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職人さんは“会いに行けるアイドル”!? 町工場に費やした金額は「考えたことないですね」

あるきっかけで町工場にハマり、「町工場応援ソング」のCDを発売したり工場見学ツアーのアテンドも行ったりと精力的に活動している羽田詩織(はたしおり)さん。町工場やそこで働く職人を“推し”と呼び、時間もお金もいとわず愛を捧げ続ける羽田さんの原動力とは? ほとばしる偏愛を語っていただきました。

職人さんは“会いに行けるアイドル”!? 町工場に費やした金額は「考えたことないですね」

到着するなり、工具や謎のグッズをテーブルに広げる羽田さん

これは何でしょう……?

羽田「それは五光発條さんというバネ専門の工場で作った名刺入れです!」

全国各地の工場を飛び回る、“町工場オタク”の羽田詩織さん。
町工場やそこで働く職人を“推し(※)”と呼び、時間もお金もいとわず愛を捧げ続ける羽田さんの原動力とは?

町工場にハマったきっかけや、これまでに費やしてきたお金について聞きました。

(※)アイドル等のファンが、グループ内で最も応援しているメンバーを指すときに使う俗語

■町工場の職人さんは「会いに行けるアイドル」

――「町工場オタク」と伺いましたが……すみません、一体どういうことですか……?

バネとかネジとか蝶番とか、機械の部品のひとつを作っているような工場が好きなんです。普段はあまり表に出てこないですが、製造業の方々って本当にかっこいいんですよ。


――以前ヒットしたドラマ『下町ロケット』のような感じですかね。

そうそう! ただ、下町ロケットのモデルになった佃製作所は、町工場の中では大手ですね。もっと小さい、従業員が2〜3人だけの工場もたくさんあります。

――なるほど。町工場との出会いのきっかけは何だったのでしょう?

私は本業が声優なんですが、あるとき「全日本製造業コマ大戦」というイベントの司会のお仕事に呼んでいただいて。

――コマ大戦……?

製造業の人たちが、金属で自作したコマをぶつけ合ってバトルするイベントです。今や世界大戦も開催しているほどの規模なんですが、それがめちゃめちゃおもしろくて。

全日本製造業コマ大戦 試合の様子

イベントの後、参加していた方に「工場見学に行ってもいいですか?」とアポをとってすぐに見学に行きました。もうそこから、どハマりしちゃいましたね。とにかくいろんな工場を見に行きまくりました。

――町工場の魅力って、たとえばどんなところですか?

工場の機械を見るだけでおもしろいです。
たとえば、バネを作る専用の機械。真ん中から針金を入れると、それを8本の足が押さえてきゅるきゅる! と回して一瞬でバネの形に成形します。

しかも全然音がしないんですよ! 「プスッ、キュルル……プスッ……」みたいな。永遠に眺めていられる気がしますね。

バネを作る機械(神奈川県横浜市 五光発條)

それから、金属を溶かして固める「鋳造」の工場もイチオシです。たとえばドアの蝶番(ちょうつがい)なんかは鋳造の技術を使って作られています。

東日本金属という会社さんが、蔵のような超アナログな工場を持っているんですよ。
砂でせいろのような枠をつくって、溶かした金属を流し込むんです。流し込んだら砂の型を壊しちゃう。できたら壊すを繰り返す“諸行無常感”、ときめきますよね。

溶かした金属を型に流し込む様子(東京都墨田区 東日本金属)

――ちなみに、今日お持ちいただいている大量のグッズは一体……?

普段から町工場に発注してオリジナルグッズを作ったり、工場の端材を使ってアクセサリーを作ったりしているんです。

パイプ椅子の端材を使った「メタル門松」や、金属の削りクズで作ったブローチ、端材でできたティアラ、アルミ製のスマホケース、バネでできた名刺入れ、レーザーカッターで作った木製ノギス(※)……。
過去には自転車を丸ごと手作りしたこともあります。

(※)長さを測るための測定器

これまでに自作したオリジナルグッズたち(一部)

自転車を作っている様子

――……本当に工場がお好きなんですね!

私にとって、町工場の職人さんはアイドルみたいな存在なんです。

――「会いに行けるアイドル」みたいな?

