿にコンプレックスを持ち始める。

それでも多くの若い女性は、よりかわいらしく、より美しくあるために努力を重ねてきた。特に恋愛や結婚が絡んでくる局面においては、流行や自分の好みを取り入れつつも、相手やその家族に好かれるために工夫したという人も多いはずだ。

その後も、社会人として、妻として、母として、マナーや常識という名でラッピングされた「浮かない程度にちゃんとしたスタイル」を取り入れてきた人が大半だと思う。

でも、その「浮かない程度にちゃんとしたスタイル」、本当にあなたの好みだろうか?
そろそろあなたが本当に心地よいと感じる美に振り切ってもいいのでは?
誰かと横並びではない、自分の個性を生かした美って、何だろう?

■誰かが決めた美の常識が、誰かを苦しめることもある

私は今、11歳から生え始めた白髪を染めず、そのままにしている。
18歳から45歳まで27年間、がんばってずっと染め続けてきたけれど、いつしか頭皮の痛みに耐えられなくなってきた。

それにしても、なぜ白髪はみっともないとか、染めるべきとされているのだろう?

調べてみると、マナーや身だしなみの一環として、白髪は染めるべきだと言う人は多い。白髪染めが規則の職場もある。
接客に携わる人によると、世の中に「白髪は不快なもの」とか「白髪を見るとギョッとしてしまう」と感じる人がひとりでもいる以上、白髪は隠すべきという立場を取らざるをえないらしい。

それでも私は、染めないほうが心地よいと感じる自分の気持ちを優先させて、今は白髪のままの姿で活動をしている。
多様な美しさのひとつとして「白髪も悪くないね」と感じてくださる人がひとりでも増えるようにとの願いを込めながら、好きな美容やオシャレを楽しんでいる。

ただし、どんなに良いと言われても、気分の乗らないものには手を出していない。なぜなら、義務感だけで行う美容やオシャレは、私にとっての白髪染めと同じことだから。

たとえば私は、基本的にネイルはしない。
名刺交換のときなど、素のままの爪では失礼という説があることは知っている。けれど、毎日の家事でネイルが気になることのほうがストレスに感じるので、そのままにしている。
ただし、旅行中など家事から解放されるときには、その楽しい気分のまま、キレイな色を載せることもある。
私の気分をグンと底上げしてくれる美容やオシャレ“だけ”を楽しむのが、最近のスタイルになった。

■人生の「定規」を書き換えることは、自信を育むために必要なこと

私は、45歳から白髪染めを止めた。その過程には、自分の心を納得させ、ある意味開き直れるようになるまでの長いプロセスが必要だった。そのくらい、「白髪は染めて当然」「40代ならまだまだ染めるべき」という価値観、いわば自分の中で作られた“定規”を手放すのは勇気のいることだった。

白髪染めを止めて、自分オリジナルの髪が十分に伸びるまでの1年弱は、どうしても自分に自信が持てなかった。頭頂部は白いのにその先は染めた色が残っているという姿は、なんとも恰好がつかない。実際に「染めなさい」と忠告してくる人もいれば、ジロジロと視線を送ってくる人もいた。

でも、自分本来の髪の色が、自分に似合わないはずはない。
白髪が伸びてくるにしたがって、少しずつ「これでいいんだ」という自信が培われていくと、誉め言葉にもけなし言葉にも素直に向き合えるようになってくる。

特に批判されたとき、自信を持っているかどうかで対応が変わってくる。

自分に自信があれば、ブスとかババアといった表面的な悪口は切り捨てて、批判の本質的な部分――人間は違和感に弱いのだなとか、老いや死を連想させるものを嫌うのだなという部分だけを知識としていただくことができる。
でも、「自信」よりも、他人の信頼や承認を得ることで幸せを感じる「他信」の気持ちが大きいと、批判につぶされ、負けてしまう。

もちろん、心ない悪口を言ってくる人のほうが100%悪いのだけれど、一般的に「当たり前」とされていることの逆をいく場合、どうしてもそういう人に出会ってしまう可能性がある。

そんな時にも折れない自信を育むために必要なのが、これまで7回にわたって書いてきた、さまざまな“定規”を自分仕様に書き換えていく作業なのだ。

■経年変化は、十人十色の美しさを咲かせる

そういえば、絵本の世界で姫たちを困らせるのは、意地悪な大人や魔力を持った老婆だった。このころから、年を重ねるのは恐ろしいことという先入観が、私たちの潜在意識に刷り込まれているのかもしれない。

どんな人であっても、容姿やスタイルは経年変化から逃れられない。その変化を“劣化”と表現する人もいる。劣化を恐れ、数年前の自分に戻ろうとあがく人もいる。

変化にあらがうのもひとつの美の表現だ。それも素晴らしい選択だし、あらがうことで自信が持てれば、それがベストだと思う。
でも、その変化を受け入れて、今の自分の最善を尽くそうという美の形もあっていい。

今、私は「40代なら白髪を染めるべき」という定規を捨てて良かったと感じている。
もう「若く見える」と言ってもらうことは減ってしまった。実年齢よりも上に見られることが増えた。
けれど、かっこいいとかステキだとかの言葉で褒めていただくと、とてもうれしい。

年を重ねていけばいくほど、若さもかわいらしさもかっこよさもスタイルアップも、何もかもを手に入れることは難しくなっていく。
だからこそ、やること、やらないことを潔く決めることで、それぞれの個性が際立ってくるのではないかと感じている。

別に白髪染めを止めることを勧めているわけではない。白髪を染めても染めなくても、どちらを選んでもその人が持っている魅力は変わらないのだから。

「あの人はぽっちゃりとした体形を活かしてかわいらしさを追求している」
「私は強い色のメイクはやめて、ナチュラルな美しさにチャレンジしたいな」
「むしろ私は、カラフルなポイントメイクを楽しみたい!」

そんな十人十色の美しさが花咲く世界は、とても華やかでカラフルだ。

オリジナルな美しさを褒めあっていこう。
褒めてもらったら、それを素直に喜ぼう。
経年変化は、劣化ではなく、新しい美の「定規」になりうると信じている。

Photo/ぽんず(@yuriponzuu

朝倉真弓さんの連載「人生の『定規』を書き換えよう」は、毎週水曜日の更新です。次回もお楽しみに!

「人生の『定規』を書き換えよう」バックナンバーはこちら

朝倉 真弓

ライター、講演家。「人生もうひと花咲かせる」をテーマに活動中。自著は『「グレイヘア」美マダムへの道』ほか8冊。ユニリーバ社DoveのCMに出演。

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