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定額聴き放題と、女子トイレでCDを「密輸」していた頃のこと【平成女子のインターネット回想録 #2】

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女子トイレで、まるで犯罪映画のようにCDを「密輸」していたあの頃のこと。Apple Musicが登場するまで、音楽はいつも“誰かに教えてもらうもの”だった。

定額聴き放題と、女子トイレでCDを「密輸」していた頃のこと【平成女子のインターネット回想録 #2】

年末、ずっとクイーンを聞いていた。
みなさんご存知のとおり、映画『ボヘミアン・ラプソディ』が圧巻で、あの余韻にひたり続けていたかったのだ。

契約中の定額聴き放題音楽ストリーミングサービスApple Musicでは、映画に登場した曲だけ集めた公式サウンド・トラックアルバムはもちろん、ベスト・アルバム、ライブ音源、ミュージックビデオまで、さまざまな音源に好きなだけアクセス可能だ。

映画を見るまで『ドント・ストップ・ミー・ナウ』がクイーンの曲だということも知らなかったのにすっかりハマってしまい、通勤途中、仕事中、家事の合間……いつでも聴きまくった。

年が明けてからクイーン熱が少し冷めてきて、この原稿執筆のBGMはユーミンの『ひこうき雲』である。平成4年生まれの私がユーミンを聴くようになったのは、主に母親の影響だ。

その他、昔からずっと聞いているアーティストといえば、椎名林檎とくるりとピチカート・ファイヴ。それぞれ高校の先輩、学生時代に付き合っていたAとBの影響で聴き始めた。

Apple Musicのような聴き放題サービスが登場するまで、私にとって音楽とはいつも「誰か」から教わるものだったのだ。
その理由は、音源の入手が今ほど簡単ではなかったということに尽きる。

■とにかく音源に飢えていたあの頃

昔々、00年代のことである。場所は中学校の女子トイレ。
私は同級生から『BUMP OF CHICKEN』のCDを借りていた。

先生に見つからないように、CDやマンガはトイレで透けないビニール袋に丁寧に梱包した状態で受け渡すのが慣習であった。

受け取った”ブツ”は通学カバンに入れたり、制服のスカートの腰の部分に挟んだりして持ち出した。さながら犯罪映画の密輸品の売買シーンである。

「次は◯◯ちゃんに渡しといて」
「OK」

人気のアーティストは、たいてい自分以外にも借りたい人がいる。その場合は持ち主を経由せず又貸しが行われた。Cちゃんに貸したCDが、Dちゃんから戻ってくる、しかもその間にEちゃんとFちゃんを経由してました……なんてケースもあった。

こうして持ち帰られたCDは、まずポータブルCDプレーヤーにセットされる。ライナーノーツを開き、イヤフォンで一曲ずつ丁寧に歌詞を読みながら聴く。その後MDに焼くなり パソコンに取り込むなりする。

持ち主に返すときは「めっちゃ好きな曲いっぱいあった」などと聴いた感想を添えるのが通例だが、返却を急いでいた場合などは「ありがとう! まだ聴けてないけど」とお茶を濁すことになる。

当時は、この方法しかなかった。

3000円のアルバムは、中学生には高すぎてほいほい買えない。
親と一緒にレンタルCD屋に行く手もあるが、思春期の私には「へー、そんなの聴くの」みたいな会話を親とするのがめんどくさいので却下。
ネットからがんばって探してダウンロードする方法も存在するにはしたが、もちろん法的にアウト。

だから「密輸」は中学生にとって最も手軽な音源データ入手ルートだった。

そんなわけで、新しい曲を聴くときは、必ず同級生や先輩後輩、もしくは家族が間に入るのが当然だったのだ。

新しい音源にはそうそうありつけない。
だから手に入れた音源は大切に、何度もリピートして聴いた。歌詞も完璧に覚えた。

大学生になって、レンタルCD屋のカードを作ったりYouTubeを見るようになったりしても、状況は劇的には変わりはしなかった。人に勧められたりもらったりした音源を大切に、しゃぶるように聴く生活は続いていた。

■誰にも勧められていない、“私”が選んだ曲たち

Apple Musicはざっくりいうと

配信されている曲が無制限で聴き放題
ダウンロードすればオフラインでも視聴可能
好みに応じてアーティストや楽曲をレコメンドしてくれる

というサービスである。

以前から1曲200円の音源買い切りサービスはあったが、「レンタルするほうが安い」と借りもしないのに敬遠していた。そんな腰の重い私に、月額980円聴き放題のコスパは強烈だった。

比較的初期から相対性理論、くるり、大森靖子といった「気になってた! もっと聴いてみたい!」と思っていたアーティストの楽曲が配信されていたこともあり、3カ月の無料期間後も継続利用した。

フジファブリックも、サカナクションも、クリープハイプも、Cymbalsも、フリッパーズ・ギターも、クラムボンも、Apple Music がなければ、街角やCMソングで聴いてそのままだったろう。

誰にも勧められず、私自身で勝手に聴き始めた曲たちは、聞いていて不思議と気分がよかった。

Apple Musicがなければ、シャワーやドライヤーの間の鼻歌のバリエーションは、より限られたものだったに違いない。人から勧められた曲とはまた違う良さがあった。

それまで「恋人が変わると聴く音楽が変わる女」だと自分自身を揶揄していた。音楽の趣味に主体性がないのが、みっともないことだと思っていた。

音楽は服やインテリアよりもっと簡単に「着替える」ことができてしまう。
だからこそ逆説的に、他人に縛られない自分なりの好みを確立できていることが成熟した人間の条件だと、心のどこかで思っていたのだろう。

■それでもカラオケで歌うのはゼロ年代の曲

とはいえ、今の鑑賞態度は学生の頃とまるで違う。

CDとライナーノーツを照らし合わせながら、アルバム1枚を通して聴くなんていう体験はしなくなった。
パソコンでもスマホでも、初めて聴く音源でもついつい流しながらネットサーフィンする手を止められない。

たまに猛烈に気に入る曲があると1曲ループ再生する(最近だとCymbalsの『Highway Star, Speed Star』)が、それも「ながら聴き」である。歌詞カードは一度サッと目を通しただけである。

そう、大人になった私たちには音楽以外の娯楽が多すぎるのだ。

そんなわけで友達とカラオケに行っても、私の十八番は相変わらず椎名林檎の『本能』だし、最近の曲はもう全然わからないし歌えない。

コンテンツに対してかけた時間が違いすぎて、なんとなく歌うのが失礼な気がしてしまう。

スマホが普及して、ストリーミングサービスがあって、しかも見たいアプリも動画もたくさんあるだろう今の中学生・高校生たちは一体どんなふうに音楽を聴いてるんだろう……? と不思議になる。

彼ら彼女らは部屋に閉じこもって、一時間座り込んで聴き終わる頃には足が痺れて立ち上がれない経験をするのかな。
知っている人がいたら、こっそり教えてください。

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ませり

平成の大部分の時間はインターネットに溶かしました

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