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この国でなら産んでもいいかもって思えた

「昔から、結婚願望も子どもを持つ願望もなかった」と話す佐藤由美さん。結婚当初も子どもを望んでいませんでしたが、子育てしやすい要素にあふれたインドネシア暮らしが長くなるにつれ、「ここでなら、子どもを持つのはアリかもしれない」と考えるように。

この国でなら産んでもいいかもって思えた

子どもを持つ人生と、持たない人生。どちらの人生にも喜びがあれば、大変なこともあります。もちろん、どちらの人生が良いとか悪いとか、そういったこともありません。

どんなふうに生きようと明と暗の部分があり、それぞれの人生の幸せや辛さは、それを生きている人にしかわかり得ないもの。

だからこそ、自分とは違う人生を送る人の行き方やリアルを知ることで、それぞれの違いを理解し、知り、受け止めることができるのではないでしょうか。

今回お届けするのは、現在は子どもを持たない既婚女性に聞いた子どもの話。

■子どもを持ったら、もうやり直せない

「結婚はやり直しがきくけど、子どもを持つことは、そうはいかない。私にとって子どもを持つのは、とても大きな決断なんです」。

そう語る佐藤由美さん(28歳)はインドネシア・ジャカルタで働く夫(33歳)との結婚を機に2017年9月、現地へ移住。現在は夫婦ふたりでの暮らしを楽しんでいます。

佐藤さんの両親は3年前に離婚。今20歳の弟が義務教育を終えたタイミングで別れ、父は再婚し、母は弟と一緒に暮らしています。結婚していた当時の両親を見ていると、結婚に対して良いイメージを持てず、結婚も出産も「自分はどちらもせずに生きていくんだろうな」と考えていました。

「子どもを産んで、育てるのは本当に大変なこと。衣食住さえあれば育てられるという考えの人もいるかもしれませんが、私がもし子どもを持つとしたら、子どもが望むことはすべてチャレンジできる環境を与えてあげたい。それにはお金がかかりますし、子育ての過程で夫と不仲になってしまうのではないか、という不安はあります」

子どものときにしたかったことができなかった、精神的な苦痛を味わった――そういった幼い頃の記憶が佐藤さんには今も残っていて、子どもを持つこと=とても苦労すること、といったイメージが定着していたといいます。

「でも、この人となら、ここでなら、もちろん苦労もあるだろうけど、子どもを持つのもありかもしれない」。

そんなふうに佐藤さんの考えが広がり始めたのは、夫とジャカルタで暮らすようになって、しばらく経ったときのことでした。

■子ども、ありかもしれない

2017年4月。

当時勤めていた会社の社員旅行でインドネシア・バリ島へ行くことになった佐藤さん。

男性社員ばかりで女性は自分ひとり。現地で何をしようかと思いながら、何の気なしにインスタグラムを開くと、およそ6年前、飲み会で一度だけ会った男性(現在の夫)がバリ島の風景を投稿していました。

連絡をとってみると、ジャカルタの会社でシステムエンジニアとして働いていることが判明。佐藤さんが今度バリ島へ行くのだと伝えると、そのタイミングでジャカルタからバリ島へ来てくれることになりました。そこで6年ぶりに再会し、食事を共にしたことで急接近。その後の大型連休の予定もキャンセルし、佐藤さんは彼に会いにジャカルタへ飛びます。

「結婚願望も子どもを持つ願望もないと伝えた私に、彼は『僕は待つから、付き合ってほしい』と言ってくれました。ジャカルタで過ごした最終日、この人とずっと一緒にいたいと思い、彼もいつでも来てほしいと言ってくれたので、その年の夏に会社を辞めて移住しました」

子どもを望む夫と望まない佐藤さん。

子どもに対して消極的な佐藤さんの気持ちを配慮し、夫は「授かるのであればほしいけど、すぐに作りたいと思っているわけじゃない。まずは夫婦ふたりの時間を楽しもう」と話してくれたといいます。

「産まれてくる子どもに障害があることがわかったり、母子ともに危険な状態になってどちらかしか助からなかったり……など、出産では想定外の事態が起こり得ることも知っています。自然妊娠が難しくて、不妊治療に踏み切らないといけない場合もあると思います。でも、私はそこまでがんばることはできない、と夫に話しています」

障害を持つ子どもを産み、育てるのも、そうはしないのも、不妊治療をするのもしないのも、選択はすべて個人の自由。その考えが何かを機に変わることもあり、ずっと変わらないこともあります。

佐藤さん自身が、「子どもを持つのもありかもしれない」と考えが広がったのと同じように。

■今いる環境が与える影響の大きさ

「こっちでは日本とは違って会社の飲み会や付き合いもなし。勤めている人は夜7時になれば自宅に帰っていて、夫婦や家族との時間を過ごすのが多いようで、うちも例外ではありません。たとえ集まりがあるとしても、パートナーや家族を連れていって、夫婦・家族ぐるみで付き合うのが一般的。

そういう人たちをたくさん見てきて、なんだか楽しそうだなと思えたんです。夫婦別々の時間はあまりなく、ふたりで過ごす時間を積み重ねているし、とにかくたくさん会話をしているから、もし子どもが産まれても一緒に育てられるのかなって」

街中や公共交通機関で子どもを乗せたベビーカーを引いていても、嫌な顔をされるどころか、周りはニコニコして協力的に動いてくれるお国柄。

さらに月2万円くらいでお手伝いさんを雇えるなど、子育てしやすい土台が整っている国だと佐藤さんは話します。

「子どもを持つこと、子育てをすることにネガティブなイメージしか持てずにいましたが、今はこの環境だから、子どもを作るのも良いかもしれない、と考えるようになりました。周囲の人や環境が、考え方を変えたり、広げたりするきっかけになるのだと思います」
 
もし子どもを持つ日がきても、「お父さんとお母さん」の関係になるのではなく、カップルのようにお互いときめく関係でありたい、と佐藤さん。

「子どもを持つ、持たないにかかわらず、自分自身がひとりの女性であることを大切にしたいです。旦那さんにキュンとする気持ちを忘れたくないし、旦那さんにも素敵でいてほしいし、今みたいに周りから信頼され続ける人でいてほしい」

「もうひとつ、今は合っているふたりの価値観が、何かのタイミングでずれるときがくるかもしれません。そんなときは対面でじっくり話をして、ふたりの価値観を寄せていきたい。子どもを持っても持たなくても、家族として夢とロマンを持って、同じ方向に進んでいくのが理想です」

育った環境や親の教育方針、態度、ふるまい……そういったものから受ける影響は大きく、昔の佐藤さんのように「子どもを育てるのは大変。持たずに生きていく」と決めたくなることもあるでしょう。

でも、その後考えが変わるのは、少しも不思議なことではありません。

その結果、子どもを持つのも、「やっぱり持たないことにしよう」となるのも、一人ひとりが真剣に考えたことによるものなら、すべての決断は尊い――多くの人がそう思える社会が来ることを願います。

Text/池田園子

5月大特集「人それぞれな子どもの話」

https://p-dress.jp/articles/6759

5月特集は「人それぞれな子どもの話」。「子どもを持つ・持たない」について、現代にはさまざまな選択肢があります。子どもを持つ生き方も、持たない生き方も、それぞれに幸せなこと、大変なことがあり、どちらも尊重されるべきもの。なかなか知り得ない、自分とは異なる人生を送る人のリアルを知ってほしい。編集部一同そう願っています。

DRESS編集部

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