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overEサイズのバストを美しく見せる服。「女性たちが胸を張って生きるお手伝いをしたい」

胸が大きい女性向けのアパレルブランド「overE(オーバーイー)」を展開する、株式会社エスティーム代表の和田真由子さん。女性の悩みに寄り添った服づくりは、胸の大きな女性たちが「装いを楽しむこと」を支えています。

overEサイズのバストを美しく見せる服。「女性たちが胸を張って生きるお手伝いをしたい」

女性の身体の中で、最も千差万別なパーツのひとつ、「バスト」。サイズが小さくて悩む女性の声が多数を占める裏で、大きな胸を持つことで大変な思いをする女性もいます。

通常サイズの服を着ると胸が強調される、ボタンが留まらない、マタニティ服を着ているように見える……。そんなさまざまな悩みに真正面から向き合い、「overE」サイズの女性が胸を張って生きるための服をつくり続ける人、和田真由子さん。

その原動力には、「女性が胸を張って生きていけるよう応援したい」という強い思いがありました。

■「発達障害」の診断を強みに変えて

――和田さんは就職2年目で起業を決断されたそうですね。

そうなんです。当時、アルバイトからそのまま就職した出版社に勤めていたんですが、2年目に入り「これからどうやって生きていこうかな」と考えてもいて。

そんな折に、ノリで応募した東京マラソンに当選して。そこでの経験が、起業への夢を後押しすることになったんです。

――東京マラソンで、気持ちにどんな変化が生まれたのですか?

私、もともと運動音痴で、マラソンなんて大嫌いだったんですよ。でも実際に参加してみたら、沿道の観客の方やボランティアスタッフさんたちがめちゃくちゃ声援を送ってくれて。

トータル5時間半、何度も途中棄権しようかと思いましたが、その度に皆さんに励まされました。

気づいたら一歩一歩踏み出すごとに、達成感とか自信が蓄えられていって。なんとか完走した頃には「この感謝をどこかで還元したい」「そうか、起業をするなら今だ」という気持ちが芽生えていました。

――いつかは起業したいという思いは、和田さんの中にずっとあった?

そうですね、学生時代に遡るんですけど……。大学1年生の頃から、授業にもサークルにもバイトにも、自分がうまく適応できないことで苦しんでいました。

検査を受けたところ、ADHD(発達障害)という結果が出て。ショックで自信をすべて失って引きこもり気味になって、深夜のブックオフでひたすら本を買い読みた日々を送るようになったんです。

――それはしんどかったですね……。

でも、あらゆる本を読んでいたら、ADHDという病気が必ずしもデメリットではないということに気づいたんです。起業家って実は、発達障害に近い特性を持つ人がすごく多くて。

アイデアがどんどん出てきて、思いつきで突っ走ったりするんです。彼らって、変人かもしれないけれど、夢に対してまっすぐ。

それに気づいたとき、私にも何か社会に対して夢を届ける仕事ができるんじゃないか、と勇気が湧いてきて。

■知識ゼロから飛び込んだアパレルの世界

――起業を志してからは、どこからアプローチしたのでしょうか。

まずは創業支援施設のセミナーに通って、自分に何ができるか模索しました。とにかく「起業したい」という思いはあったものの、何をベースに会社を作るかという明確なビジョンがなかったので……。

セミナーで「自分の持っている悩みは、他人にとっても悩み事かも知れない。それを解決することが、ビジネスへの第一歩になる」という話を聞き、そこで初めて「胸の大きい女性でも着られる服を作ろう」と決めました。

――確かに、「胸のサイズのせいで着られる服が限定されてしまう」という悩みを抱える女性は、実は少なくないんですよね。

そうなんですよ。そんなことを話すと「嫌味?」みたいに返されてしまうので、なかなか同性にも話しにくいんですけど……。

私自身、いざ出かけようと服を選んで鏡の前に立ったところ、胸のせいで服の形が崩れてしまうのを見てがっかりして。

何度も着替えた末に出かけるのを諦める、という経験を数え切れないほどしてきました。

どんなにダイエットをがんばっても、バストサイズに合わせると選べる服のサイズが大きくなってしまうのも本当に嫌だった。

そんなとき、下着メーカーがつくった「大きな胸を小さく見せるブラ」が大ヒットしているというニュースを見て、他にも胸のサイズに悩んでいる人がいるんだ、と知って。

――なるほど。当時、アパレルの知識はあったんですか?

まったくなかったんです! なので、まずはネットで縫製工場を探しました。そこで新潟の工場が話を聞いてくれることになって。出会ったパタンナーの女性たちが偶然胸のサイズに悩んでいて、とても親身になってくれたんです。

シャツのパターンを引いてもらうところから始まったのですが、バストのカーブ、トップの高さ、腕周りの太さ、襟の開き方にまで、とことんこだわってくれて。

何度もパターンを引き直してもらった結果、ようやく第一号が仕上がりました。

――素晴らしい工場と巡り会いましたね。そこからついに起業へ?

