「お金がない!」に振り回されて仕事の意義が見いだせないあなたへ
「稼ぎがないからとりあえずパートに出なきゃ」「今の仕事にまったくやりがいを感じられないけど、好条件を手放せない」。それって本当に、あなたにとって最良の選択だろうか? “コンプレックス解消家”としても活動する、ライター・講演家 朝倉真弓さんのコラム連載、第4回。
あなたの母親は、専業主婦だろうか、仕事をしている兼業主婦だろうか?
厚生労働省の調査によると、平成3年(1991年)以前は圧倒的に専業主婦世帯が多かったものの、このころから専業主婦世帯と共働き世帯が拮抗しはじめ、平成12年(2000年)以降は共働き世帯が多くなっている(※)。
一方で、同じく厚生労働省が発表している「厚生労働白書」によると、平成30年(2018年)の専業主婦の世帯は、全体の約33%とのこと。現在では過半数が共働き世代であるという。
こうした数字からわかるのは、特に1990年代以前に生まれた世代は、母親に「女性は家庭に入って子を産み、家を整えるのが最大の仕事」と教えられてきた人も多いだろうということだ。
しかし今では経済の停滞に加えて少子高齢化に直面し、「働きながら子を産み育てて、親世代の介護もする」というスーパーウーマンぶりが求められている。それなのに親や社会から、「そこまでしてどうして働くの?」と責められ、働かなければママ友などに「いい御身分ね」と嫌味を言われるケースもあると聞く。
どっちにしろ気が滅入るというのが、私たちの仕事にまつわる環境なのかもしれない。
■稼げないのは悪という思い込み
夫の転勤に伴って仕事を辞めた友人が、こんなことを言っていた。
「専業主婦はそれなりにやることが山積みなのに、稼ぎがないことがコンプレックスになって肩身が狭い……」
家を整え、家族のために日常のあれこれをする主婦の仕事は、夫の収入を支えるバックオフィスのような役割のはず。でも、稼ぎがなくて家族に頭が上がらないという理由から、パートやアルバイトに出なければならないという強迫観念に駆られている人も多いようだ。
この「なんとなくパートに出なきゃ」は、正しい選択だろうか?
一方で、先が見えてきた今の仕事をひと段落させて、ほかの仕事にチャレンジしたいという人もいる。でも、今の収入や条件が手放せないから、転職や独立といった手段を取ることができないという。
この「なんとなく現職のまま」という選択は、正しいだろうか?
それぞれの選択に、正しいとか間違いといったジャッジメントは意味がない。個人がその時々にベストだと感じた選択を重ねていくことが人生であって、他人がとやかく言うべきことでもない。
でも、その選択の後ろ側にあるものを丁寧にひも解いていくと、仕事の問題とお金の問題がごちゃ混ぜになっていることがわかる。
もちろん、仕事をすることで収入を得るのだから、仕事とお金の関係はとても近い。しかし、稼ぎがないから肩身が狭い、収入が減るから興味のある仕事に就けない……という判断は、お金に関する「定規」だけを重視した判断だ。
■働く意義とお金に対する渇望感
私たちは、なぜ働くのだろう?
自分の仕事に満足しているのであれば、働く理由を突き詰めて考える必要はない。けれど、稼ぎがない罪悪感から逃れるためだけに働いたり、お金を稼ぐためには嫌な仕事も仕方がないと心をすり減らしたりしているとしたら、一度立ち止まって考えてみてほしい。
働く理由は、人や社会に貢献するため。でも、自分の喜びや成長につながらない仕事は、長く続けることなんてできない。
将来を悲観的に想像し、不確定な将来に備えてとりあえずお金をキープしておきたいと考えるのは自然なことだと思う。
たとえば、老後に大病をし、歩くことや意思表示さえままならなくなった状態で長生きしてしまうリスクを想定したら、いくらお金があっても安心できない。快適な介護施設に入りたいとなれば、さらに費用はかかる。
刻々と「老後のリスク」に近付いている私は、自分の衰えを感じるたびに見えない将来がたまらなく不安になる。前回、偉そうに「見えない将来は気にしない」なんて書いたくせに。
でも、一番大切なのは「今」。結局将来は、今の積み重ねでしかない。心の満足が伴わない妥協の選択は、将来の自分を悲しませることになりかねない。
今、あなたは専業主婦の役割にやりがいを感じているのに、罪悪感があるからという理由だけでパートに出て、本当に満足?
