女性の海外ひとり旅におすすめな「さりげない武器」【さくら剛】
女性が海外をひとり旅したり、治安が良いとはいえない地域を旅したりすると……危険な目に遭うこともあります。そこまでいかずとも、不安な思いをした経験がある方はいるのでは。身の安全を守り、安心して旅するために、簡単に取れる対策はあるのでしょうか。数々の旅行記著作を持つ作家のさくら剛さんに、おすすめの「武器」を伺いました。
『インドなんて二度と行くかボケ!!』『アフリカなんて二度と行くかボケ!』『中国なんて二度と行くかボケ!』などの旅行記著作がある、作家のさくら剛と申します。
上記著作タイトルからも、私がどれだけ海外の国々を愛しているか、おわかりいただけると思いますが、アジアやアフリカなど、特に発展途上国を旅する際、注意しなければならないのが現地の治安です。
日本人はまだまだお金持ちだと思われているため、泥棒や強盗に狙われることが多いですし、女性旅行者となると性犯罪……犯罪までいかずとも、現地男性から望まぬナンパをされたり、しつこくつきまとわれたりすることもあるでしょう。時には身の危険を感じることもあるはずです。
そこで今回は、私がひとり旅において治安の悪い地域でとっていた、犯罪予防の作戦をご紹介したいと思います。
■旅行者が持っていても違和感のないものを「武器」にする
治安があまり良くない町……とはいえアジア・アフリカ・中南米ではほとんどの地域がそれにあたりますが、とりわけ夕方以降や、昼間でも人気の無い路地などを歩くとき、私がとっていた作戦はズバリ「武器を手に持って歩く。しかもすぐに使える体勢で」作戦です。
旅行者の中には、強盗対策として防犯用ブザーや催涙スプレー、折りたたみナイフやスタンガンなど、ものものしい防犯用品(武器)を携行している人もいます。
しかし、一般的にそれらの道具がどこに収納されているかというと、バッグの中や、ポケットの中なんです。
防犯用具や武器をバッグやポケットに隠していると、残念ながら結局のところ全然役に立たないのです。なにしろ海外の強盗さんは強盗のプロですから、いざそのときになれば、あっ! と思ったら銃やナイフを突きつけられて、うっ! とビビっているうちにお金を取られ、えっ! と固まっているうちにすっかり強盗は姿を消してしまいます。
つまり、実際に海外で強盗に襲われるときには、とてもポケットの催涙スプレーなど出している余裕はないということ。
そこで、私は治安の悪い地域を歩くときには、四六時中「直接手に武器を握りながら歩く」という作戦をとり続けていました。武器はバッグの中でもない、ポケットでもない、外で、直握りです。
ただ、問題は「どんな武器を握ればよいのか?」ですが、そのチョイスにはちょっとしたコツがあります。
たしかに、どうせ持つなら強力な武器であるほど良いように感じられますが、かといって、町を歩く時に抜き身の日本刀や有刺鉄線バットをぶら下げて歩くわけにはいきません。
そんなものを持ち歩いていたら、強盗より先にこちらが警察に逮捕されるでしょう。それは折りたたみナイフやスタンガン程度でも同じです。逮捕ならまだしも、海外だと警告の言葉も理解できずに射殺される……なんて悲劇も起こりかねません。
そこで大事なのは、武器の選択時に「外国人旅行者が手に持って歩いていてもおかしくなく、しかも振るえば武器になるもの」を選ぶということです。
たとえば、インド旅行中に私が持っていたのは、「クリケットのバット」です。
クリケットのバット
こちらがその現物です(インド・デリーの安宿にて)。
日本ではマイナースポーツであるクリケットも、インドでは国民的な人気を誇る競技です。よってクリケットのバットは、商店街のスポーツ用品店やよろず屋や、時には土産物屋でも手に入ります。
このバットを、私は常に手の平にしっかと握りしめ、人通りのない道を歩く時などは20〜30mごとにその場に立ち止まって全力の素振りをし、四方八方に睨みをきかせて再び歩き出す、という鬼気迫る振る舞いを見せていました。
もしどこかに隠れて獲物の品定めをしている強盗がいたとしても、私の奇怪な行動を目にすれば、「あいつはちょっと近付くと危ない気がするから、やめておこう」と、襲撃のターゲットから外されたに違いありません。
このようなスポーツ用品(しかも国民的人気の)ならば、旅行者が持ち歩いていてもさほど違和感はないですし、本物の強盗はともかく、痴漢程度なら撃退できるのではないかと思います。なにより、犯罪被害に遭う前に「あいつはやめておこう」と泥棒側に思わせられるという、犯罪抑止の効果が高いと考えられます。