まずはクラウドファンディングで創業資金を募りました。額は少なかったのですが、目標額の倍近い額が集まりました。

同時に、ファッションメディアが取り上げてくれた記事がSNSで1万件近く拡散されたことで、たくさんの方に知ってもらえるようになりました。起業したのは東京マラソンからちょうど1年半後のことでした。

■胸の大きな女性が持つ心の痛みを取り払いたい

――和田さんの場合、まずは起業したいという思いがあって、そこからアパレルというジャンルが付いてきた、ということですよね。珍しいケースでは?

そうですね……。正直に言えば、最初は服をつくるという未来は思い描いてはいなかったんです。

ただ、私の中の揺るぎないキーワードとして「胸を張って生きていく」というものがあって。その足かせになるものがあれば、ビジネスを通して取り払っていきたかったんです。

着たい服がないこと、好きな下着がないこと、人目を気にしながら生きなければいけないこと。そういうことで、心の痛みを感じる瞬間が多くの女性の中にあることを知って。

それを理解したいし、その痛みを取り払いたいし、他にも同じように悩んでいる人がたくさんいることを発信したいと強く思いました。そのためのツールとして、服があったということですね。

OverEのブラウス(五分袖)

――overEの服を見ていると、和田さんのその思いがぎゅっと詰まっていることがよくわかります。

アイテムに関しては、かなり細かいところまで気を遣っています。例えば胸の大きい方って、肩幅も広いと思い込んでいる方が多いんです。でも実はそうじゃないんです。

胸が大きいと布地が引っ張られて、服の肩線が内側に入ってしまう。そのせいで肩幅が大きく見えてしまったり、キツく感じてしまっているだけ。それを解決するためにOverEでは、シャツの胸元に立体感を持たせ、つっぱらず本来の肩線で着られるようにしています。

OverEのボウタイブラウス

――そうだったんですね! 私もoverEサイズなのですが、肩幅が広いと親に言われ続けていました……。胸の大きな人が苦手とする、コンパクトカーディガンも展開されていますね。

そうなんです。胸の大きい女性にとって、カーディガンの前ボタンを留めて着るのって夢なんですよね。

胸のサイズに合わせると、どうしても大きめのサイズを選ばなくてはならないし、反対に胸以外に合わせると胸のボタンが閉まらない。

そんな悩みを解決したのがこのアイテムです。定期的に開催している女子会でお客さまから意見をいただいて販売したところ、あっという間に1000枚が売れました。

OverEで大人気のカーディガン。

■服を通して胸を張って生きる女性が増えたのが嬉しい

――お客様とコミュニケーションをとる機会は多いのですか?

多いです! 女子会での交流もそうですが、特にoverEのTwitterアカウントはすごく重要なコミュニケーションツールになっています。

通販サイトなので、どうしても現物を見て買えないじゃないですか。そこでお客様が実際に着用したイメージをイラストで書いてくださったり(3万5000リツイート)、身長と体重を公表したうえで着た姿を画像で載せてくださったり……。

また、最近パルコやマルイでポップアップショップも展開しているのですが、それもお客様がリクエストをくださったことで実現したんです。本当にoverEはお客様と一緒に育てていただいていると実感しています。

7月19日から開催中の池袋パルコでのポップアップショップ。

――とても喜ばれているのですね。

そうみたいです。胸に合うサイズの服が買えることが嬉しくて下着も新調したとか、一緒に靴も買ってみたとか、メイクを覚えたとか……。

それから、服が見つからなくて部屋にこもりがちだったけど、デートに行く自信が出たので行き先を探し始めたとか。

そんな声を聞くと、皆さんの中にあった足かせが取り払われて、胸を張って生きていくお手伝いができたように感じて、本当にやっていて良かったと思えます。

――和田さん自信にも変化はありましたか?

そうですね。私の会社名「エスティーム(Esteem)」って、「self esteem=自尊感情」からきているんですけど、overEを通してその部分が少しずつ培われてきたと感じています。

会社を立ち上げた頃って、人と会うたびに3日くらい寝込んでしまったり、取引先との電話にも出られなかったりしたんです。

でも、いざ事業を始めてみたら、想定内のことが起こるとか、準備万端で何かに臨めることってほとんどなくて。

とにかく目の前に迫ってくることを消化して、苦手だと思っていたことにもチャレンジせざるを得なくなったんです。

だから楽しいとはまた違って……、もちろん苦しいことの方が多いんですけど、それまで感じていた固定概念とか、狭いコミュニティの中で最適解を探さなくちゃともがいていた過去に比べたら、ずっと生きやすくなりました。

お客さまが服を通して自信を持たれたように、私もこの事業を通して、自分の生き方に少しずつ自信を持てるようになったのかな、と感じています。

Text・Photo/波多野友子
洋服写真は和田さん提供

和田真由子さん
胸が大きな女性に光を当てたアパレルブランド「overE」を運営する、株式会社エスティーム代表。東京都主催のビジネスコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY 2016」では、1000件の応募の中からセミファイナリストに選出される。7月19日〜31日まで池袋パルコで期間限定店舗を展開。
https://overe-shop.com/
https://twitter.com/for_overe

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