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彼女を幸せにできるなら主夫になる。ひとりの芸人が「家族の笑顔の最大値」を引き出すために選んだこと

「主夫ですので、妻と子どもたちの意見と笑顔を最優先させていただいております」――日本で唯一の主夫芸人として活動する中村シュフさん。メールのやり取りからも、どれだけ家族を大切にされているかが伝わってきました。そんなシュフさんが日々の生活で心がけていること、これまでの夫婦関係についてインタビュー。

彼女を幸せにできるなら主夫になる。ひとりの芸人が「家族の笑顔の最大値」を引き出すために選んだこと

妻と娘3人の5人暮らしで、すべての家事と育児を担当している中村シュフさん。日本唯一の“主夫芸人”としても活動中です。

「男が外に出て、女が家を守るのが当然」という時代は終わりつつあるけれど「女が外に出て、男が家を守るのもアリ」という時代は、まだ始まったばかり。

その夫婦関係をひと足早く実践している、シュフさんの話を聞いてみました。

■彼女を幸せにできるなら、主夫になってもかまわなかった

――そもそも、なぜシュフさんが家事をやるかたちになったんですか?

彼女のほうから「私が働くから、家庭に入ってもらえませんか?」というプロポーズを受けたんです。僕は「ふつつか者ですがよろしくお願いします」と答えました。

妻は、僕がコンビで漫才をしていたときのお客さんです。デビューライブに来てくれて、それからずっと月1回のライブを観てくれていました。向こうが僕の連絡先を知りたい、と言ってくれたのをきっかけに、1年ほど経って交際がスタート。僕は25歳、妻は大学院生でした。

若手芸人って、売れてなくてもすごく忙しいんですよね。バイトにネタ作り、練習、ライブ、オーディション、雑用……付き合っていてもデートする時間がなくて、会うのはほとんどライブのときだけでした。で、6年ほど付き合ううちに僕がコンビを解散して、次に新しい相方を見つけるか、就職するかと悩んでいたとき、先ほどのプロポーズを受けたんです。彼女は「新しいコンビを組んだらまた忙しくなるから、いまのうちに結婚しちゃえ!」と思ったんだとか。

中村シュフ 主夫芸人・家政アドバイザー/家政学科卒/家庭科・保健の教員免許を持つ。著書に『主夫になってはじめてわかった主婦のこと』(猿江商會)

――めちゃくちゃ愛されてますね……! 芸人を辞めて、家庭に入ることに抵抗はなかったんでしょうか。

「芸人としてモノになりたい」という思いはもちろんありましたけど、僕も彼女のことがすごく好きだったんですよね。

なんせ、出演者よりお客さんのほうが少ないようなライブに来て、唯一笑ってくれてたのが彼女だったから。彼女を幸せにするには結婚することだ、というのも理解できたし……まぁ、芸人として成功する覚悟が弱かったんじゃないですか(笑)。

――いや、それよりも彼女を幸せにする覚悟のほうが強かった、ということでは。

僕自身も彼女の提案を聞いて、結婚に前向きになれたんです。家庭科の教員免許を持っていて、家事はきらいじゃないし。一般的な男女の役割分担にも執着がなかったから、自分たちが逆になることに抵抗はありませんでした。

■家族みんなが穏やかに過ごせることが、一番うれしい

――結婚して8年。いまはどんな生活をしているんでしょうか。

いまは家事と、ふたりの子どもの育児をしながら、扶養控除の範囲内で主夫芸人として活動しています。優先順位は、完全に家庭。もちろん家事には大変な側面もあると思うけれど、自分の裁量で工夫しながらできるから、僕としては芸人のときよりストレスフリーです。

それに、芸人として売れようとしていたときは全然売れなかったのに、主夫になったとたん仕事も増えました。「専業主夫って面白いじゃん」ということで、先輩のポッドキャスト(ウェブラジオ)の番組にゲストで呼んでいただいたのがきっかけ。いまはイベントの司会や講演会講師、情報番組のレポーターなどを、扶養から外れないように調整しつつやってます。

――シュフさんがブレイクしたり、奥様が少し仕事に疲れたりして「今度はあなたが働いて」と言われたとしたら、どうでしょう。

全然OKです。

家事の役割分担とか家族のかたちは、それぞれ違うし、絶対の正解はないですよね。そして、自分たちが一度ベストだと思って決めたかたちでも、それが未来永劫ベストだとは限らない。家庭の状況や社会の情勢が変わっていくなかで、自分たちも柔軟に変化しながら、「家族の笑顔の最大値」を生み出していくものだと思っているんです。

だから「僕が働いたほうがよさそうだぞ」となれば、明日からでも就職活動をします。そのぶん、彼女が個性的な家事を見せつけてくれたら、それもすごく楽しいと思うし(笑)。

――変わっていくことを前提に考えているのが、とても素敵ですね。

妻には「あなたはユーモアと生きる力があるから結婚した」って言われるんです。たしかに、芸人時代に生活の底辺を経験したこともあって、創意工夫をしながらサバイバルしていくのは得意。たとえ自分の給料が減っても、彼ならなんとかしてくれるだろうと期待してくれたみたいです。

家政学的にいうと、家事って「家族に健康で快適な生活を送ってもらうための仕事」なんです。家族みんなを笑顔に保つことが、家事の存在意義。

これだけ激しく変化する世の中で、家族みんなが穏やかに過ごせる状態をつくることに、僕はやりがいを感じてますね。

あとは単純に彼女のことが好きだから、好きな人の役に立ちたくていろんなことをしているだけなんだと思います。

■悩んだ3人目の子ども。でも、「僕の仕事は彼女の笑顔を引き出すことだから」

――結婚生活のなかで遭遇した、一番大きな壁はなんでしたか?

