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ツイッターの「いいね」だけでやりとりをした、不器用な恋の話

マッチングアプリより不器用で非効率的で無駄が多いけれど、カッコつけない“素”が垣間見えるツイッターが好きだ。

ツイッターの「いいね」だけでやりとりをした、不器用な恋の話

■非効率的で無駄が多くて、でもとても楽しかったツイッターの恋

「異性との出会いがない」
同世代の友だちと集まる度、もう何度繰り返してきたかわからない話題だ。

「大学って、本当に恵まれた環境だったわ」
「会社のひとは、ややこしなくなるから嫌」
「毎日職場と家の往復で、新しいひとに出会えるわけないよね」

お互いの状況に一通り共感し、ため息をついた後、きまって誰かがこう言う。

「やっぱマッチングアプリしかないんじゃないの?」
「だよね〜」
その場の少なくないメンバーが同意する。

ひとむかし前は「ネットで出会う」というと「出会い系サイト」のことだった。
援助交際のような犯罪めいた話題が多くて、とても興味を持てるものじゃなかった。


ここ数年でおしゃれなサービスが増えてきて、「ネットで出会う」といえばマッチングアプリのことになった。身の回りの誰が使っていても不自然じゃなくなった。

実際に使ってみたアプリの名前、好みの異性を検索するときのコツ、会ってみてよかった話、残念だった話……。
同世代の友人の多くは、マッチングアプリにまつわるエピソードを持っている。


「ネットで知らないひとと会うなんて、おかしいでしょ」
もう誰もそんなこと言わない。いろんな出会いの可能性が認められて、本当にいい時代になった。

私も5〜6年ほど前、インターネットで知り合ったひととお付き合いしたことがある。
私のネット恋愛は、出会い系アプリのそれとは違って、ツイッターを経由したものだった。アプリより不器用で非効率的で無駄が多くて、でもとても楽しかった。

その淡い思い出を、平成時代の恋愛の一事例として書き残しておこうと思う。

■「いいね」だけで会話していた

大学生だった頃のこと。

友人に「おもしろいツイートする人いない?」と聞いたら「賢いけど不思議でおもしろい人」と、あるアカウントを紹介された。
遠くの街の立派な大学で法律を勉強している人だった。

そんな人のツイート、何が書いてあるかわからないだろうな……と思い、おそるおそるアカウントを見に行ったら、アイコンは実写のかわいらしい猫だった。
フランスの古い映画の感想や、哲学書の感想など、秀才っぽいツイートもあったが、合間合間に「にゃーん」と書かれていた。

……つらいことでもあったのかな?


とりあえず「頭のいい人は何を考えてるかわからなくておもしろいな」とフォローした。
共通のフォロワーが何人かいたおかげか、すぐにフォローは返ってきた。


授業やバイトから帰ってきて、ツイートをまとめ読みするのが日課だった私は、フォロー相手の日常を熟知していた。当時は今ほどツイッターを積極的に使う人は多くなかったので、フォローしている人のツイートは基本全部読めてしまったのだ。

Aちゃんは老舗の喫茶店でバイトしているが、イメージと裏腹に仕事が多くて大変なこと。
Bくんが、今期の単位が全然足りないこと。
Cさんが好きなジャンルの同人誌を買いすぎてジリ貧で生活していること。
そういう細かい情報がドッと入ってくる。

猫アイコンの彼のツイートは相変わらず映画や本の感想が多かったが、バイトの話もあった。

下宿近くのケーキ屋でバイトしていたが、売れ残りのケーキをまかないとして食べていたら太ってしまって、慌てて辞めたらしい。
法律を勉強している秀才くんが、家庭教師ではなくケーキの売り子のバイトをして、しかもケーキを食べすぎて太ってしまう。その様子を想像したら「ぷっ」と笑えてきた。


彼はずっとそんな調子で、頭がいいのに少し不思議だった。
ちょっとズレた日常を、丁寧な文体で綴っていた。


正直、好みド真ん中だった
全部のツイートを「いいね」したかったが、恥ずかしいので3ツイートにひとつくらいにした。

そうこうしているうちに、相手からもたまに「いいね」がもらえるようになった。
調子に乗った私は、当時流行っていた匿名質問サービス「ask.fm」で「面白いツイッタラーはいますか?」と訊かれたとき、彼の名前を挙げた。するとそのツイートにも彼の「いいね」がついた。


私は完全に舞い上がっていたが、私たちがやりとりしていたのは「いいね」ボタンだけだったんだから、おかしな話だ

そのうちに、大学が長期の休みに入った。

私の大学が、彼の実家から近いことはわかっていた。
彼も私の大学がどこか知っている。
なぜならそのことについて書いたツイートに「いいね」をもらっているから。

もし彼が「来週実家に帰るので近くの人お茶しませんか」とツイートしたら「いきたいです〜」とリプライしてやろう、と待ち構えていたら、ダイレクトメッセージが飛んできた
急展開である。


これまでのツイートから彼の好みを想像して、その日は青いギンガムチェックのワンピースを着て麦わら帽子を被った。

会ってみると、彼はやっぱり秀才という感じだったけど、予想よりもさっぱりとしていた。ケーキ太りはランニングで解消したらしい。
笑った顔は、小動物のように可愛らしかった。

彼が待ち合わせに指定したカフェは古びて暗くて、でもとても雰囲気のあるカフェで、これまた好みド真ん中だった。
まだ会ったこともない私のことを、彼はよく理解してくれていたんだな、と思ってうれしくなった。

その日別れてからも「いいね」を送り合い、何度かデートして、私たちは正式にお付き合いした
フォローし合ってから1年以上経っていた。

■人の“素”が見えるツイッターが好きだ

その彼が、今の夫だ。

……というオチには、残念ながらできなかったけれど。


でもこの経験のおかげで、私はやっぱりツイッターが大好きだ。

ツイッターのいいところは、他の人の興味を無視して自分が言いたいことを全部垂れ流すことができること

今日何があったか。何が好きなのか。特定の話題についてどんなふうに感じるのか。
他の人の目を気にして良いカッコしようとしすぎない、“素”の様子を垣間見ることができる。
それを見ていて好きだと思うなら本当に好きだし、デートして喋ってもきっと気が合うと思うのだ。

出会い系アプリもやってみたけど、マッチングした相手を深く知りたいというよりは「早くデートしたい」という効率性を重視する姿勢をメッセージから感じてしまって、どうにも気が引けてしまう。

「いいね」を奥ゆかしく送り合っていた私には、スマートすぎるのかもしれない
すっかりインターネットおばあちゃんになってしまった。

最近のツイッターはずいぶん人が増えて、使い方も多様化した。前よりはいい加減なことを垂れ流している人は少なくなったような気がして、実はちょっと窮屈に感じることもある。

私みたいな人がどれだけいるかわからないけど、もっとくだらないことが言えるインターネットが、令和の時代もその先も残っていますように。

『平成女子のインターネット回想録』の連載一覧はこちらから

平成女子のインターネット回想録 #1
「保護フォルダ」が命より大切だった頃

平成女子のインターネット回想録 #2
定額聴き放題と、女子トイレでCDを「密輸」していた頃のこと

平成女子のインターネット回想録 #3
口コミサイトにコスメ垢。今日も私は運命のコスメを探す

平成女子のインターネット回想録 #4
プリクラと自撮りが教えてくれた“かわいい”わたし

平成女子のインターネット回想録 #5
ツイッターの「いいね」だけでやりとりをした、不器用な恋の話

ませり

平成の大部分の時間はインターネットに溶かしました

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