既婚者なのに好きな人ができた……男性の本音とは 2/3
■「係長ならいいです」
「時間の問題だよね」
彼女とセックスするのは、と私が彼に言ったとき、彼は
「それは……彼女に失礼だから」
とまず口にしました。既婚の上司に好意をもたれているなんて、バレたらきっと嫌われてしまう。そんな不安が彼にはありました。
でも、その頃すでに退社後ふたりで飲みに行くようになった話を聞いていた私は、
「本当に会社の上司としか見ていないなら、プライベートな時間はもたないよ。だって言い訳にならないじゃない。仕事の話なら会社でできるでしょ?」
と返しました。
独身の女性が、既婚の男性とふたりきりで夜を過ごすことをよしとするのは、よほど信頼関係があるか、下心があるかのどちらかです。
彼も彼女も、「上司と部下」という立場を利用して飲みに行く口実を作っていますが、プライベートな空間で一緒に過ごす時間が増えれば増えるほど、その建前が崩れる好意は互いに募っていきます。
彼女にとって、彼が本当に「頼れる上司」でしかないなら、退社後のプライベートを彼との時間に捧げるなんてことはしません。自立心が旺盛な女性ならなおさら、そんな危険な状況は避けるはずです。
「……」
彼は黙ったまま下を向いていましたが、結局「そのとき」は1カ月後に訪れました。
「『係長ならいいです』って言われたよ」
ぽつりとつぶやいて、彼は目をそらしました。
あぁ、やっぱり、と思いましたが、彼の次の言葉は予想を裏切るものでした。
「でも、無理だった。俺も好きだって言いたかったけど、ダメだった」
あまりにも無責任だろ、と肩を落とす彼の声は、聞いたことがないくらい沈んでいました。
■「自分の状況は彼女と関係ない」
「え、寝なかったの?」
驚いて尋ねると、
「うん。ふたりともだいぶ酔っ払っていて、そんな気はしたんだけど、いざ彼女から『係長ならいいです』って言われたら冷静になっちゃって」
「目が覚めた?」
「目が覚めたっていうか、ここでしちゃったら、俺ただの無責任じゃん」
「でも、彼女もあんたが結婚してるってわかってて」
「だからさ。だから、ダメ。確かにしたかったけど、俺の状況と彼女は関係ない」
「俺の状況」とは、セックスレスのことです。
口にしなくても、彼が彼女を抱きたがっているのはわかっていました。彼女の中にも自分への好意を確認したら、自然と「そんな状況」は訪れます。
特に、妻にセックスを拒否されてからだいぶ「ご無沙汰」だった彼にとって、それは望む瞬間ではなかったのか。
「後で絶対に後悔する。そう思ったから、何も言わなかった」
彼女への気持ちが高まって性欲が強く刺激されたとき、彼が自覚したのは紛れもない愛情でした。
セックスはしたいけど、既婚者の自分と結ばれても、彼女を傷つけるだけ。
自分も彼女も、後できっと後悔する。
そんなことは避けたい。
彼の、「後で絶対に後悔する」という言葉を聞いたとき、こんな声にならない気持ちを耳にしたような気がしました。
でも、これが彼の人間性のもっとも深い部分を表しているといえます。彼女のことは好きだし、妻とはレスで溜まってるし、彼女から誘ってくれてラッキー、とはならないのですね。
その場限りの欲に流されてしまわないのは、彼女への愛情が本物だから。つまり、遊びにはできないからです。
結婚している立場の自分と恋愛をしても、彼女は幸せにならないだろう。その事実から彼は逃げずに、彼女を守りました。