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助手席の思い出から想像する、わたしたちのこれから

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4月からの新生活に向けて、クルマの購入を考えている方もいるのでは。でも、今までクルマを持っていなかったから、クルマのある暮らしがイメージしづらい……。そんな方に向けて、クルマ連載を持つ樽見祐佳さんに、クルマを身近に感じられるコラムを書いていただきました。

助手席の思い出から想像する、わたしたちのこれから

「なぁんだ。今日は雨か……」

雨は嫌い。だって、せっかく綺麗に巻いた毛先も、たとえ晴れの日だって夜までにはくたっとなってしまう。そのストレートヘアが私のチャームポイントでもあり、コンプレックスでもある。

だから今日のような雨空では、誰にもその形を認めてもらえぬまま、念入りに振ったヘアスプレーが仇となってきしんだ毛先になってしまうことも少なくない。

テレビの向こう側で、今日も綺麗に身支度したお天気お姉さんが、1日中雨だということを伝えていた――。

でも今日は特別。再会したその一瞬でも「綺麗だ」って思ってほしい。苦手意識のあるヘアアレンジに悪戦苦闘していた。

■雨が嫌いな私のために、彼はクルマで来てくれた

「彼は今、どのあたりまで来てるかな」

私の雨嫌いを見越して、今日彼はクルマで迎えに来てくれることになった。
時計の針が少しずつ、約束の時間へと一定の速度で進んでいる。それがいつもより遅く感じるのは私の気のせい?


約束の15分前。律儀な彼は渋滞を見越してだいぶ早く出てくれたのだろう、タイヤが雨を踏んだじわっという音が家の前で止まった。

今日はどんな1日を過ごせるかな。ワクワクしながら玄関を開ける。

がんばって巻いた髪型も慣れないヒールも、綺麗に整えた私をドアtoドアで優しく運んでくれるクルマは大好き。しかも、私たちふたりだけの空間で。

なんて、当たり前のことだが、それをこんな日だからこそ改めてありがたいと思った。


駆け足でクルマの中に乗り込むと、じとっとした外の空気とは違い、カラッとした芳香剤のいい匂い、そして幸せな空気が車を満たしていた。

好きな音楽と、コトコトと窓を濡らす雨の音。この助手席からの景色には、思い出がたくさんある。




たとえば、いつかの新緑の季節。高速道路が混む前を見計らい、朝6時半に待ち合わせ。箱根へ出発。家の前へ迎えに来てくれた彼は、少し眠そうな顔をしていて寝癖がついていた。いつも完璧主義な彼がこのときばかりは可愛くて。

箱根神社に向かう人でにぎわう道は、安全のためにも、芦ノ湖の景色を味わえるスピードでゆっくりドライブできる。お気に入りの歌を紹介し合って、ところどころ覚えきれていない歌詞は鼻歌でごまかして。

15時、立派な門構えの旅館へ車を横付け。女将さんが快く出迎えてくれた。楽しく過ごし、チェックアウトした後も旅行気分が私の家の玄関まで続いたのは、通勤で毎日使っている最寄駅を通らなかったからかな。

たとえば、いつかの木枯らしに吹かれてからしばらく経って寒さにも慣れてきた頃。銀座中央通りでは、ハイブランドのお店がいつにも増して輝いていて、歩く恋人たちを照らす。彼らを左脇に通り過ぎて、私たちもまた恋人なんだなと温かな車内で幸せを噛み締めた――。

■いつか家族ができたら、大きなクルマに乗りたい

彼と一緒にそんな季節を繰り返し、いつかは結婚や出産をすることもあるかもしれない。もし、そんな機会に恵まれたら、ベビーカーや荷物をドサッと積める、カジュアルなクルマがほしい。私も運転の練習をしなきゃな。夏には家族みんなでお揃いのTシャツを着て、大きなひまわり畑や綺麗な川、海、毎週末どこか遠くへ遊びに行って、家族の思い出を作り続けたい。

……なーんて。今はまだ遊びに行く道中。雨が降っている日の車内なんだけど。彼といると、ついつい、想像を巡らせてしまう。

湿った外気が入らない密閉された空間だからか、毛先はクルンと上向きに形を保ったまま。彼は綺麗だと思ってくれただろうか。

明日は月曜日。だけど、「終電以降の時間に帰る」というクルマの特権を今日も行使してしまいそう。

Text/樽見祐佳
Illust/諸戸佑美

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DRESS編集部

人生を自分らしく楽しむ大人の女性たちに、多様な生き方や選択肢を提案します。

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