交際経験のない男女が3児の親に。10年経っても仲良しなのは「愛してるよ」と言葉にするから
夫婦になってからも、恋愛時代のように言葉で気持ちを伝え続けられる人は、一体どれくらいいるのでしょうか。作家・投資家の山本一郎さんはその大切さについて、「夫婦が幸せを実感しながら生活をしていくうえで必要不可欠」だと語ります。
山本一郎さん、45歳。作家・投資家で、ネット界のかつてのハンドルネームは「切込隊長」。その名の通り舌鋒鋭く社会問題に切り込むスタイルとは裏腹に、現在では3人の男児の父親として、日々子育てに奔走しています。
初めて付き合った女性は現在の奥さまで、結婚10年目となる今もピュアな愛情を保ち続けている山本さん。そんなおふたりの出会いから夫婦観、幸せを保つ秘訣について、じっくり伺いました。
◼初デートは大遅刻というアクシデントで始まった
——おふたりはどんな風に出会ったのですか?
山本一郎さん(以下、山本さん):知人の紹介で出会い、メールで何度かやりとりをするようになったんです。実際に顔を合わせたのは2007年3月、新宿紀伊国屋の前で待ち合わせた夜ですね。
奥さま:待てど暮らせどやって来なくて。おまけに連絡もつかないし……。
山本さん:実は私、1時間30分ぐらい遅刻したんですよ。しかも携帯を家に忘れてきて、連絡も取れなくて。よくあんなところで立って待っててくれたなあと思いますね。もしあれで帰られてしまっていたら、今の私たちはいないですから。
奥さま:終電まではとりあえず待とうかな、と思っていました。
——奥さま、寛容ですね……!
山本さん:家内は私のことを吉本の芸人だと思っていたんですよ。
奥さま:私はまったくネットの世界を知らなかったので、夫のことも当然知らなかったんです。紹介してくれた知人に「面白い人だよ」と言われたので、てっきり芸人さんなのかと思い込んでいたんです(笑)。
——そうしたら現れたのが山本さんだったと(笑)。デートってどんな感じだったんですか?
山本さん:基本的に私が家内を連れ回していた感じですね。タバコの煙がもうもうのゲームセンターや、当時熱狂的に応援していたヤクルトスワローズの試合とか。
奥さま:野球の試合というから楽しそうだと思ってついていったら、隣でずっと「死ねー!」って野次って叫んでいるんです。「もう、この人何なんだろう?」と思いました。
山本さん:紳士的に振る舞ってはいたんですが、やっぱり臨場感のある場面では地が出てしまいますね。主宰していたイベントの「ビール党」という集まりに連れて行ったこともありましたが、そこでも私がかなりひどい振る舞いをして。
奥さま:靴でビールを飲むわ、男性とキスをするわで。かなり引きました。
■初めて付き合った相手が人生最高のパートナーに
——付き合いたてのデートでその感じはキツいかもしれませんね……。奥さま、当時の山本さんによくついていけたなと思います。
奥さま:住む世界があまりにも違ったので、逆に魅力的に映ったんでしょうね。あとは、恥ずかしながら私はそれまで男性とお付き合いした経験がなかったので、純粋に「男性と付き合うのってこんなに楽しいものなんだ」って感じたんです。
山本さん:出会った当時、私は34歳、家内は26歳。お互いに異性経験がなかったんですよね。
——そういう点では、誰かと比較することなく、素直に相手を見つめることができたのかもしれないですね。
山本さん:私の場合は、初めて付き合った相手が「これ以上の人生はありえない」と思わせてくれる人だったので、幸運だったと思います。神に感謝しています。
——恋愛から結婚へと踏み切るにあたり、どんなところが決め手になったのでしょう?
