岡田将生「人と人とのバランスを楽しみながら、自分を知っていく」――自分らしさのヒント

岡田将生「人と人とのバランスを楽しみながら、自分を知っていく」――自分らしさのヒント

岡田将生の美しい横顔は、もはや凶器だ。映画『伊藤くん A to E』で彼は、イケメンだけど超痛い男の役を演じている。最低なキャラクターなのに嫌いになれないのは、きっと、その言動がどこか人間らしいから。何にも縛られず自分らしく生きることに、私たちは憧れてしまう。岡田将生に、そんな“自分らしさ”について聞いてみた。


きゅっと口角の上がった笑顔がまぶしい。
「でも笑顔はあんまり好きじゃないんです。って言っても、超笑ってますよね。いまも笑ってる」と、照れくさそうに微笑む。
思わずまじまじと見つめてしまうほど端正な顔立ちなのに、やわらかい表情と言葉が、ぐっと彼を近くに感じさせた。

誰もが傷つきたくないけれど、誰かを傷つけている

そんな岡田将生が、うるわしいルックスをフル活用して挑んだのが、映画『伊藤くん A to E』の「伊藤くん」役だ。1月12日に全国165スクリーンで封切られた今作は「登場人物、全員無様!」というキャッチコピーが、胸をざわざわさせる。

かつての売れっ子脚本家・矢崎莉桜(木村文乃)は、伊藤というどうしようもない男について悩む、A~Dの4人の女性からの恋愛相談をヒアリング。新作脚本のネタにしようと話を聞き続けるうち、偶然にも「女たちが語る伊藤は同一人物?」と気づく。しかも伊藤は、莉桜が主宰するシナリオスクールの生徒だった。やがて莉桜は、みずからも「5番目の女=E」として伊藤に翻弄されていく。

自己中で無神経な「伊藤」の言動。
しかし、伊藤として過ごす時間が増えるにつれ、演じる岡田には不思議な感情が芽生えはじめる。

「言動自体はクズなんだけど、伊藤は自分の意志で純粋に生きている、と思えるようになってきたんです。伊藤としての人生をまっとうしている、というか。

傷つきたくないって誰もが思っているし、そのために自分の世界で生きるのは悪いことじゃない。
それによって相手を傷つけているかもしれないけれど、誰も傷つけないように生きていくのは不可能だ、とも思うんです。
伊藤を演じるうちに『こういう生き方もいいなぁ』とか『こんな生き方ができたら、違う世界が待っているんだろうな』と考えたりするようになりました。

だから、いまでは伊藤のなにが“痛男”なんだろうって、わからなくなってきています(笑)。
もちろん、近くにいたら関わりたくないし、近寄りたくはない。でも、2017年の夏をとおして、一番好きになったキャラクターであることは間違いないですね」

“自分らしく生きること”はきっと、人と違う道を選んだり、ひとりになるのをいとわないことでもある。岡田が言うように、誰かとぶつかってしまうときもあるだろう。

思っていることを口に出せる伊藤が、まぶしい

物語のなかで、伊藤は自分の生き方をつらぬくために、容赦なく人を傷つける。
なかでも印象深いのはクライマックス。木村文乃演じる莉桜と、お互いの意見を叩きつけあうシーンだ。

「莉桜は莉桜で、伊藤の言葉にへこんだり傷ついたりしていて、自分自身と戦っているような感じ。
でも『伊藤は伊藤で、莉桜に言っているようで自分自身にも言っている。自分を肯定するために、自分の身体を使って言っているんだ』と、監督に言われたんです。
だから、莉桜と会話をしているのに、自分と会話をしているような感じでもあって……すごく不思議な感情でした。

このシーンからラストに向かって、莉桜は前に進んでいきます。
でも、伊藤はやっぱり“自分は自分”。
普通は物語のなかで主人公が変化したり、成長していくのがセオリーなのに、彼は最後までまったく変わらないんです」

