1. DRESS [ドレス]トップ
  2. 恋愛/結婚/離婚
  3. 最初から好きじゃなかった男の子

最初から好きじゃなかった男の子

謝りたい人はいますか? ひどく傷つけてしまった人や、どうしてあんな態度をとってしまったんだろうと悔やまれる人。『ごめんなさいの行方』は、そんな謝る機会を失った人たちの話をエッセイスト・生湯葉シホが聞いていく連載です。心の底から謝りたいけれどもう会えない相手との話を、なるべくそのまま書いていきます。

最初から好きじゃなかった男の子

ひどいことをしちゃったことがあって。相手、もともとは小学校のときに仲よしだった男の子なんですけど、私が4年生で東京に引っ越しちゃったから、あんまり会えなくなっちゃったんです。

それから何年か文通とかしてて、相手が自分のことを好いてくれてるのはなんとなく気づいてて……。お付き合いしましょう、って言ったのは私からなんですよね。

■最初から好きじゃなかった

恋愛的に好きだったのかって聞かれると、私のほうは最初から好きじゃなかったんだと思います。なんか小学校のときって、ちょっとでも仲のいい子たちがいるとカップルみたいにはやし立てたりするじゃないですか。そういう扱いをされてたのと、あと、私もその子もおとなしくて真面目に見えるタイプだったから、結構いじめられっ子で。共通項が多かったから仲よくなったっていう感じで、あんまり異性として相手のことを見たことはなかったです。

でも、その子は途中から、私の誕生日に家まですごく大きいお花を持ってきてくれたりするようになって……。恋愛的に好かれてるなあって気づいたときに、相手の好意を知りながら友達でい続けるのは失礼なんじゃないかな、って思ったんですよね。

だから、友達をやめるか踏み込んだほうに行くかって考えてみて、その二択なら付き合うほうを選ぼうかなって。たぶん、喋ってていちばん楽な相手だったから、そういう人を失うのが嫌だったんだと思います。

■「全部だめだった」

付き合いだしたのは中学卒業直後だったんですけど、中学のときは片思いしてた男の子がほかにいたんです。でも玉砕しちゃって。振られたときにその片思いしてた男の子から「キモい」って言われまくったのが原因で、男の子のことがちょっと怖くなっちゃってたんですよね。だから女の子だけの空間に行きたいなって思って、高校は女子校を選びました。

いわゆる進学校だったから、授業についていくのは大変でした。地元の中学校だと、テストとかでも100点近くとれるのが普通だったんですけど、高校だとすごく頑張っても平均点くらいで。自分の勉強で精いっぱいになっちゃって、その子とはあんまり頻繁に会ってなかったと思います。文通は相変わらず、1週間に1往復くらいのペースで続けてたんですけど。

なんか……その子とは、結論から言うと3カ月も続かなくて。いちど、渋谷だったか原宿でデートをした日に、帰り道でその子が急に抱きついてきたんです。そのとき私、「うわあ」って思っちゃって、その反応を見て相手もショックだったみたいで。触れられるのが嫌だったんですよね。いま思うとそれもちゃんと伝えればよかったんだろうけど、言えないままで流れちゃって。

別れる直接のきっかけになったのは、その子の高校の文化祭でした。高1の7月に文化祭があって、呼んでもらって行ったんですけど、私ずっと女の子の友達と一緒に回ってて、いちどもその子に会わなかったんですよね。無神経だったなっていまは思うんですけど、そのころは勉強とか自分のことでいっぱいいっぱいで疲れてたし、友達といるのが楽しくて。

家に帰ったらすごく怒った感じのメールが相手からきてて、なんか、私も喧嘩腰になっちゃって。相手にとっての「お付き合い」のイメージって私にとってのそれと全然違うのかもなって思って、とっさに「友達に戻りませんか」って返信したんです。すぐに電話がかかってきたんですけど、当時って携帯を持ち始めたばっかりだったから、まだ操作方法がよくわかってなくて、間違えて切っちゃって。

矢継ぎ早に「どこが悪かったの?」ってメールがきて、すごくイライラしてたから、勢いで「全部だめだった」って言っちゃったんですよね。それからいちどは友達に戻ろうとしたんですけど、相手からやっぱり復縁したいみたいなことを言われて。私はそうは思えなかったから、仕方なくこっちから絶交しようって伝えました。その子とはそれっきりで、もうずっと会ってないです。

