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PCOSの症状と治療法【知っておきたい、体外受精の基礎知識#7】

体外受精という不妊治療が一般的に知られるようになった昨今。不妊症に悩むカップルは6〜10組に1組と言われる今、体外受精を受けている方は珍しくありません。この体外受精という治療について、山中智哉医師が詳しく解説する連載、8回目では多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)について説明します。

PCOSの症状と治療法【知っておきたい、体外受精の基礎知識#7】

多嚢胞性卵巣症候群は、英語では「Polycystic ovary syndrome」と言い、略して「PCOS」と呼ばれます。

最近は外来でも、患者さんの方から「私、PCOSなんです」と言われることもあります。月経不順などで婦人科を受診されている女性にとっては、よく知られた疾患となってきているのかもしれません。以下、PCOSと表記します。

■PCOSの症状

PCOSは、疾患名に表されている通り、「卵巣に多数の小嚢胞がある状態」が最も特徴的な所見となります。超音波検査でその状態を見ることができます。

しかし、その状態だけでは多嚢胞性卵巣症候群とはいいません。「症候群」とは、いくつかの症状を伴っている状態を表します。

多嚢胞性卵巣症候群は、「卵巣に多数の小嚢胞がある状態」にあわせて、「月経不順や排卵障害がある状態」そして「ホルモン検査で、黄体化ホルモン(LH)>卵胞刺激ホルモン(FSH)というバランスになっているか、または男性ホルモンが高値」という3つの症状が揃った状態を指します。

多嚢胞性卵巣症候群の原因はまだわかっていないところもありますが、下垂体から放出される黄体化ホルモン(LH)の分泌が更新し、卵巣からのアンドロゲン(男性ホルモン)の分泌が増加することが、その一因であることは知られています。

男性ホルモンが増えることによって、体毛が増える症状を認めることもありますが、外国人と比較して、日本人では多毛所見は多くはありません。

■PCOSの治療は「妊娠の意思」によって変わる

PCOSによる排卵障害には、程度に差があります。

軽度の方であれば、排卵の時期は遅れる傾向はあるものの、どこかのタイミングで排卵し、次の月経も来ます。しかし、重度の場合には、半年間あるいはそれ以上、排卵が起きなかったり無月経の状態が続くこともあります。

PCOSの治療を考える際、前提として大切なことに、「治療を始める時点で、その方に妊娠の希望があるかどうか」ということがあります。

妊娠を希望していない場合

妊娠を希望していない場合には、無理に排卵を起こす必要はありません。ただし、長期に月経が起きない状態は、子宮内膜の疾患の原因にもなるため、定期的に月経を起こす必要があります。そのため多くの場合は、低用量ピルを内服し、1カ月に一度、月経が来る環境を保つようにします。

妊娠を希望している場合

一方、妊娠を希望している場合には、排卵障害の状態を改善する必要があります。

排卵障害に対して第一選択としてよく使用される薬は、クロミフェンという内服薬です。クロミフェンは、脳の視床下部という部分に作用して、「体にエストロゲンが足りていない」と錯覚をさせることによって、卵胞刺激ホルモンの分泌を促進させる働きがあります。

軽度から中等度の排卵障害であれば、クロミフェンだけで排卵を促すことができます。しかし、重症の排卵障害に対しては、その効果は不十分となります。

■HMG製剤を用いるとき

クロミフェンで十分な排卵誘発効果が得られなかった場合には、注射薬であるHMG製剤を使用することになります。HMG製剤は、直接卵巣に卵胞形成を促すように働きかけるため、クロミフェン以上の効果を得ることができます。

HMG製剤は効果が出すぎると、多数の卵胞が形成されるリスクがあるため、患者さん自身に毎日少量ずつ自己注射をしてもらうなど、その投与方法にも工夫が必要となります。

また、時にHMG製剤でも良好な排卵誘発効果が得られないことがあります。その場合、他の手段として、腹腔鏡下に電気メスで、卵巣の表面に浅い穴をあける多孔術という方法もあります。

いずれにしても、患者さんにとって効果的であることはもとより、より安全で、また身体的、経済的に負担が少ない治療から始めることが大切です。

次回は、不妊治療や体外受精にまつわるトピックスについてお話しします。

山中 智哉

医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本抗加齢医学会専門医 現在、東京都内のクリニックにて、体外受精を中心とした不妊治療を専門に診療を行なっています。 不妊治療は「ご夫婦の妊娠をサポートする」ことがその課題となりますが、...

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