山本さん:私は結婚がしたかったというのもありますが、何より子どもが欲しかったんです。あまりにもモテず、もしかすると生涯独身かもしれないと思っていたので、大学生の頃からずっと児童養護施設に寄付をしていて。いざとなったら、そういう子どもたちを引き取って一緒に暮らしていこうと考えていたくらいでした。
奥さま:付き合っているときにも、一緒に児童養護施設に行きました。そこで、養子縁組についての説明を受けたことも。
山本さん:キョトンとしていたね。
奥さま:前後関係がよくわからなかったので(苦笑)。私自身は、あまり結婚について意識したことはなかったんです。ただ、毎回仕事が終わってから待ち合わせてデートするのも大変だということで、出会って半年で同棲を始めたんですね。そうしたらそのままの流れで婚約、結婚と進んでいった感じです。
——出会って1年後には入籍されたんですよね。
山本さん:長い間ひとり好き勝手生きてきた人間だったので、周りの人たちは私が結婚すると知って本当にドン引きしていましたね。
「最近付き合いが悪くなったから、てっきり具合が悪いんだと思ってた」とか「なんで山本さんみたいな人が結婚できるんですか?」などと、散々な言われようで。そんな風に思われていたとは、自分でも驚きでした。
奥さま:「こんな人と一緒になるなんて、本当に大変ですね」「困ったことがあったら何でも相談してください」と。本当に漏れなく否定的なことばかりを言われたので、「彼と一緒になる私、おかしいのかな……?」と思ったりもしましたけど。
山本さん:でもね、なんだかんだ結婚したらあっという間に長男ができて。案外まっすぐ家内や子どもに向き合えている自分に、「俺って意外と家庭人だったんじゃん」と(笑)。
◼夫が悪者になりそうなとき、妻がブレーキ役になる
——山本さんって、ネットのイメージだと「切込み隊長」という愛称通り、怖くて弁がたつキャラクターだと思うんですけど、夫としてはいかがですか?
奥さま:皆さんそういう印象を持っていると思うんですけど、家では意外と無口ですよ(笑)。声は大きいですけど。世間に向けてやっているような無駄な罵倒みたいなことは、家庭ではほとんどしないです。
山本さん:深刻な喧嘩は一度もしたことがないですし、私が一方的に何かを主張することも基本的にはないです。何か問題が起こったときは徹底的にワーワー話し合って、きちんと解決するべきだと思っているので。言い合ったあげく、問題だけが残ってしまうというのが一番良くない。
奥さま:不満があったら、できるだけ時間を置かずに伝えるようにしています。主人が家に帰ってくるのを待てずに電話しちゃうこともあります。子育てのこととか、自分の体調のこととか。今は3人子どもを育てながらそれぞれの両親の介護もしているので、本当につらいときもありますし……。
山本さん:妻が一度ストレスで倒れたときや三男の妊娠が切迫流産気味だと診断されたときは、仕事をすっぽかして私が家事育児をほとんどやったこともありました。
でも、それがすごい、偉いっていうよりは、夫婦で家事を分担するのは当然だと思いますし、動けるほうがパッと笑顔でやったほうが話が早い。今では私も常勤の仕事を全部辞めて、育児と介護がメインになってしまいましたね。
——ご夫婦の関係って、ほぼ対等な感じですか?
山本さん:家の中ではそうかもしれないですが、対外的には「攻め」と「守り」的な部分はありますね。私は基本的に「なんでもそのまま伝えて、わかってもらえばいいじゃん」と思うタイプなんですけど、家内は「ちょっと待って」って。相手にも立場や思惑があるんだから、どう受け取られるのか少しは考えたほうがいいって。
奥さま:主人は文句でもなんでもとりあえず口に出すし、わからなければ「ちょっと話し合ってくるわ」っていつも言うんですけど……。でも相手にも気持ちがあるじゃないですか。
山本さん:最近は私も、行動に出る前に家内に相談するようになったんです。そうすると大抵、「そういうことをするから怖がられるんだ」ってブレーキを掛けられますね。
奥さま:主人が悪者になってしまうのが嫌なんです。方々で誤解をされて「山本が悪い」って言われているのに、本人は弁解しないからやきもきするんですね。私は前面に出ない代わりに「正しいことはちゃんと言いなさいよ」と伝えています。
山本さん:確かに、口が悪くて損をしている部分は大きいとは思うんですが、治らないですよね。