■時間差で湧いた罪悪感

別れたあとは高校の期末試験があって、すぐ夏休みで。むしゃくしゃしてて、その子にまつわるものはぜんぶ消したいって思ってたし、忙しくてその子のことを考える時間もあんまりなかったんですけど、なんか、数カ月経ったらふと「すごく悪いことをしたな」って気持ちになってきたんです。

私、誰かに対してひどいことを言って関係を終わらせちゃうっていう経験をしたことがなかったんですよね。小さいころからクリスチャンだったこともあって、そういうことはすごくよくないって教えられてきたので……。罪悪感が湧いてくるにつれて、その話が誰にもできなくなっちゃって。

あるとき、子どものころから読んでた懺悔に関する本を読み返したときに「罪悪感を覚えている出来事について話せないこと自体が罪にあたる」みたいなことが書いてあって、そうかあと思って、当時のmixiとかの日記で少しずつその子のことについて書くようになったり、周りの人に相談したりするようになったりしました。

相談に乗ってもらった人に「申し訳ないって思うなら、その人に手紙を送ってみればいいんじゃない」って言われて、手紙を書いたこともあるんです。高3のときと大学2年生のときの2回。ひどいことを言って傷つけてごめんなさいって書いて送ったんですけど、返事はこなかったです。

■鍵なしの裏アカのこと

じつは大学生になってから、その子のTwitterの裏アカ見つけちゃって。Facebookに載せてたのと同じ写真をアイコンにしてるアカウントだったので、たまたま「友達かも」に表示されたときにすぐわかっちゃったんですよ。書いてたことの内容的に……私のことも書いてたので、裏アカだろうなって思ったんですけど。その子、音大に進学して趣味で作曲活動をしてるみたいだったので、たぶん曲の公開とかの関係で鍵かけてなかったんじゃないかな。

作曲はたしか、付き合う結構前からしてましたね。中学生のとき、私の誕生日に曲を贈ってくれたこともありました。もらった楽譜、きょう持ってきてるんですよ。見ますか?

そうなんですよ、音符すごい多いの。難しそうな曲ですよね。私弾けなくってどういう曲なのかいまでもわからないんですけど、できたらいつか知りたいなって思っていまでも捨てられてないんです、これ。なんかその子のSNSを見てたら、この曲が人生で初めての作曲だったって書いてました。

その子、裏アカにね、さすがに最近は少ないですけど、私のことをいろいろ書いてたんですよ。手紙を送った大学2年のときも、「こんなことで許されると思ったら大間違いだ」みたいなことをつぶやいてて。なんなら、その手紙がきっかけで新しい曲がひとつできたって言ってて……。それを見たときに、ああもう関わろうとしちゃだめなんだなってわかったんですよね。

■「僕は君を許さないよ」

その子が怒りすぎって思います? うーん、でも私がひどいことをしたのは本当だし。それに、なんだろう……たぶんその子にとって、私に対する怒りが創作のエネルギー源になってると思うんですよね。だから許してくれることってこれからもないと思うし、しょうがないのかなって。本当にときどき、その子と仲良く遊んでる夢を平気で見ることがあるんですけど、そういうときだけ「ああ、許してほしいのかもな私」って思います。

もう別れてから10年以上経ってるし、さすがにその子のSNSとかもしょっちゅう見るわけじゃないです。正直気にはなるけど、頑張って見ないようにしてて。

なんか、その子がいちどRADWIMPSの「五月の蝿」をTwitterに載せてたことがあって、僕は君を許さないよって歌ってる曲なんですけど、たぶん私のことだろうなって思って。その曲はたまに聴いて、あーって思ったりします。ちょっと落ち込んでたりして、なにか決定打があったらもっとどん底まで落ち込めるのになって思うことあるじゃないですか。ふふ(笑)。そういうときは見ちゃいますね、その子の裏アカ。

Photo/ぽんず(@yuriponzuu

行き場のなくなったあなたの謝りたいことをもしよければ、わたしたちに聞かせてもらえませんか? 「ごめんなさいの行方」応募フォームはこちらから。

生湯葉 シホ

1992年生まれ、ライター。室内が好き。共著に『でも、ふりかえれば甘ったるく』(PAPER PAPER)。

関連するキーワード

関連記事

Latest Article