じつは今度、3人目の子どもが生まれるんです(※取材の2日後に無事誕生)。3人目をどうするかというのは、すごく長い間話し合いましたね。

僕自身は、子どもはどちらでもいいと思っていたんです。ひとり目、ふたり目のときは彼女がほしいと言ってきて、反対する理由がなかった。僕の仕事は彼女の笑顔を引き出すことだから、その彼女がほしいなら喜んでつくろう、と思ったんですね。

でも3人目は勝手が違って……すでにふたりの姉妹を育てつつ家事をしているなかで、家庭がうまく保てるか心配になったんです。彼女は家のことを極力しないので、言ってみれば世話をしなきゃならない娘が3人いるようなもの。ここへさらにひとり子どもが増えるとなると、僕ひとりでは大変というか、非常にやりがいがある状況になっちゃうなと思いました。

――「大変」じゃなくて「やりがいがある」。ちょっとした言葉のポジティブ変換に、シュフさんの人柄がにじみますね……。

あはは(笑)。

大切な生命ですから、生まれてしまってからでは取り返しがつかない。なので、そこは慎重になって、数年間話し合いましたね。でも、最終的には彼女の気持ちが強くて。3人目がいないとこの笑顔がゼロになる、そうしたら僕の存在価値がないと思って、決断しました。

でも、育児にあてるパワーや心の余裕をとっておくために、家のことを彼女にもいままでよりやってもらうことにしたんです。僕らにとっては仕組みの大きな変化だし、彼女にとっては大きな挑戦。もちろん失敗もあるけれど、ちょっとずつ頑張ってくれています。

――新しい生活が、早く軌道に乗るといいですね。

不安は消えないけれど、基本的になんでも「面白い」ととらえるようにしてるんですよ。トラブルが起きたり、苦労するほどネタになる。そこはチューニングの問題だと思うので、しんどいときは“芸人スイッチ”を入れる感じです

――最後に、夫婦間のコミュニケーションで心がけていることを教えてください。

僕たち夫婦は、そもそも性格がまったく合わないんです。ものの好き嫌いも考え方も、うまく意見が合ったことのほうが少ない。だから「相手は自分と全然違う」という前提からスタートするようにしています。同じ日本人だからだいたい同じような価値観だろう、って思い込んでいるとうまくいかないから。

たとえば、外国の方が靴のまま畳に上がっても「お~っと」とはなるけど、それに怒ろうとは思わないじゃないですか。「靴は脱ぐんだよ」って教えてあげなきゃいけないけれど、そういうコミュニケーションをさぼらなければいいだけ。それと同じような気持ちで、妻に接しているんです。

でも、正反対の凸凹コンビのほうが爆発力を持ってるんですよ。僕が乗り越えられないと思った壁でも、彼女が横から見てみたら「薄いから大丈夫」ってなるかもしれない。

性格が合わないからこそ、家族としての突破力は強いんじゃないかなと思っています。

#編集後記

夜20時からスタートしたこの取材。

「家族の夕食には雑穀米とチンジャオロース、お味噌汁をつくってきました。妻は妊娠中なので、レバーの料理もプラスしています」と、シュフさんは微笑みました。

家事が苦手な奥様のエピソードを話すときは、本当に愛しそう。

「もやしの下ごしらえを、午前中いっぱいかけてやってるんです。めちゃくちゃ丁寧な仕事ですよね(笑)」

「コンセントが見当たらなかったらしく、天井に近いエアコンのコンセントを抜いて、そこに掃除機を挿してたんですよ。その発想はなかったなと思って、芸人として負けた気がしました」

シュフさんに「パートナーの方の個性的な家事をあらわすお写真をいただけますか?」とお願いしたら「しわしわ」というタイトルとともに送っていただけた”しわしわのワイシャツ写真”

シュフさんは、ちゃんとできるようになれよ、とは決して言いません。

「彼女はそういう、笑顔の起爆剤になるような家事を担当してくれてるんです」

自分たちに最適な家族のかたちを考えて、お互いを尊重しながら暮らしている、中村家の楽しい日々が垣間見えました。



取材/Text:菅原さくら(@sakura011626
Photo:池田博美(@hiromi_ike

DRESSでは10月特集「名前のない関係たち」と題して、愛する誰かと心満たされる人生を送るヒントをお届けします。

10月特集「名前のない関係たち」

菅原 さくら

1987年の早生まれ。ライター/編集者/雑誌「走るひと」副編集長。 パーソナルなインタビューや対談が得意です。ライフスタイル誌や女性誌、Webメディアいろいろ、 タイアップ記事、企業PR支援、キャッチコピーなど、さまざま...

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