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「生きてきた人生が違うから、誰かと比べて焦ったりもしない」多部未華子

静かな海を思わせる瞳だ。確かな密度があって、きっと何にも揺るがない。そんな多部未華子がヒロインを務める映画『アイネクライネナハトムジーク』は、小さな奇跡が連鎖していくラブストーリー。9月20日の全国公開を前に、話を聞いた。

「生きてきた人生が違うから、誰かと比べて焦ったりもしない」多部未華子

■10年間を手放せる勇気と、出会いに頼らない強さ

DRESS 多部未華子

“出会い”がないというすべての人へ。10年の時を越えてつながる<恋>と<出会い>の物語――映画『アイネクライネナハトムジーク』には、そんなキャッチコピーがついている。街頭アンケートで偶然出会った佐藤(三浦春馬)と紗季(多部未華子)。ふたりはゆっくりと愛を育んでいくものの、10年の節目に、一度その歩みを止める。

「私が演じた紗季ちゃんは、10年間付き合っている佐藤から結婚を切り出されて、ちょっと立ち止まるんです。それって、すごい勇気ですよね。長くお付き合いをしていたら、だいたい女性のほうから『どうしてプロポーズしてくれないのだろう、もうそろそろよくない?』なんて空気を出しそうなものなのに。これまでの流れをあえて止めて『10年経ったら結婚するもの?』『私たちって、どうして一緒にいるんだっけ?』と考えられるところが、強い女性だなと思いました」

私だったら無理ですね、と多部未華子は笑って続けた。だけど、彼女にも紗季と同じ種類の“芯の強さ”を感じる。そう伝えると「本当ですか?」と、大きな目をぱっと見開いた。

「結婚を焦らないという意味では似ているかもしれないけれど、私は10年もお付き合いして一緒にいたら、もうそれでいいだろうと思うタイプですね。というより、10年間も蓄積してきた関係を手放す勇気がありません。これからまた新たな人と出会って、いちから関係を築いていく果てしなさのほうを考えてしまいます」

劇的なドラマがなくたっていい。「あのとき出会った人が、この人で本当によかった」と後から思えるなら、それこそが運命だ。そんなメッセージのこもった本作を観ていると、いよいよ“出会い”とはなんだろう? と思えてくる。

「私は出会いについて、これまで深く考えたことがありませんでした。『あなたに出会えて人生が動いた』や『この人に出会えて考え方ががらりと変わった』とか、そういった経験もないですね」

そんなことをきっぱりと言い切れるのは、彼女のなかに揺るぎない“自分”があるからではないだろうか。他人によってぶれることのない軸。きっと出会いに影響を受けなくても、自分の人生の舵をみずから切っていける人なのだ。

■仕事は仕事。明確な答えもない。だからこそ誠実に向き合う

女優としてのキャリアを積み重ねて、16年。スタンスはあまり変わっていない、と言う。

「昔から『仕事は仕事』と割り切っています。それこそ、仕事で出会う中でどんなに合わない方がいたとしても、どんなに素敵な方がいたとしても、私の人生の本質には関わりがない。だからこそ感情を左右されることもありませんし、深く傷つけられることもないけれど、そのぶん自分の果たすべき仕事に集中できていると思うんです」

演じることが楽しいという気持ちも、じつはわからない。それは、プロフェッショナルとして演じることをまっとうしているから、という意味でもある。

「オファーをお受けしている以上、私にできるかぎりのことでお応えしたいと思っています。よーいスタートから、カットがかかるまでの間は、精一杯。けれど、やっぱり自分と違う人の人生を演じて残すというのは、なかなか難しい仕事だと思います。

ハタチくらいのときは、もうそれだけでいっぱいいっぱい。学校に行って、すこし仕事をして、自分の人生だってそんなに生きていないのに、自分の知らない人生のことなんて全然わからなかった。それで芝居を楽しむ余裕なんてなかったんです」

30代に入ったいまでこそ、少しずつ人生経験も増えてきた。けれど基本のスタンスは変わらない。人のことはわからないから、楽しいだけでは乗り切れないから、ただひたすら誠実に役と向き合う。

「幸いにもこれまで『わからないからできませんでした』という事態には、至っていません(笑)。この仕事って、答えがないじゃないですか。芝居そのものに唯一の正解はないですし、何が正しいかという感覚もやり方も人それぞれ。私は“自分を役に寄せる”ということがなかなかできないから、まずは監督や演出家の方々に言われたことを素直に受け入れて、真摯にやるしかないんです。プレッシャーも感じない。ただ、フラットに演じているような感覚です」

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さながら職人のようだ。たとえば、同世代の女優に嫉妬をしたり、自分の価値を出せなくて焦りを感じたり、といったことはないのかと尋ねてみる。多部未華子はすこし面食らったような表情を浮かべた。

「ありませんね。みんなそれぞれ違うじゃないですか。世代が一緒だったり、仕事が一緒だったりするだけで、生きてきた人生が全然違う。顔も体も違う。なので、誰かと比べてそんなふうに焦ることはないです」

出演作を振り返ってみると「芯が強くて一生懸命」「前向き」「自分を持っている」といった役柄が多い理由が、わかる。本人はこともなげに「そういうイメージなんだろうな」と言うけれど、そこにはやはり、彼女自身の強さがにじみ出ているのだろう。

■求められたことに応えて、おいしいごはんを食べられたら充分

ドラマに映画に舞台と、つねになにかに出演している。第一線を走り続けてきた多部未華子は、これからどこに向かうのだろう。

「仕事は、私にとって“生活”です。なので『何歳までにこんな作品と出会いたい』『こういう役を演じたい』のような目標はありません。求められたことにしっかりと応えて、楽しく、おいしいごはんを食べられたらそれで充分なんです」

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シンプルな言葉と裏腹に、笑顔はとてもやわらかい。
おいしいごはんって、どんなごはんですか?

「犬を飼い始めてからまったく外食をしなくなったので、普段は家でつくって食べます。友達と一緒にたこ焼きをしたり、肉じゃがや焼き魚、パスタなど……。特別な贅沢もしないですし、本当に普通のメニューばかりですよ」と、笑う。

プライベートはそんなふうに、簡単だけどおいしい料理をつくって、ときどきデパートやマッサージに行って、ゆったりと過ごすらしい。近ごろのブームは酵素風呂。たった15分でたくさん汗をかいてすっきりできるのが、楽しいという。

数年後も、もしかしたら数十年後も、きっと。彼女は変わらずに仕事と向き合い、おだやかな日常を過ごし、自分の人生を生きていくのだろう。

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取材・Text/菅原さくら
Photo/池田博美
スタイリスト:岡村春輝
ヘア&メイク:倉田明美(Cinq NA)

9月20日(金)全国ロードショー
出演:三浦春馬 多部未華子 矢本悠馬 森絵梨佳 貫地谷しほり 原田泰造
監督:今泉力哉
原作:伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』(幻冬舎文庫)
配給:GAGA
公式サイト:https://gaga.ne.jp/EinekleineNachtmusik/

菅原 さくら

1987年の早生まれ。ライター/編集者/雑誌「走るひと」副編集長。 パーソナルなインタビューや対談が得意です。ライフスタイル誌や女性誌、Webメディアいろいろ、 タイアップ記事、企業PR支援、キャッチコピーなど、さまざま...

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