極上の性描写が楽しめる小説3作品
性描写の濃淡が異なり、作品としても素敵な小説を3冊ご紹介します。自分の性欲と向き合い、満たすツールのひとつに書籍がありますが、ここでは文芸作品に絞り込んでみました。
性的なファンタジーを持つことは、これまでなかなか他の人には言えない……それが日本で暮らす多くの女性が持つ価値観でした。思春期を経てだんだんと恋愛や性的な事柄を知り、興味を持つようになったとしても、男性と違って直接的なチャネルから性行為や感情のインプットを得ることは少なく、主な手段は映画・テレビドラマではなかったでしょうか。
ですが、性への知識が増えていくにつれ、お茶の間で家族と一緒にいるときに裸の男女がテレビ画面に映されれば、親も自分もそれとなく気まずくなり、「あけっぴろげに語ったらダメなんだな……」と痛感し、さらに触れづらくなります。
対して、私にとって、自分ひとりで読む文芸作品は、性的な事柄にアクセスしやすい手段だったように思います。開いているページは周りから見えないので、堂々と読めますし、障壁が少ないチャネルです。ドキドキしながら何度も描写を楽しんだ体験、あなたにはありませんか。
今回は、文芸作品にスポットを当てて、性描写の濃淡が違い、なおかつ作品としてもとっても素敵な小説3作をご紹介します。
■性描写で激しいセックスと事後の気怠さを味わいたい人へ。村山由佳『海を抱く』
直接的な性描写度:★★★★★
この作品に出てくる主人公とヒロインは高校生。主人公の光成はサーフィンが好きな少しやんちゃな男の子。ヒロインの恵理は成績優秀な優等生の女の子。そんな接点がなさそうなふたりがつながるのがセックス。
大人になると、理屈で男と女がつながるものではないこと、体から始まる何かがあることもわかっている。だから今読むと、狂おしいくらい真っ直ぐにセックスに向き合うふたりへの愛おしさや共感を感じます。高校時代にこんな激しい関係性があったなら……と空想してみるのも愉しい。
ダイレクトな描写がかなり多いので、直接的に性的なファンタジーを持ちたい方におすすめです。また、性描写だけでなく、ヒロイン・恵理の母性が垣間見られる様子も、セックスを知り、男性を愛したことがある私たち世代の琴線に触れることでしょう。
セックスの後、相手の男性の髪の毛をもてあそんだり、相手への愛おしさや内なる母性に気づいたことがある方には、ぐっとくる描写ではないでしょうか。激しい性描写も特徴的ですが、事後のけだるさと愛おしさの描写もまた、このように極上です。
■性描写でプレイボーイの“揺らぎ”を感じたい人へ。ミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』
直接的な性描写度:★★★☆☆
「直接的な性描写は苦手……」という方におすすめの1冊。稀代のプレイボーイの医師・トマーシュをテレザとサビナという異なるタイプの女性が取り巻く三角関係の物語で、あらゆる哲学的な思想が絡み合って登場する読み応えのある文学作品です。
医師という高い地位を投げ捨ててまで守り抜きたいと思うほど、心の底から愛する人がいるにもかかわらず、愛人(サビナ他)と連絡を取りまくって、会う約束を取り付けた後に、妻のテレザを思い、後悔する。でも愛人に会わずにはいられない、トマーシュ。
そんな男性を、「最低のダメ男」と思う方は、この本は止めたほうがいいと思います(笑)。
我々の人生の一瞬一瞬がかぎりなくくりかえされるのであれば、我々は十字架の上のキリストのように永遠というものにくぎ付けにされていることになる
『存在の耐えられない軽さ』(集英社文庫)8ページより引用
でも、ちょっとドキッとなさる方は、こんな悟りの言葉を思いながらも、次から次へと他の女を抱き、そして自分自身を抱き、愛しているという男トマーシュにハマることでしょう。
愛してもセックスをしても何か足りない、何かが埋まらない……そんな体験をしたことがある大人の女性は、読み進めるとおそらくは自分がテレザかサビナか、どちらかの立場になってトマーシュを追いかけることになります。トマーシュはそれほど素敵な色男で、性描写からしても魅力的なセックスをする男性です。
性愛的友情がけっしてアグレッシブな恋愛へと発展しないということを確実にするために、継続的に付き合っている愛人の誰とも非常に長いインターバルを置いてしか会わなかっった。トマーシュはこの方法を完全なものとみなし、それを友人の間で宣伝していた。「3という数字のルールを守らねばならない。一人の女と短い期間に続けてあってもいいが、その場合は決して三回を超えてはだめだ。あるいはその女と長年付き合ってもいいが、その場合の条件は一回あったら少なくとも三週間は間を置かなくてはならない
『存在の耐えられない軽さ』(集英社文庫)18ページより引用
こんな男性と愛とセックスをかわす日々が人生にあったら、とても濃厚でスパイシーなのではないでしょうか。性描写と愛がすれ違う様子に、想像が掻き立てられ、きっとあなたの中の女を覗かれるような気持ちになると思います。
また、冒頭は、「永劫回帰という考え方は秘密に包まれていて、ニーチェはその考えで、自分以外の哲学者を困惑させた」と始まるくらい哲学的なテーマを扱っていて、ニーチェなどがお好きな方はとてもぞくぞくする本でもありますよ。