奥さま:久しぶりに主人の実家に帰ったら、ドアを開けて義母さまへの一言目が「ババア、死ねよ」だったりするので(笑)。義母さまも怒るでもなく「あらまたお世話しに来てくれたのね」って普通に応対していまして……。仲はいいんでしょうけど、それを世間で応用しちゃうとのはどうなの、って思う。
◼「幸せだね」「愛してるよ」大事なのは事実を言葉にし続けること
——最近だと、妻も夫も対等であるべきだとお互い張り合ってしまうような夫婦も多いように感じますが、山本さんご夫妻はバランスがいいですね。
山本さん:家内に何か指摘されると、「確かにそうだな」と思うことが多いですね。逆に「何かあったら何でも言ってね」とも言っていますし。思っていることはきちんと伝えるのが基本。だから「幸せだね」っていうことも、ずっと言い続けています。
奥さま:よく言ってくれるんです、「愛してるよ」とか、こちらが照れくさくなるようなことも。
山本さん:それはねえ。だって愛してるから。事実は事実としてちゃんとお伝えしておかないと。
奥さま:反応に困るときもあるんですけど(笑)、幸せなことだとは思います。
山本さん:家庭っていろいろあるけど、問題を解決しながら幸せを実感していかないと成り立たないと思うんですよ。たぶん、子どもが小さいうちに育てる喜びを感じられるのは今しかないし、夫婦が同じ方向を向いて暮らしていけるのは幸せなことだと思うんです。
幸せなら幸せだと言うべきことは言う、しなきゃいけないことはする。何より、家内の作るご飯が美味い。これは毎晩のように感謝を込めて伝えていることです。「美味しいよ」って。
そうやっていかないと、どっちかが病気になったりしたらしっちゃかめっちゃかになってしまうから。子どもももっと欲しいですしね。300人くらい欲しいので。
——300人はちょっとすごいですが(笑)、お話を聞いていて羨ましい気持ちになりました。今は子育てに介護と慌ただしい日々を送られているおふたりですが、この先どんなパートナー像を目指していますか?
山本さん:結婚してあっという間に子どもができたので、あまり夫婦水入らずの時間を過ごさずに来たんですよね。今は出かけるとしても家族一緒だし、行く場所もステーキ食べ放題とかばっかりだし、ロマンティックなところに行こうとしても子どもたちは興味がないし。
家族でディズニーランドなら喜ばれるだろうと思って連れて行ったら、着くなり「混んでるから帰りたい」とか「なぜ水族館や博物館に行かないのだ」と文句を垂れられたときはブチ切れそうになりました。あんまりだ。
だから成熟した男女のデートに憧れますね。あとは、旅行に行ったときに老夫婦が手をつないでいるのを見て、僕も家内の手をつなごうとしてみるんだけど。
奥さま:そういうときに限って、子どもが転んだりするんですよね(笑)。でも言葉にしても行動にしても、主人が隠さずに愛情表現をしてくれるのが嬉しいんです。
結婚当初、「君の外見じゃなくて内面が好きなんだよ」と言われたことがあって、その頃は私もまだ若かったので「外見は好きじゃないのか……」なんてがっかりしたこともあるんですけど。今となっては、これから先どんどん年をとっても、「私の中身を好いていてくれるんだな」と思えるのはありがたいです。
山本さん:出会った頃から、家内は私と違って穏やかで心がきれいな人だなと思っていました。今でこそ、イライラしている姿を見ることもありますけど、それも含めて家内なので。隠してもしょうがないので、これからも伝え続けていきますよ。
編集後記
「人はひとりで死ぬものと思い込んでいた私が、ようやくなんとなく辿り着いた穏やかな松明のようなもの」ーー結婚について、過去に山本さんはこんな言葉をブログに綴っています。
自身を“変わり者”だと定義し、ある種の諦観とともに荒涼とした人生を歩んできた山本さん。奥さまと出会ったことで、少しずつ“温度”みたいなものを取り戻していかれたのだなと、おふたりのやりとりを通して感じ取ることができました。
今の時代、人はひとりでも生きていけるでしょう。それでも、本当にぬくもりを通わせ合えるパートナーと出会うことができたなら、見たことのない自分の姿に巡り会うことができるのかもしれません。
Text/波多野友子
Photo/DRESS編集部
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