そうなんです! アイドルのコンサートに行くようなノリで各地の工場に行って、職人さんや機械を見て「きゃー、かっこいい!」って(笑)。

熊本、群馬、長野、あとは横浜の工場もよく行きますね。多いときは毎週どこかしらに行っています。

■町工場につぎ込んだ金額は「考えたことないですね」

そんなふうに町工場が好きだと言い続けていたら、だんだん周りにも情熱が伝わり始めて、あるとき「工場見学ツアーのガイドをやってほしい」と声がかかりました。

それをきっかけに、端材を使ったグッズ作りのワークショップを企画したり、子ども向け工場体験の講師をしたりするようになりました。

どれも好評だったので、今ではもっと大規模な「町工場たいけん えんにち!」というイベントも主催しています。いろんな町工場がブースを出展してワークショップを行う、親子向けのイベントです。

「町工場たいけんえんにち!」の様子

一般の人も町工場の職人さんも、すごく喜んでくれるんです。特に工場の方からは、「一般の人がこんなに楽しんでくれたのは初めて」「今までゴミだと思っていたものがこんなにきれいに生まれ変わるなんてすごい」と、うれしいコメントをいただいて。
イベントは今年もいろいろやっていく予定です。

あとは、「町工場応援ソング」も作ってるんですよ。私が作詞して、CDにして販売してます。ちなみに最初に提出した歌詞は、マニアックすぎてボツになりました。「これじゃ一般の方に伝わらないから!」と(笑)。

――活動の幅が広すぎる。ちなみに……町工場活動にかかるお金って持ち出しですよね?

工場見学もイベントも、私がやりたくてやっているので、基本的にはそうですね。でも「お金がいくらかかるか」はあまり考えたことがないです。とにかく、製造業の良さを外部の方々に伝えていきたいんです。

――まさに無償の愛ですね。

この前イベントの来場者が初めて1000人を超えて、けっこう忙しくなって……。ある関係者の方に、「羽田さんの働きを給料換算したら、この半年で200万円分くらいになるよ」と言われました。

――ということは……単純計算すれば年収にして400万円分!?

ですね。それくらいの働きをしているけど、お金をもらっているわけじゃない。むしろ交通費やら材料費でお金が出ていくという。肌感覚ですが、平均して月3万円くらいは費やしてきたかな?

でも嫌だと思ったり後悔したりしたことは全然ないです。だって「推しのために時間やお金を浪費してる」と言われても、え? って思うじゃないですか。
「推しにいいもの食べさせてやりたいだろ! 何言ってんだ!」って感じですよね。えっ、普通そう思いますよね?

――ちなみに貯金とかは……。

えっと、まあ、細々と……。だって貯金がないと工場に行けないじゃないですか!

■目指すのは「町工場界の“さかなクン”」

――ここまでいくと、もはや趣味を超えてライフワークの領域だなって思いました。

ライフワーク……たしかにそうかもしれないです。本業の声優・ナレーションのお仕事も続けていますが、最近は企業系イベントの司会やCMのナレーションなど、町工場や製造業に関わる「声」のお仕事が増えてきているんです。

今までは、町工場に関係ない仕事で生計を立てながら、空いた時間で町工場に行くという生活だったのが、最近は「推しへの愛がだんだん還元されてきている」という実感が出てきています。

推しに費やした時間やお金が、推しに関わる仕事を連れてきて、そしてまたそこで稼いだお金を推しにつぎ込む。私ひとりで自給自足しているような感じですね(笑)。永遠のループです。

――すごい! 今後の活動の展望はありますか?

私、町工場界の「さかなクン」になりたいんです。知識量に業界への貢献度、専門知識をわかりやすく伝える力、すべてが憧れです。

――さかなクン。

町工場は全国にたくさんあって、働いている人もみんなかっこいい。なのに工場のおじちゃんたちは「俺たち地味だし汚いし、若い子が全然来てくれなくて……」と言う。どうして見てもらえないんだろう? ってすごくもどかしいです。

ただ理由は単純で、町工場の情報を知る機会がないんですよね。だから私は、まったく興味関心のない人にも情報が届くように風穴を開けていきたい。

最初、私は現場の人にとって邪魔な存在なんじゃないかと思ってたんですよね。何もできない、彼らのお客さんになり得ないド素人が、貴重な時間をいただいて工場を見学させてもらっている。
でもある日、すごく尊敬している職人さんが「絶対そんなことない、あなたのやっていることは無駄じゃない」って言ってくれたんです。

工場見学の様子(神奈川県座間市 赤原製作所)

その言葉を聞いてから、私の役割は「翻訳」なのかなと思うようになりました。

今まで、町工場の人たちと一般の世界が隔絶されてて、その間を行き来できる人がいなかった。私は今、両方を行き来できる気まぐれな旅行者のポジションにいるんです。
だから、町工場で生まれている価値あるものを一般の人たちに伝える役割を担っていきたいと思っています。

――いい循環が生まれてますよね。好きなことがどんどん仕事に結びついて、そこで稼いだお金をさらに町工場のために使えている。

「私が推しを育ててる!」という感覚に近いものがありますね。でもまだまだ業界は広いし、知らないことだらけなので、もっと製造業界に還元できるように頑張りたいです。
お金も時間も、これからももっとつぎ込みますよ(笑)。

Text/べっくやちひろ
Photo/高城つかさ

2月特集「身を焦がす偏愛」

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