「レイプキット」を知っていますか? 万一被害に遭ったら、そのままの姿で救急外来へ駆け込むべき理由
9月初旬、中国「京東グループ」のトップ、リチャード・リウ(LiuQiangdong)が、現地留学生への性的暴行容疑で、アメリカで逮捕されたことが報じられました。万一、性的暴行に遭ってしまった場合に、被害者がとれる行動をご存知ですか? 事件後のネットの反応と「レイプキット」について紹介します。
9月初旬、中国の「京東グループ」のトップ、リチャード・リウ(LiuQiangdong)が、現地留学生への性的暴行容疑で、アメリカで逮捕されたことが報じられました。
今、中国で急成長するEC業界のトップと言われるだけでなく、二度の結婚という私生活の華やかさからも、なにかと話題を作っていた人物であることから、中国でもさまざまな情報が出回っています。
■中国でセンセーショナルに報道された、著名CEOの性的暴行事件
9月15日時点で、この事件に関して被害者の身元や、事件の真相は報じられていません。「当日、二度目の通報でLiu氏が逮捕されたこと」「その日Liu氏は関係者20名と4名の女性で食事をしていて、16本の白酒とその他ビールも飲んでいたこと」などが伝えられています。
中国ではECでのショッピングが非常に人気です。人々が熱狂するセール期間は年に数回ありますが、「二大イベント」は業界トップのアリババが仕掛ける「11月11日シングルデー」、そして今回事件となった京東が仕掛ける「618」。
これまではアリババの11月の売上が群を抜いていましたが、今年は京東グループの創業祭である6月のセールもこれに迫る勢いを見せました。
このように順調に業績を伸ばす企業のトップの不祥事とあり、「ハニートラップだろう」といった憶測や、Liu氏を訴えた女性とされる人物の写真が出回り、素性が噂されるなど、ゴシップめいた情報が、中国のインターネット上だけでなく、日本の中国ウォッチャーの間でも流れました。
話題にされていた女性はワンホンと呼ばれるインフルエンサーであり、女優のようなプロポーションで、彼女のSNSアカウントにはさまざまな画像がアップされています。筆者のTwitterタイムラインにも回ってきた動画では、胸の大きさを強調するような服装で、こちらを真剣に見つめる様子がおさめられています(※)。
※撮影者が誰かは明かされていないため、容疑者のLiu氏に対しこのような態度であったかは不明です。
この動画には「このように誘われたのならLiu氏も誤解して性的な関係を築こうとするのも仕方ない」といったメッセージが隠れているようにも見えます。
実際、中国のSNS、Weiboでは彼の落ち度を軽減させる論調の報道に対し、「どうして社会は男性にだけ甘いのか?」と、がっかりする女性のコメントが多く見られました。
Twitterではこういった動画の回覧に対し、「このように被害者と見られる女性の写真を晒すのはセカンドレイプと言えるのではないか」といった冷静な意見も見られました。本来であればどのような服装を着用していたとしても、性的暴行をされてよい理由はどこにもないはずです。
■救急外来で手に入る「レイプキット」を知っていますか?
日本でも性的暴行への注目は高まり続けています。昨年から日本でも「#MeToo」活動が継続していますが、この活動が活発化したきっかけのひとつといえるのが、ジャーナリスト伊藤詩織氏の告発です。
イギリスの大手メディアBBCが6月、彼女に関するドキュメンタリーを公開したことで、世界的にも注目を集めることになりました。
伊藤氏はこの事件を語る中で、「レイプキット」へのアクセスの悪さについても触れています。
レイプキットとは、性的暴行の被害にあってしまった際に、証拠保全ができる検査道具一式のこと。被害者の体から加害者の体液を採取してDNA検査をしたり、血液・尿検査で薬物を飲まされていないか調べたりすることができます。
ただし、このキットは、被害にあった女性がまず駆け込むであろう「婦人科」や「警察」にはないといいます。実はこのキットがあるのは「救急外来」だけなのです(※)。
被害を受けた女性がこのキットの存在を知る頃には、時間が経っていたり、シャワーを浴びていたりするため、証拠の採取が難しくなってしまうそうです。
※一部では、警察署にレイプキットがあるとする情報もあります。
この検査のため、被害後はできれば被害に遭ったままの服装、トイレやシャワーの利用も控えて、救急外来に行くことが必要です。 被害に遭ったら一刻も早く服を着替えたい、体を洗いたい、という気持ちになることは容易に想像できます。
こういった心情に対し、特定非営利活動法人の「しあわせなみだ」のウェブサイトでは、着替える場合は着用していた服のすべてをビニール袋に入れて証拠として持参することを勧めています。また、警察に届け出た場合は、法律に基づき初診料、診断書料、性感染症等の検査費用等が公費負担となるそうです。
■必要な情報が、必要な人々に届くように
「レイプキット」とGoogleで検索してみても、いったいどんな形態の道具なのか、どういった使い方がされるものなのか、わかるような情報は出てきません。
一方、音声では、TBSラジオ「荒川強啓 デイ・キャッチ!」(2018年9月3日放送分)内の「ニュースクリップ:アメリカ」コーナーで解説されています(TBSラジオクラウドで過去放送を聞くことができます)。
性的暴行は根絶されるべき犯罪ですが、万一不幸にも被害者となってしまった場合に取るべき行為が、まったく公開されていないというのは、情報が不足しているとしか言いようがありません。
筆者の周りでも、本編のテーマについて話題にしたところ、レイプキットという単語すら初めて耳にするという人もいました。そして、日本語のWikipediaにもその単語は登録されていません。
中国では大きく注目を集める暴行事件が発生した直後でしたが、レイプキットについての情報は日本以上に見られませんでした。対照的に、英語版のWikipediaにはレイプキット(Rape kit)のページが存在し、そのキットに含まれる内容(爪にとどまった加害者の皮膚のかけらを採取するピンセットなど)も紹介されています。
日本での生活は、筆者もそうですが、必要な情報やものはいつでも手に入るような感覚で過ごすことができます。しかし、少し目線をずらしてみると、このように国により手に入る情報に格差が存在していることに気づきます。
また、その情報は今回取り上げたような、人生を左右するような重大なものである場合も、残念ながらあります。信頼できる情報を共有することで、こうした格差が埋められていくことを願い、筆者は今後も情報の発信、共有をしていきたいと考えています。
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85年生まれ茨城育ち。事実婚の夫、小学生の息子と東京で生活中。就職2年目の27歳で出産退職、子育て専業2年、再就職、フリーランスを経て、インバウンドメディアの編集部に。大学時代の1年間の北京留学経験を活かして、翻訳・執筆も。