今、あなたはその仕事が合っていないと感じているのに、転職のチャンスを棒に振ってしまって、本当にいいの?
■いくらあれば生きていけるのかを計算してみる
どうしてもお金に関する不安が拭い去れないという人に、一度やってもらいたいことがある。自分の最低生活費をシビアに計算してみるということだ。この先1年、住む場所にこだわらず、洋服もコスメも新しいものを買わない。一切贅沢を断って最低限度の生活をするとしたら、いくらかかる?
最低生活費を計算するコツは、ざっくりとしたどんぶり勘定ではなく、細かい数字まで計算すること。生活費に入れるのは、つつましく自炊をした場合の食費や、生活に必要な消耗品費、子どもの学費に加えて、水道光熱費と家賃と通信費ぐらい。通信費は、無駄なコストがかかっていないかをチェックし直してみよう。
洋服は、新しく買い足さない。去年手持ちの服で着まわせたのだから、今年もいける(はず)。
コスメも、引き出しの奥に眠っているものを引っ張り出せばなんとかなる(はず)。
基礎化粧品は必要かも。でも、もっと安いラインのもので代用できないかな?
もしも定期的に病院にかからなければならない疾病があるのであれば、もちろんその費用は最低生活費に入る。ただし、スポーツクラブや習い事の代金は入れない。しなくても命に関わることではないから。
家族に関する費用も同じようにシビアに計算してほしい。子どもに関する費用は多めに準備してあげたいところだけれど、ここは「最低限度の生活」にこだわろう。
計算してみた結果はどうだろう? 想像していたよりも少ないという人が多いのでは?
どうしても計算がイヤという面倒くさがりやさんは、社会人デビューした当初の生活費を思い出してみよう。何年か前のあなたは、その生活費でも楽しくやっていけたはずだ。
この「最低限いくらあれば生きていけるのか?」という数字を知っているか否かで、心の余裕は変わってくる。
私たちは、この費用に心配料として、病気になった場合の保険や老後のための貯金、アンチエイジングにかける費用、素敵な洋服やアクセサリーを身に付けて高級レストランに行きたくなった場合のへそくり、旅行代……と上乗せして生活費を考えている。
乗せたい費用は無限にある。
だから、いつもお金が足りないという渇望感に追われてしまう。
■お金の渇望感から自由になると、自己主張しやすくなる
「これだけあればなんとかなる」という最低限の生活費を知れば、収入だけを理由に今の仕事にこだわる必要性は薄れるはず。そうなると、目の前が開けて、新しいチャレンジに出ていきやすくならないだろうか?
たとえば、会社に対して言いたくても言えずに我慢してきたこと、「本当はこんな仕事をしたい」「こういったチームを作ってみたい」といった主張がしやすくなる。もしその主張が通らなかったとしても、転職や独立といった行動に移りやすくなるだろう。
稼ぎのない罪悪感からのパートも、本当にその働きは必要か、何に使う分をいくら稼げば十分なのかが具体的に見える。その額によっては、ネットを使った自宅での仕事で補えるかもしれない。
先々の不安をお金で何とかしようという思考からいったん離れ、状況を冷静に整理してみると、「なぜ働くの?」という質問の答えもおのずと出てくるのではないかなと思う。
もちろん、病気や離婚などの事情で簡単に働き方を変えられないという人もいれば、仕事はほどほどに余暇を楽しみたいという人もいるだろう。
働き方の選択は人それぞれで、正解はひとつではない。
ふと「仕事の意義ってなんだろう?」と疑問に思ったときに、参考にしてほしい。
朝倉真弓さんの連載「人生の『定規』を書き換えよう」は、毎週水曜日の更新です。次回もお楽しみに!