映画のなかの伊藤はある意味、本当に清々しい。
そんな伊藤のことを、岡田はすこしまぶしそうに語る。

「伊藤くん役では、普段なら絶対に言わないようなことを、散々言わせてもらいました。
自分だったら絶対にストップをかけることでも、役だからそのハードルを越えていける。
A~Eの女性たちのことをたくさん傷つけたけど、こんな役はあんまりないから、なかなかできない体験でしたね」

演じている役に影響されて、自身の言動が変わることはありますか? と尋ねてみた。
すこし考えて、あまりない、と答える。
そして彼は、一度はずした視線をまっすぐに戻しながら、言う。

「でも、思っていることをはっきり言うことは、すごく大切だと感じました。
日本人はなかなか言えないタイプの人が多いけれど、伊藤の思考は海外に近いと思えば、すごく納得できる。無駄なストッパーがないのは、素敵なことですよね。
僕は、すごくストッパーがある。本当は、なんでも言えたらいいなとは思いますけど」

しかし、さまざまな言葉や思いを自分のなかに溜めているからこそ、どんな芝居にも奥行きが生まれているというのは、考えすぎだろうか? 
そう思わせるくらい、彼の演じる役はいつも色とりどりの感情をまとわせて、そこに“存在”している。

自分と向き合い、人と関わりながら、光を増していく

俳優として、すでにキャリアは充分。
代表作といえるドラマや映画をいくつも持ち、等身大の役からアクの強い役まで、さらりとやってのける。
正統派の二枚目なのにちゃんと人間くさくて、ヘタレでも愛されるキャラクターを演じるのは、いまや岡田将生の独壇場ではないだろうか。
しかし彼は、昔から前に出るタイプではない、と言う。

「今回の映画は、7年前に『雷桜』でご一緒した廣木監督の現場。そのころから知っているスタッフさんには『大人になったね』なんて言ってもらったりしましたが、演じていくなかで『前に出ろ』とか『人に気を遣うな』と言われるのは、昔と同じでした。

自分のそういうところは好きじゃないし、変えたいと思っているけれど、なかなか変えられない。いつも『今日も言えなかったな……』って反省して『明日は頑張ってみるか』って思う」

明日になってもまたできなかったりするんだけど、と、眉を寄せて笑う。
自分とまっすぐ向き合うことは、それだけでも難しい。
岡田が多くのファンだけでなく、俳優仲間や監督たちにも愛される理由が、その素直な姿勢にも垣間見えた。

「でも、みんながみんな前に出る必要もない。
僕の中身を汲み取ってくれる人もいるし、汲み取らないことですごくいい方向に進めてくれる人もいる。
そういう“人と人とのバランス”を楽しめばいいのかな、って最近は思えるようになってきました」

自分の内側から、言葉を探るように話す。
変わらないことも、変わりたいと思うことも、変われないことも、悪くない。いまの自分を受け入れながら、周りの人と丁寧に関係を築いていけばいい。
みずからの意志をつらぬくことだけが、自分らしさではないのだろう。誰にも影響されることなく生きる伊藤でさえ、人との関わりのなかで、自分の声に耳をかたむけ直した。
もしかしたら“自分”の一面は、誰かとのコミュニケーションから見えてくるものなのかもしれない。

岡田がいつも見つめている「自分自身」と、私たちが見ている「岡田将生」。
彼らは絶妙に混ざり合って、これからもその魅力を増していく。

取材+文:菅原さくら 撮影:池田博美

映画『伊藤くん A to E』 絶賛公開中!
出演:岡田将生 木村文乃 / 佐々木希 志田未来 池田エライザ 夏帆 / 田口トモロヲ・中村倫也 田中 圭
監督:廣木隆一
配給:ショウゲート ©「伊藤くん A to E」製作委員会
公式サイト:http://www.ito-kun.jp

この記事のライター

1987年の早生まれ。ライター/編集者/雑誌「走るひと」副編集長。 パーソナルなインタビューや対談が得意です。ライフスタイル誌や女性誌、Webメディアいろいろ、 タイアップ記事、企業PR支援、キャッチコピーなど、さまざま...

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