これからがシーズン本番! 週末に挑戦してみたい「バイクパッキング」って?
最近、日本でもちらほら耳にするようになってきた「バイクパッキング」。自転車にテントなどを詰め込んで、泊りがけで出かけるという遊びです。「アメリカの自転車都市」と呼ばれるここポートランドで、女性ばかりのバイクパッキング・チーム「木漏れ日」主催者のひとり、ジョセリンさんにお話を伺いました。
■バイクパックキングってなに?
Photo by Jocelyn Quarrell
バイクパッキングは、「自転車(バイク)」に、身の回りの品を「パッキング」して、好きなだけオフロードを走り、キャンプをしながら進むというアクティビティ。週末を利用した1泊から、食料などを補給しつつ進む1カ月以上のツーリングまで、各自の経験やライフスタイルに合わせて楽しむことができます。
オフロードを自転車で走るスポーツにマウンテンバイキングがありますが、バイクパッキングは、マウンテンバイキングのように起伏の激しい地形を駆け抜け、アドレナリンのガンガン出るスリルを味わうものではなく、自分のペースで自然を愛でながら走る「旅」の要素が強いもの。
また、徒歩で自然の中を進むバックパッキングに比べると、自転車だとより遠くまで出かけられることや、荷物を背中に担ぐ必要がないため体への負担が軽いことが魅力となります。
このようにバイクパッキングは、女性や初心者にもトライしやすいアクティビティですが、残念ながら実際はハードなイメージが先行して、楽しんでいるのは未だ男性ばかりなんだとか。
■バイクパッキング・チーム「木漏れ日」
「木漏れ日」は、2015年に6人の女性が始めたポートランドのバイク・パッキング・チーム。通常のバイクチームのようにレースを目的とした集まりではないので、経験や年齢は不問。やる気があって、学んだことをみんなとシェアできる女性であれば、誰でも歓迎しています。
実際このグループを興したメンバーも、当初はみんなバイクパッキングの初心者。ネットで情報を集めて、見よう見まねでバイク・パッキングを始めたのだとか。
Photo by Jude Gerace
女性限定にこだわったのは、男性中心のバイクパッキングという遊びが、怖いものではなく、女性も楽しめるということを世に広めるため。
また、道中を競い合うように走るより、女性同士ならではのおしゃべりを楽しんだり、例えば、生理のときはどうする? など、男性には聞きづらい素朴な疑問も口にできる環境が必要だと考えたからです。
「木漏れ日」では、誘い合ってツアーに出かけるのはもちろん、バイク・パッキングに関するレクチャーも提供しています。これまでに30名ほどの女性が、「木漏れ日」で初めてのバイクパッキングに挑戦しました。
「Komorebi」と命名されたメンバー愛用の自転車モデル
Photo by Jocelyn Quarrell
チーム名が日本語の「木漏れ日」なのは、「英語に翻訳できない、その言葉だけで、陶酔してしまうような自然の美しさを表現できる単語だ」という理由。
同名のバイクパッキング用自転車モデルも、ポートランドのハンドメイド自転車ブランド「ブレッドウィナー・サイクルズ (Breadwinner Cycles)」と共に製作しました。この目を引く自転車は、チーム「木漏れ日」の認知拡大に一役買っています。
■ジョセリンさんの旅
インタビューに応じてくれたジョセリンさん
テキサス出身のジョセリンさんは、子どもの頃から自転車が大好き。10代になると同級生は「自転車なんてクールじゃない」と自転車から離れたそうですが、彼女は気にせず、大学までずっと自転車を足にしていました。ところが、交通量が多く、自転車用道路もないボストンに引っ越してからは、街中で自転車に乗ることは諦めざるを得ませんでした。
その後、「やっぱり自転車のある生活がしたい」と思った彼女は、2009年に「アメリカの自転車都市」と呼ばれるポートランドへ引っ越してきました。現在は、自転車用小物を扱うショップに勤めながら、ゴルフ好きの旦那さんと暮らしています。
Photo by Gritchelle Fallesgon
そんな彼女の楽しみは、天気の良い週末に女友達とバイクパッキングに出かけること。金曜の夕方、仕事の後に仲間と落ち合って街の外へ出発。自然の中をおしゃべりしながら自転車で走り、夜はキャンプ。心身ともにリフレッシュして、月曜またオフィスに戻ることができます。
もちろんひとりで出かけることもありますが、ひとりだと物思いに耽る時間が長く、またハードな道を選びがちで、精神的にも肉体的にも自分を追い込んでしまうんだとか。
怖い経験はなかった? と聞くと、山の中を自転車で走っていると、男性のトラックドライバーが車を止めて「銃を持っているか?」と話しかけてきたことがあるとのこと。
ジョセリンさんが、「女ひとりだから、この人、何が目的? って警戒して。銃なんてもちろん持っていなかったけど、持ってる、と答えた」ところ、彼は、「じゃあ、安心か。さっき、そこらで熊とピューマが出たって聞いたから」と去っていきました。
取り残されたジョセリンさんは、「もう、どうしようもないから、熊とかが来ないように、ビヨンセを大音量でかけながら、走った」そうです。
このような話を聞くと、女性だけで山に入るのは危険ではないかと思ってしまいます。
「もちろん十分な下調べや準備は大切だけど、その角を曲がったら蛇がいるんじゃないか、怪しい輩がいるんじゃないか、なんて理由もなく「もし」を考え出したら、無駄に怖くなるだけ。たいていの場合、そんなことは起こらない。実際の事故は、街で起こる方がずっと多い。自然は街よりもずっと安全だってことも覚えておかないとね」とジョセリンさん。
そんなジョセリンさんが最も感動した体験は、モンタナ州のオフロードを仲間と走っていたときに、父親と自転車に乗ったふたりの女の子に出会ったこと。
話し始めると「思い出すだけで鳥肌が立つ」と粟立った腕を見せてくれたほど、「こんな小さな少女たちが、山道を自転車で走ってる! やっぱり女子も、もっともっとオフロードを自転車で出かけるようになる!」と感動したそうです。
そしてこの体験がきっかけで、自己認識が女性だというみんなの自転車での旅を応援するイベント「WTF Bikexplorers Summit」を開催することになりました。記念すべき第1回は、今年の8月です!
■バイクパッキングにチャレンジしたい方へ
バイクパッキングの難関のひとつは、実はパッキング。荷物を入れるスペースが限られているのはもちろん、軽ければ軽いほど快適なので、必要最低限の荷物を選ぶのが重要です。
「初めてなら、荷物をパッキングしたら、必ず一度、近所を自転車で走ってほしい」とジョセリンさん。バランスが良くない、足にぶつかる、といった支障が出たら、実際に出かける前に再パッキングできるからです。
そして、すぐに長旅に出るのではなく、同じ一泊でも「オフロードばかり走る」とか「持参する荷物をすべて使う」といった小さなゴールを毎回自分で作って挑戦するという具合に、無理せず経験を積んでいくことが大切なのだとか。
特にミニマムなパッキングは、普段いかにモノに取り囲まれているか、自分はどれくらいシンプルに生きられるかを見つめ直す機会にもなるそうですよ。
Photo by Jocelyn Quarrell
街での慌ただしい日常生活から離れ、ほんの少しの荷物を持って、木漏れ日の中を自転車で走り、星の元で眠る……そんな休みがあれば、生活の質がぐっと上がりそうです。
気候の良くなるこれからの時期。日本の女性陣も、チャレンジしてみてはいかがですか?