ちなみに、この作戦は犯罪抑止だけでなく、「現地の子どもが寄ってくる」という、意外なメリットももたらしてくれます。
インドでクリケットは特に子どもに大人気。
バットを持って町を放浪していると、ふと気がつけばこのように見知らぬ子どもが「バットおくれよ~僕におくれよ~」と言いながらくっついているということもあります(インド・ジャイプルにて)。
子どもがくっついていれば、強盗も襲いづらくなるので防犯効果も上がりますし、子どもにくっつかれながら一緒に写真を撮れば、「海外で現地の子どもに懐かれている私」という、とてもインスタ映えする1枚をゲットできます。
なにしろ子どもに懐かれるというのは、人として魅力を備えているという証ですからね。旅行者の世界でも、男女問わず「現地の子どもに好かれる旅行者」というのは勝ち組です。旅人ヒエラルキーの頂点です。まあ、それを自分でアピールし出したらすべて台なしなんですけどね。
こちらもバットに引き寄せられてやって来た子ども(インド・バラナシにて)。
子どもだけでなく、いつしか大人も寄ってきました(インド・バラナシにて)。
上の写真でも、武器としてバットを持っているのに、外見的に物々しい雰囲気はまったく出ていないことがわかると思います。
この作戦は他の国でも有効であり、ポイントはともかく「旅行者が持ち歩いていても不自然ではない武器」を探すことです。
山岳地方ではあちこちで売られている登山用の杖を持ち歩けばいいですし、アフリカではたとえば「マサイ族が戦うときに使う棍棒」がお土産として店先に並んでいたりします。棍棒は紛れもない凶器ですが、それを土産物屋で購入し、値札でもつけたまま持っていればそれはあくまでお土産なのです。
どの地域であれ、「現地で売っている武器になりそうなお土産」、それを探すことが重要です。
これはなんだかわからないけど土産物屋で売られていた、なんだかわからないメッセージが書かれた小さいバット(メキシコ・メリダにて)。
このように、いつどこから敵が出てきても、すぐに殴れる状態で構えながら歩きます。
ただし、ひとつ大事なのは、これらの武器は主に強盗・犯罪への「抑止力」の目的で持っていたものであり、本当に強盗と戦うために持ち歩いていたわけではありません。
強盗のみなさんは強盗を生業としているだけあって、ハングリーで戦闘経験も豊富です。もしこれでも強盗に出くわし、金銭を要求されるようなことがあったら、そのときは抵抗せずおとなしくお金を差し出しましょう。
あくまでこの武器は、「あいつを狙うのはやめておこう」と思わせるための武器です。下手に戦おうとして撃たれでもしたら、旅行どころか人生が終わってしまいます。その点はくれぐれもご注意ください。本当に武器で人を叩いてはいけません。
ということで、以上が私・さくら剛流、旅行中の治安対策でしたが、参考になる部分はありましたでしょうか?
……なかったらすみません(号泣)。
おまけ
アフリカ大陸を旅するときには、犯罪以外にも野生動物に襲われることを懸念して、日本から猛獣対策として「またたびの枝」を持って行きました(南アフリカ共和国・ケープタウンの安宿にて)。
「ネコにまたたび」という諺が示す通り、ネコがまたたびに弱いのならば、同じネコ科であるライオンやチーターもやはりまたたびには弱いはずです。
もしアフリカの旅の道中ライオンやチーターに出会ったら、このまたたびを投げつけて、相手がゴロゴロと弱っているうちに逃げようと考えていました。
……もちろん、アフリカとはいえ、旅をするところは普通の町ですから、道中でライオンとなど遭うわけがなく、本来の目的で使用することはなかったのですが、代わりに余ったまたたびをそのへんのネコに与えてやるとゴロゴロしてなかなか楽しいです。
「ネコにまたたび」は、世界共通の諺だったのですね。
またたびの枝の虜になるネコ(タンザニア・ザンジバル島にて)。
またたびの枝の虜になるネコ(中国・麗江の宿にて)。
Text/Photo=さくら剛
1976年静岡県浜松市生まれの作家。
デビュー作の『インドなんて二度と行くか! ボケ!!…でもまた行きたいかも』がベストセラーに。
以降、『中国なんて二度と行くか! ボケ!!……でもまた行きたいかも。』『三国志男』『俺は絶対探偵に向いてない』など著作多数。
科学の世界をバカバカしく解説した『感じる科学』は理研創立100周年を記念した「科学道100冊」に選ばれる。
最新の中国・北朝鮮旅行記はPodcast「さくら通信」で配信中。
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