戻りたいか?問題

若い頃は、おばさんなんてって思っていたが、女性がきれいになるのは30代からだ。50代で素敵な女性もたくさんいる。若さに嫉妬することもなく、未練も感じることもない。

戻りたいか?問題

結婚が女の幸せかどうかをテーマに書くはずのエッセイを、もう何回も全く関係ないことで書いている。今回もそうだけど、なぜって結婚が女の幸せかどうかという問い自体が古いから。幸せなんて人それぞれに決まってんじゃん。とは言え

米倉さん、ご結婚おめでとうございます!! 末永くお幸せに!! 

で、今回は数年前に世界中の人が結婚式を見守ったあの人の話から。と言っても私は、中継を受ける日本のスタジオにいた大学教授のネクタイがあり得ない柄だったことが一番記憶に残っているのだけど。ほんとに、のど笛に毒蛇が食らいついているのかと思ったよ。

TIMEのウェブ版で、イギリスのキャサリン妃のファッション特集を配信していたので見てみたのだ。9年前の学生時代のファッションまで遡ることができるので、ご本人からしたら「やめてー」という感じだろう。明らかに昔は垢抜けないし、顔つきも違う。30代の今のほうがずっときれいだ。

ちなみに私が家族と暮らしているオーストラリアは英連邦でもあるので、女性ゴシップ誌の表紙はいつもケイト妃関連の記事でいっぱい。妹のピッパさんの泥酔スキャンダルとかもう、ほんとゲスい。どこの国の女性誌もロイヤルゴシップが好きなんだなあと、レジに並びながら思わず立ち読みする。

オーストラリアのおばさんたちがOur Princessと呼ぶのはデンマークのメアリー王太子妃。タスマニアで生まれ育った女性が、シドニーオリンピックのときにデンマークの王子に見初められて、今や3人のママ。タスマニアからヨーロッパ王室へって、環境激変すぎ!もちろんゴシップ誌でも大人気のメアリー妃。どことなくキャサリン妃と似ていなくもない。やっぱり玉の輿には美人しか乗れないのだという厳しい現実を突きつける二人のシンデレラ物語……。

で、キャサリン妃は今のほうがずっときれいだ問題だが、キャサリン妃があまりにも遠い存在だというなら、あなた自身に置き換えよう。いきなりだけど、タスマニアとデンマーク以上の飛躍でも、遠慮せずに置き換えてみて。

DRESSを読んでいるだけでなくこのWEB版までも目を通しているあなたは、きっとおしゃれが好きで向上心旺盛な中年女性のはず。中年と言われても怒ってはいけない。今の時代は30代から60代まで、人生の大半を中年期が占めるのだから、中年はむしろメジャーで若者がマイナーなのだ。少子化で人口も少ないしね。

そんなあなたに聞きたい。正直言って、20代の頃より今のほうが楽しくないか?戻りたいと思う?あの頃に。 

私は20代の頃の写真を見て肌の張りを懐しむことはあるけど、戻りたいとは思わない。しんどかったもん。屈折してめんどくさい女だった。太ももとか顔はぱつんぱつんだし、服も予算が限られている上に経験が少ないから似合っていない。ダサいくせに押し出しが強いのも痛々しい。過剰なのだ。肌つやもやる気も自信もコンプレックスも、持て余していた。

それらが足りなくなった今は、塩梅を見て足す工夫を知っている。20代の頃にはサンプルで貰ったラメールのクリームで吹き出物ができたのに、あるときそれが砂にしみ込む水のように浸透していい具合になったのを覚えている。あのとき私は、皮脂を失って、得たのだ。化粧品で贅沢する喜びってやつを。

服も今なら試着しなくてもダメなやつは分かる。高いけど着たおせる服っていうのも見当がつく。セールでも買ったらすぐに着なくなる服は買わない。その辺の知恵がつくまでに、相応の勉強代は支払っている。いろんな失敗をして恥をかいて、いまようやく自分なりの納得できるお金の使い方ができるようになった。

若い頃は、おばさんなんてって思っていた。でもあの頃は世間知らずだったから、成熟した女性をはかる審美眼がなかったのだ。いま周囲を見ると、女の人がきれいになるのは30代からだ。50代で素敵な女性もたくさんいる。長く生きた分、自分の見せ方を熟知しているのだ。

いろんな傷を受けて、それが癒えて、居心地のいい場所にたどり着いた人は顔つきが変わる。ちょうど40歳くらいから、そんな顔になってくる。
若さに嫉妬することもなく、未練を感じることもなく。そんな女性がたくさん増えれば、若さ至上主義の日本の女性観も変わると思うのだ。

小島 慶子

タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族と暮らすオーストラリアと仕事のある日本を往復する生活。小説『わたしの神様』が文庫化。3人の働く女たち。人気者も、デキる女も、幸せママも、女であることすら、目指せば全部しんどくなる...

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