口コミサイトにコスメ垢。今日も私は運命のコスメを探す【平成女子のインターネット回想録 #3】
コスメが好きだ。仕事で大変なときも、プライベートの大切なイベントも、大好きなコスメたちなしではいられなかった。口コミサイトに“コスメ垢”、今日も広大なインターネットの海で、運命のコスメ探しの旅は続く。
■コスメカウンターが怖くて口コミサイトを読み漁った日
話は今から5年ほど前、就活の頃まで遡る。
大学で証明写真の撮影会があった。スーツを着てお化粧さえすれば、プロのカメラマンが安く撮ってくれる。
それまでバイトのときだけ、ドラッグストアで買い揃えたものでなんとなくお化粧していたが、いまいちピンときてなかった。薄すぎないか、ケバすぎないか。自分ではよくわからない。
友達に似合ってると言われても、やっぱり不安だ。
そこで「ちょっといい口紅をプロに選んでもらえば、自信を持って面接に行けるんじゃないか」と、ひとりでデパートのコスメカウンターに行こうと思い立った。
初めての“デパコス”だ。
デパートの化粧品フロアは憧れの場所だ。それゆえにまぶしい。
華やかなディスプレイ。凛としたBAさん(※)。ヒールの高い靴を履いたお客さん。
みすぼらしい大学生の私には冷やかしなんてできそうになかったので、事前に口コミサイトで評判を見て、アタリをつけることにした。
(※)BA=ビューティーアドバイザー。コスメカウンターで接客するスタッフのこと。
Aさんの口コミ。
「肌なじみが良い色で、とても気に入りました!リピします!」
なるほど。良さそう。私に似合うかはわからないけど。
Bさんの口コミ。
「かなり潤いがあり、透明感もあるので普段使いでも良いです」
うんうん、就活だからそれくらいがちょうどいい。
「ただ、潤いがある分落ちやすいですね。もう少し色持ちしてくれるとよかったです」
すぐ落ちるのは困ったな。
そのあとの口コミも、まさしく賛否両論。いいとも悪いとも思えないので一旦保留。
片っぱしから口コミを読み進めていくうちに、なんだか疲れてしまったのだ。
当たり前のことだが、どのブランドのどの製品も、合う合わないはその人次第。さらにちょっと穿ったことを言うと、高評価の口コミばかりというのもちょっと信じきれない。
売れているには違いないが、企業のPRの努力による部分も多いだろう。
……そんなことを考えていると、コスメ選びが全然楽しくなくなってしまった。
「うーん、ある程度お金出せば大外れはしなさそうだし、とりあえず3000円か4000円くらいのを買おう」
思いついたのはシャネルか、RMKか。
シャネルは、母が海外出張へ行く父に品番を書いたメモを渡して、免税店で買わせていた思い出がある。RMKは、一番おしゃれでカッコいい同級生が使ってる。
そのどちらかに目星をつけて、またしても口コミサイトをだらだら眺めていたとき。ページの隅に載っていた、ある口紅のパッケージ写真が目に入った。
透明なプラスチック、言い換えればスケルトンでできていて、ちょっと近未来っぽい。中の口紅の色がきれいに見える。
「カッコいいな」と素直に思った。
そうして、私の初デパコスは、シュウウエムラになった。
タッチアップしてもらったとき、持ちが良いかも縦じわが消えるかどうかも、正直よくわからなかった。
実物のパッケージは期待通りのカッコよさだった。くり出すとスケルトンのパッケージの中を赤が上下する。
BAさんが選んでくれた、落ち着きのある赤みの強いブラウンも大人っぽくて最高だった。
それからお守りのようにポーチやポケットに入れて持ち歩いて、どこへ行くにも一緒だった。
余談だが、第一志望の最終面接前、力んでいたのだろうか。塗り直し中にポキッと折れてしまった。
そして私の合否もその通りになった。
それでも思い入れがありすぎて、今もオブジェとして飾り続けている。
■女性たちのポジティブな偏愛の記録
愛するリップとのつらい別れ(と、第一志望からのお祈り)を乗り越え、無事社会人になることはできた。自由に使えるお金も増えた。
しかし慣れない仕事に忙殺されて、身なりにお金を使う気持ちの余裕が追いついてこなかった。会社は完全私服で、あっさりメイクでも支障がない。就活のように、わざわざ化粧品を買うためのイベントもない。
学生のときと変わらず、ありあわせでしのぎ続けていた。
そんな私にコスメと出会うトキメキを思い出させてくれたのは、ツイッターのタイムラインにふと現れた「コスメ垢(※)」のツイートだった。
(※)垢=「アカウント」を指す俗語
予約してた新作さっそく受け取ってきた。予想どおり!パケやっぱり超かわいいし、塗ると顔色がよくなる。
このブランドのリップ、だいたい荒れるから下地ちゃんと使わないとな。
オフィスカジュアルにはちょっとキツめかもしれないけど、アイメイク控えめならいける気がする。使っちゃうもんね!
ツイッターには「コスメ垢」という、ほとんどコスメの話しかしないアカウントの一群が存在する。
彼女たちが何をつぶやいているのかは、ツイッターで「NARS 新作」「Celvoke グロス」などで検索していただくのが一番なのだが、最近買ったコスメの使用感、使用画像、色味比較、新作情報など。とにかくコスメの話づくし。
私が口コミサイトや美容雑誌よりコスメ垢の情報を重宝しているのは、それがあるひとりの女性の偏愛の記録であるからに他ならない。
レビューはほぼすべて「私」目線の主観的な内容だ。
「他のひとは合わないかもしれない、でも私は好き」
「短所もあるけど、余りある良さ。最高」
「作った人天才だから、たくさんボーナスもらってほしい!」
ポジティブな愛が綴られていく。
その様子を見ていると、なんだこっちまで元気になってきて、コスメ買うか! と乗せられてしまうのだ。
これは140字一本勝負でどんどん流れていく、ツイッターの仕様があってこそだと私は思う。
完璧は目指さない、過去は振り返らない。ただ今の気持ちが大事。
なりふり構わない“偏愛”となんて相性がいいんだろう。
気づいたら私もコスメ垢を作成して、好みの近そうなコスメ垢を手当たり次第フォローしていた。
くっきりした赤リップや紫のシャドウ、憧れていたけど自分には一生縁がないと思っていた。コスメ垢たちのラブコールを見ていたら背中を押されてしまい、今では手放せない大事な仲間になった。
身なりに投資することは、何かと良いことずくめだ。清潔感があって悪いことはない。
今年はSNS映えするカラーコスメだけではなく、下地・ファンデーション、ヘアケアあたりをがんばっていこうと思う。
趣味と言えるものはないけど、何か新しく始めたいという方。
コスメ垢、おすすめですよ。
平成の大部分の時間はインターネットに溶かしました