まだ珍しい女性バス運転手。キャリアの選択肢としておすすめの理由
バスに乗ったとき、運転手さんが女性だった――それはまだ珍しいかもしれません。日本では女性バス運転手は少ないためです。一方、女性バス運転手はこれからの女性たちの新たな選択肢になる、と一般社団法人女性バス運転手協会代表理事・中嶋美恵さんは話します。
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バスに乗ったとき、運転手さんが女性だったことはありますか? 日本ではまだまだ少ない女性バス運転手ですが、実は新しい女性活躍の未来が大きく広がっている職業。
今回は新たなキャリアの選択肢として女性バス運転手にスポットを当て、2回に渡ってお届けします。前編は、一般社団法人女性バス運転手協会代表理事・中嶋美恵さんにお話を伺いました。
女性バス運転手は、100人にひとり?
そもそも女性バス運転手という言葉自体があまり耳馴染みがありませんが、それもそのはず。日本のバス運転手の女性比率は1.5%(2014年度)です。100人に1〜2人、となると、なかなか出会わないわけです。
しかし、一般社団法人女性バス運転手協会代表理事・中嶋美恵さんによると、女性バス運転手は、今の時代、明るい未来が描ける理想の職業だといいます。
「確かに、女性バス運転手に出会う機会ってすごく少ないですよね。バスガイドさんはよく知っていても、女性バス運転手というと『え?』となる。私もこの仕事に携わるまでは意識したことはありませんでしたが、知れば知るほど、女性だからこそ大いに活躍できる世界なんです」
バス運転手と聞くと、大型の観光バスや市街地を走る路線バスをイメージする人が多いのでは。しかし実際は、老人介護施設の送迎バスや、保育園・幼稚園の送迎バス、スポーツクラブやホテルでの送迎バスなど、意外に身近なところで走っています。
「私がお会いしてきた女性バス運転手さんは、皆さん本当に運転が上手です。特に女性は気遣いや細やかな配慮に長けている部分があるので、女性ならではの『いかにお客様に安心して乗っていただけるか』という視点がとても喜ばれるんですね」
一般社団法人女性バス運転手協会代表理事・中嶋美恵さん
女性バス運転手だから、安心してもらえることも
運転の好き嫌いは個人それぞれにありますが、運転技術という視点で考えると、そこに性差はほとんどありません。それよりも、性格のほうがより分かりやすく運転に現れるそうです。
「たとえば路線バスで、歩道に1cmでも近く寄せて停めることで、ご高齢の方や妊婦さんが乗り降りしやすいようにするとか、ブレーキもなるべく静かに、そっと停めるとか、乗車しているお客様にはもちろんのこと、歩行者の方や他の車にも安心してもらえるような細かい努力を毎日重ねています」
ある女性バス運転手は、これは女性だからということではないですが、車椅子のお客様が利用されるときには必ず、自分が座席から降りて車椅子用のステップを設置し、自ら手押ししてお客様の乗降のお手伝いをするのだとか。「できる限りそのお客様に寄り添って、気持ちよく利用していただきたい、その一心なんですよね」と中嶋さんは微笑みながら、エピソードを語ってくれました。
「特に、保育園や幼稚園の送迎バスでは、女性バス運転手は多くのママに喜ばれています。同じ女性同士だし、細かな配慮をしてくれるやさしい女性バス運転手になら、安心して我が子を預けられる、って。確かに、女性バス運転手だからこそ安心してもらえるシーンはたくさんあると思います」
多くの問題を女性バス運転手が解決できる
「2020年の東京オリンピックに向けて、4000万人の訪日外国人を迎える施策が国を挙げて動いていますが、その移動を支えるバス運転手はこれから2000人必要と言われています。しかし、それだけの需要があるにも関わらず、若い世代の運転手への就職希望はほとんどありません」
若年層の車離れ、運転免許取得人口の減少、そこに業界の構造的な高齢化も相まって、バス業界は深刻な人手不足に悩んでいるといいます。
「でも、子育てが一段落したママとか、ある程度子どもが大きくなって時間が持てるようになった世代の女性は、普通に運転免許を持っている方も多い。となると、興味を持っていない、免許もまだ取っていない若い世代よりも、今すでに免許を持っている女性に就業してもらうほうが、業界としても現実的な解決策なんです」
運転技術で男性のほうが優れているかといえば、それは偏った見方です。街中には多くの車が走っていますが、単純にその半分は女性です。また、バス自体も進化しており、オートマチック車が増えてきていることや安全性能の向上で、運転手と性差は関係なくなっている現状があります。
シングルマザーの力になれる
「私は伊藤園、リクルート、楽天という大きな3つの会社でキャリアを積んできて、プライベートではシングルマザーでもあります。日本のシングルマザーを取り巻く状況はとても厳しく、平均年収が男性の半分ほどという現実があります」
厚生労働省が2017年12月に発表した「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」によると、平成27年度の母子家庭における母自身の平均年間就労収入は200万円で、月に換算すると20万円を切っている状況です。
「女手ひとつで子どもを育てることは、本当に大変なことです。男性と同じく稼ぐ必要があるのに、女性ゆえのさまざまな条件で、なかなかそれが適わないでいる。子どもが小さいから短い勤務しかできないとか、泊まりが発生する仕事は無理とか、選べる職業の幅が極端に狭いんですよね。
でも、女性バス運転手は、男性と同じように働くことで、男性と同じように収入を得ることができます。大型の観光バスではなく、路線バスや送迎バスの運転手としてならすぐにでも(もちろん所定の研修や訓練を踏まえて)男性と同じ収入で活躍することだって可能なのです。業界としても、積極的に女性バス運転手を採用したいというバス会社は年々増えてきています」
さらに中嶋さんは「社会への貢献という点も魅力のひとつ」と話します。
「バスは公的な社会インフラです。地方や山間部など、バスがなければ生活が成り立たない方はたくさんいます。自動運転ももちろん進化していくとは思いますが、それでも人間の運転手でなければならない路線、サービスはまだまだこの先数十年は続くし、女性バス運転手だからこその『ありがとう』をたくさんの方からいただけることは、ずっと変わらないのです」
初の「女性バス運転手の会」を開催
今月28日には、初めての試みとして「女性バス運転手の会」が開催されます。魅力的な職業とはいえ、女性バス運転手同士の横のつながりはこれから築いていく段階。でも、その分、現役女性バス運転手たちは仲間同士の絆でつながっており、SNSを通じて同じ悩みや問題の解決を考えています。
「私も一度、運転手体験で大型の路線バスを運転したのですが、すごく楽しくて。大きなハンドルをこうやって回して、自分の後ろに12mもの車体がついてきてるかと思うとすごい快感で、本当に貴重な経験をさせてもらいました」
とのこと。なるほど、確かにそれは楽しそう。